Vol.1 有限会社寿木工
~現場DXで働きやすい職場づくり ウェブカメラやRPA活用~

◆◇◆企業を変えるテレワーク ー 県内企業の挑戦 ー ◆◇◆

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|寿木工


 東広島市安芸津町の山あいの地で木製の内装ドアや間仕切りなど住宅建材の製造・販売を手掛ける寿木工はICTを活用して、できることから着実に社員の働きやすさと生産性を高めている。住岡和美社長に話を聞いた。

テレワークに取り組んだ背景

― 人材確保に向けて着手

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|寿木工有限会社寿木工 / 住岡 和美 代表取締役社長
 山間部に立地するため、雇用の面で不利な点を持つが、働きやすい職場づくりに注力することで定期的な新卒採用や社員の定着につなげている。人材確保に向けたさらなる職場環境の向上を検討する中で、テレワークの導入を決めた。





具体的な取組

― ウェブカメラやRPAで作業効率化

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|寿木工
 テレワークを進める上での課題を、製造、受注・作業指示、社内の情報共有の3つの業務から抽出し、解決方法を検討した。
 製造の工程では、事務所と工場が徒歩10分ほど離れており、統括者が作業状況を目視で把握するために移動を繰り返す必要があった。そこで、工場全体の状況を遠隔で確認できるウェブカメラを計5台導入。事務所のパソコンで工場の様子を見て指示ができる体制を構築した。映像は常時録画し、3カ月分を※¹クラウドストレージに保存。後日でも現場の作業状況を確認・検証できるようにして、品質保証や労務管理の適正化につなげている。
 受注・作業指示の工程では、全社分の1日の業務指示書を作成するため、担当者は工場が稼働する90分前に出勤し、受注情報などを始業までにまとめる必要があった。早朝出勤や制限時間内に資料を仕上げることは心身ともに大きな負荷がかかる。そこで、取引先から届く受注情報を生産管理システムに取り込み、当日の生産計画を作成、作業指示書を送付するという一連の作業を、※²RPAを導入することで自動化。作業効率の向上に取り組んだ。その結果、担当者は出勤後にRPAで作成された指示書に読み取りミスがないかを確認するだけになり、負担は大幅に軽減された。
 社内の情報共有に関しては、現場の進捗状況や社内行事などの広報物を紙で各現場に掲示していたが、情報のデジタル化とリアルタイム共有が必要と考え、ビジネスチャットツール「LINEワークス」を導入。社員はスマートフォンのアプリから隙間時間に情報を確認でき、担当者は既読機能で周知状況を把握できるようになった。


導入後の変化・メリット

― マネジメント・コミュニケーションに変化

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 各業務におけるICTツールの導入を経て、テレワークの幅が大きく広がった。工場間をつなぐウェブカメラの映像はスマートフォンでも確認できるため、これまで出社が必須だった管理職もリモート勤務が可能になった。急に出社できなくなった時や出張時も現場の状況を確認してリアルタイムに指示を送れるため、現場社員の不安を減らし、マネジメントの質とスピードを維持できた。
 コスト削減にも効果があった。担当者3人分の仕事量をRPAでまかなえるため、月45万円のコスト削減につながり、業務の生産性が高まる結果となった。
 社内のコミュニケーションが円滑になったことも大きな利点だ。ビジネスチャットの導入によって、急な病欠やテレワーク時にも複数人に一斉連絡ができ、業務の引き継ぎなども円滑化。対面で話すよりも気軽にメッセージを送れて、若手が直接社長に相談する機会も増えた。


取組のポイント

― 試行錯誤と社内外の連携


 初期段階ではなるべく費用をかけずに、少しずつ改善しながら導入を進めた。最初からベストの状態で始めようとすると、予算との兼ね合いで足踏みをすることが多い。まずはできる範囲から始めて、試行錯誤しながら進めることが大切。社内広報物のデジタル化の検討では、デジタルサイネージを使う案もあったが、まずは安価なビジネスチャットを選んだ。当初は細かな課題があったが、都度解消していき、今は多くの社員が頻繁に利用している。
 月に1回の「DX会議」も有効だ。他社の取組や最新技術などについて1時間程度ざっくばらんに推進メンバーなどと話す。自社の社員だけでは情報が偏るため、会議にはITベンダーや機械メーカー、DXに取り組む取引先など外部の関係者も参加している。これにより他社の状況など幅広い情報を得られると同時に、やりたいことがあればその場でベンダーやメーカーに相談・確認し、実行の決断もできる。逆に、外部の参加者には、当社での取組や採用するシステムの情報を提供するなど、参加する全員が互いに有意義な会議となっている。

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|寿木工


今後に向けて

― 上司と部下つなぐ「呼び出しスイッチ」

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 現在は現場の作業員の困りごとに上司がより早く対応できるよう、工場内に「呼び出しスイッチ」を設置する計画を進めている。ボタンを押せば工場内のウェブカメラやマイクと上司のスマートフォンがつながる仕組みとなっており、映像を見ながら、双方向で適切な相談や指導を行うことができる。
 今回の取組で、社員が安心して活躍できる職場環境整備に弾みがついた。今後も改善を続けながら、さらに高い水準で働きやすい会社づくりを進めたい。

社員の声

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|寿木工管理課 / 中村 瑠美 さん
 現場への指示書や、伝票を作成しています。RPAの導入で受注・作業指示があっという間に完了したことにとても驚きました。今では時間に追われるストレスから解放されて、他の仕事にも集中できています。LINEワークスのチャット機能は、電話の取次ぎのためによく利用します。履歴が残るので伝え漏れや聞き間違いが減って便利ですし、工場に何度も確認の連絡をする手間がなくなり、業務のムダがなくなったという実感が大きいです。


用語解説
※¹クラウドストレージ

オンライン上でファイルを保管できる場所のこと。社外からでも閲覧や更新ができるほか、オフラインで保管するファイルサーバーに比べて運用に係る費用を安く抑えられるなどの利点がある。

※²RPA

ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)の略。コンピューター上で行われる業務や作業をロボットにより自動化するツール。ルーティンワークを効率化できる利点がある。

取材日:2023年7月

会社概要

有限会社寿木工
所在地:東広島市安芸津町大田白坂201
URL:https://ktbk.jp/
業務内容:木製内装建具などの製造
従業員数:35人

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍 取組サポートサイト「ヒントひろしま」http://hint-hiroshima.com
広島県商工労働局 働き方改革推進・働く女性応援課 TEL 082-513-3340