マリーナホップ跡地の運営受託
モビリティ・エンタメの聖地へ地場自動車産業と連携

トムス(東京)谷本勲社長インタビュー

 商業施設の広島マリーナホップ(西区観音新町)が立地する県有地の利活用に関する県の公募に参加し、提案した計画「ひろしまモビリティゲート(仮)」で運営事業予定者に選定された。2025年3月から31年間運営を担う。レース事業などで培った知見を生かし、”アジア圏随一のモビリティ・エンターテインメントの聖地”を目指す方針を打ち出す。参画の背景、新施設に懸ける思いを聞いた。

―公募に応じた背景は。

 当社はトヨタ車向けのオリジナル部品開発を主体に、レーシングチームも長年運営している。自動車産業で若者の車離れがよく問題視されるが、これはわれわれ関連事業者が車に乗る機会や楽しさを十分に提供できなかったためだと思う。当社はその役割を果たすべく、コンテンツや技術開発に注力している。広島に限らず有望な場所を探していたところに今回の話を受けた。十分な広さがあり、ここなら思いを実現できると判断した。

    

―事業概要を教えてください。

屋内のEVカートレースや球体スクリーンによるVRコンテンツ、レーシングシミュレーターなど、モビリティー(乗り物)を中心とした体験型コンテンツを提供する。多目的サーキット広場は実際のフォーミュラカーの運転体験ができる。これらの「乗る楽しさ」に加え、「見る楽しさ」も追及する。カートやドローン飛行によるイルミネーションの光の演出や、レースの順位予想などの仕掛け、音楽や花火のイベントなど、幅広い層のにぎわい創出につなげる。

自動運転をはじめ、高齢者の運転講習へのシミュレーター技術活用など、次世代モビリティーの実証実験・研究開発の機能も持たせたい。これらの施設やイベントで、国内外から年間200万人超の集客を目指す。

―御社の持つノウハウ、強みは。

 レース参戦を通じて車に乗る楽しさを追い求めてきた。近年はEV技術を活用したカートの開発を手掛けている。電動化することで、主流のエンジン車の騒音や火気の問題を解消し、市街地の屋内でも走行できる。年内に国内にEVカート場の開設を計画している。デジタル空間でのシミュレーター技術も開発。モータースポーツのほか、例えばボブスレーやドローンに乗る疑似体験も可能だ。これらの技術を施設に盛り込む。同様の施設は国内そして海外でも珍しい。この広島モデルを成功させ、自動車市場の成長が続くアジアにも展開したい。

―地場自動車産業との連携は。

 自動車販売店による車両展示やカスタムショップの物販などの「モビリティ棟」を設ける。販売店はトヨタに限らず国産や輸入車を含めてさまざまなメーカーの販売店と連携を進める。自動車産業が集積する広島において、マツダとの連携は不可欠であり、近く同社を訪ねる予定だ。冒頭で述べた通り、自動車産業が抱える課題は共通しており、メーカーの垣根を越えて「オール広島」、「オール自動車産業」で盛り上げる施設にしたい。サーキット広場を活用した販売店主催のイベントは新たな顧客創造につながると信じている。
 車の楽しみ方の一つにオリジナルパーツを使ったカスタマイズもある。多様な技術を持つ県内の部品メーカーとの連携を模索し、カスタマイズの魅力も伝えていければ。

―広島のポテンシャルは。

 広島は国内有数の観光名所を有するが、「散策型」が中心で滞在時間が短く宿泊せずに通過されてしまうことが課題の一つだ。新施設は体験型に特化し、来場者の一定の滞在時間を見込める。既存の観光施設と連携して相互に送客し合える存在になりたい。

―今後の計画と抱負をお願いします。

 夏までに大枠を固め、秋から具体的な検討に入る。25年3月の引き渡しと同時に着工し、26年度中の開業を目指す。 自動車業界は100年に一度の大変革期と言われ、この激動の中にいることを光栄に思う。培ったノウハウを駆使し、やりつくしたい。

【プロフィル】1970年8 月28日生まれ、東京都出身。中央大学を卒業し、パソナ、外資系IT会社を経て、97年にIT会社を設立。同社を売却しコンサルティング会社へ。事業承継のコンサル先でトムスと出会い、事業構築と後継者育成のために2018年に入社し社長に就いた。当初3 年限定の予定だったが、「この事業に生涯を懸ける」と宣言したという。

※写真はいずれも現広島FMP開発事業用地の利活用に係る公募結果 提案概要書から

広島経済レポート22年3月3日号掲載記事