コロナ禍で変わる自動車のニューノーマル

自動車研究家 イオ ケンタロウ

 新型コロナ感染症が再び拡大局面を迎えています。対策として非接触型社会が進み、仕事や学校、音楽ライブまでオンラインになりました。併せて、公共交通を避ける動きが広がり、その結果、移動手段としての車が見直されつつあります。昨今、声高に叫ばれていた自動車トレンドのCASEの中でも「シェアリング」や「MaaS」の状況が変わってきました。特に都市部で不特定多数の人が密集する公共交通を避けるための車への回帰が進み、シェアから個人が安全かつ自由に使える車が求められてきています。車離れと言われて久しい若者の間では、この機会に自動車免許を取得する人が増えました。ファミリー層では海外旅行に使っていた予算で高級車を購入し、自家用車を1台増やすなど、業界を取り巻く環境は悪いことばかりではありません。ドライブイン成人式の開催や、リモートワークでの〝快適な仕事場〟としての活用など、車への注目が高まっています。 

加速する電動化の流れ

  もう一つの流れは温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル実現に向けた自動車の電動化です。LGやソニーなどのIT企業の参入が進んでいます。ここでメディアのミスリードで誤認が多い電動化とEVの違いについて触れます。「政府などが2035年までに全てを電動車に…」などの報道がありますが、正確には「ガソリンだけで走る車の新車の販売をゼロにする」ということです。電動化=EVではなく、エンジン技術が禁止になるわけではありません。そして完全なEV化には充電設備の普及やバッテリー価格の問題、寒い冬のヒーター使用などさまざまな課題もあります。さらにはガソリン課税による税収の問題も。ハイブリッドを含む国内の「電動自動車」普及率はノルウェーに次いで世界2位ですし、そもそも自動車から出るCO2が全体の中で占める割合は低いものです。今世紀に入ってから車の燃費が急速に向上していることや発電方法などエネルギー政策までを含めて、総合的に冷静な議論と判断が必要です。

 40年前に出された2020年代の未来予想では、車が地上に浮くと言われており、20年前は世界的に燃料電池車の普及を踏まえた開発が進んでいたと記憶しています。これからは安全な移動手段として注目される自家用車が、本当に地球に優しい技術とともに普及することがテーマになります。現時点で航続距離に課題を抱えるEVは当面の間、街乗りを主体とする小型車で普及し、中・長距離用としてはプラグインハイブリッド需要が続く模様です。トラックや軽自動車をどうするかも大きな課題です。しかし、テクノロジーの進歩は目覚ましく、全固体電池の実用化など、鍵を握るバッテリーの進化で事態が急速に変わることも期待されます。 

 呼吸の自由さえ制限される時代に、クルマで自由に移動する喜びはますます大きくなると思います。一方、経済活動の鈍化で一時的に空気がきれいになったのも事実です。「交通機関の発達した都市で車を所有する意味はない」という流れは見直され、国内500万人以上が関わると言われる自動車産業に新しい風が吹き始めました。テクノロジーを進歩させながら、地球にも人にも優しいモビリティとして社会との調和が進んでいます。最後に、顧客とのリアルな接点を持つディーラーが、人と車の関係を再デザインし、顧客情報を生かしたさらなるサービスで、ますます地域社会に貢献されることを願っています。