『横着者パワー』で業務改善
部署間連携や多能工化で生産性の高い組織に

株式会社ミクセル

取り組んだ背景
 ~長時間労働の常態化で若手の離職者が相次ぐ

 2008年に創業し、大学などの研究施設向けに医療・理化学機器の販売を手掛ける。代表取締役の島幸司氏は
「創業以来、『研究成果を社会に還元し、世に貢献する』というビジョンの浸透に力を入れ、従業員を信じて仕事を任せることで、やりがいをもって働いてもらえる社風づくりに取り組んできました。その結果、『自分の仕事が社会貢献につながっている』という誇りを胸に仕事にまい進してくれる従業員と共に成長してきました」
と話す。一方で、業界全体にある「長時間労働が美学」という風潮から、退社時間が午後10時や12時を回ることも多かったという。育児など家庭の事情に合わせて正社員がパート従業員となって短時間勤務で働きながら、育児が落ち着いた頃に再びフルタイムの正社員に戻れる制度などを従来から設けていたが、女性従業員が短時間で働くことに負い目を感じ、ほぼ活用できていない状況だった。島氏は
「ここ2~3年、20代を中心に中途で採用しましたが、長時間労働などを理由に定着してもらうことが難しく、せっかく採用した人材が育たず辞めていく状況に危機感を覚えました。共に働く従業員の人生を豊かにすることはもちろん、これから入社してくる将来の従業員の働きやすい環境づくりが急務だと考えました」
と取組を始めた理由を話す。取組に際し、まず島氏が従業員に向けて取組を宣言。外勤の営業、内勤の事務から1人ずつ推進リーダーを起用し、従業員の意見を吸い上げる形で改革に乗り出した。東京支店など各拠点にも推進担当者を置き、広島の2人の推進リーダーの思いや方針など情報を共有していった。

主な取組と工夫点

◆ノートPC・クラウドや非対面商談取り入れ、業務効率アップ
 「会社に来ないとできない仕事」を減らすため、全営業担当者にノートパソコンを支給。また、社外でも見積書、日報などを作れるように、業務システムをクラウド化して業務効率を高めている。また、新型コロナの影響もあり、打ち合わせや商談をWEB会議システムやメールなど非対面の手段に移行している。1日30件だった客先への訪問数がここ半年で10件前後に。島氏は
「最初は非対面の商談や打ち合わせに抵抗もあったが、やってみると顧客にもすんなり受け入れてもらえた。真面目にコツコツ取り組む社風で従業員が一生懸命働いてくれているからこそ、少ない労力でいかに早く仕事を終えられるかを考える『横着者パワー』が大事ですね」
と話す。

◆部署間連携強化し、生産性アップ
 担当外の業務でもスムーズに進められるよう、顧客情報や営業活動状況などの情報を外勤・内勤を問わず共有するようにしている。また、東京支店との連携を強化し、分からないことがあればメッセージアプリで連絡を取り合える体制に。レスポンスも早く、顧客対応の精度も向上している。また、内勤任せになっていた業務の一部を営業担当者が担うようになったことで、双方が製品の発注先などを把握出来るようになった。研究支援事業部課長の園下洋平氏は
「営業は個人戦のため一人で業務を抱え込みがち。担当者以外も対応できるようにすることで残業時間の削減や休暇の取得につながっています。部署間の連携強化により生産性が高まったほか、従業員同士の意見交換も活発になっています」
と話す。 また、従業員の多能工化を目指し、営業フローや個人の経験やノウハウを文章や図で表現したマニュアルを作成、スキルアップに活かしている。

◆残業削減へ週3日をノー残業デーに
 残業時間の削減に向け、火曜、木曜の週2日をノー残業デーに設定。20年10月から金曜も加え、少しでも早く帰宅するように呼び掛けている。島氏は
「長時間勤務が常態化し、子育てや家族イベントなどに参加できていない男性従業員が多くいました。ノー残業デーに早く帰って自分の時間や家族との時間を持つことで、より仕事に身が入るのでは」
と期待する。そのほか、子どもの送迎に合わせて就業時間を変更できるなど、従来からあった社内制度を改めて全従業員に周知し、利用を促している。

取組の中で苦労したこと
 ~働き方改革の本質に気付くまでに時間

 取組の当初は何から始めれば良いのかが分からず、納品物の管理や在庫整理などを行ってみたが、本質的な業務改善にはつながらなかったという。園下氏は
「業務改善や営業目標について話し合う毎週のミーティングなどを通じて、『単に働く時間を短くするだけでなく、短時間でも効率よく働き、生産性を上げる』という働き方改革の本質に従業員自らが気付き、次第に主体的な意見が出るようになりました。意見を基にメッセージアプリを活用した東京支店との連携強化などが始まり、労働時間の削減と生産性の向上が実現。従業員の有休の取得や残業削減への意識も高まっていると感じます」
と話す。

取組の成果 ~有休取得率が大幅に向上

 ノー残業デー、ノートパソコンやクラウドの導入、部署間の連携強化、在庫置き場の整理などの業務改善などにより、18年に1人当たり月平均35時間だった残業時間が、20年10月現在で29.5時間に減少。男性従業員を中心にほぼ0だった有休は、全従業員が5日取得している。園下氏は
「取組を通じて従業員同士のコミュニケーションが活性化。全従業員で時間をかけて『お客さまが本当に求めていることは何か』を考えるようになり、その結果、高額受注が増えました」
と話す。

課題や今後の目標 ~フリーアドレス導入や女性活躍推進

 「働き方改革はこれで終わりではなく、もっとできることがある」
と園下氏。効率よく働きながら、売上の向上も実現できるよう、毎日のミーティングでは前日の成功体験・失敗体験を従業員同士で共有、より効果的な営業手法を検討しているという。島氏は
「従業員の人材育成にもつなげていきたいという思いから、社内システムの開発を外部コンサルタント任せにするのではなく、従業員にも積極的に参加してもらっています。新しいアイデアの創出を目指し、自席を持たず自由に働く席を選べるフリーアドレスの導入も検討しています。また、女性の活躍も重要と考えており、一層働きやすい環境を整え、将来は女性幹部を誕生させたいですね」
と意気込む。

従業員からの評価

研究支援事業部 営業
山中 皓生 氏

 「かっこいい大人になろう」という人事理念に心を打たれ、自分の仕事に誇りを持てるようになりたいと入社を決意しました。18年5月に中途で入社し、見積もりや発注、総務経理などの事務を担当しています。家族との時間やリフレッシュのために有休を使っています。会社が取得を促してくれ、19年は5日取得しました。子どもが生まれたら育児休暇制度も活用したいですね。まだ男性の取得実績はありませんが、私が前例となることで、これからの後輩たちに安心して入社してきてほしいと思います。

取材日 2020年9月

会社概要

株式会社ミクセル
所在地:広島市中区富士見町8-7
URL:https://www.mixell.co.jp
事業内容:医療・理化学機器、試薬、消耗品の販売
従業員数:24人(男性13人、女性11人)
(2020年9月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com