大崎上島の高校生が作った「島の仕事図鑑」
「キャリア教育連携表彰」で最優秀賞

広島経済レポート

 2014年に統廃合の危機に直面した大崎上島の県立大崎海星高校が取り組む「島の仕事図鑑」が見事、文部科学省と経済産業省の「キャリア教育連携表彰」の最優秀賞に輝いた。1学年1クラスの小規模校が、全国5000校を超える高校の中の頂点に立つ快挙となった。
 島で働く人々に目を向け、さまざまな質問をぶつける。高校生の真っ直ぐなインタビューに答え、仕事のことや島のことを語る、その表情を捉えた写真を添える。図鑑は回を重ねて冊子8冊を制作。

 さかのぼること8年前。県教育委員会が「今後の県立高等学校の在り方に係る基本計画」を発表し、同校が統廃合の検討対象となった。このままでは地元から公立高校がなくなるかもしれない。そうした危機感が高校生や地域を動かした。
 自治体が県立高校を全面的に支援する「高校魅力化プロジェクト」の一環で、島の仕事図鑑づくりがスタート。地域のパン屋、理容師、電気屋、警察官、漁師などの職場を訪れてインタビューを行った。事前にプロのライターから記事の書き方を、カメラマンから写真撮影を教わり、入念に準備。取材を通じて島での働き方などを学んでいった。
 こうした高校生のキャリア教育は産業界を巻き込み、それまで途絶えていた地域と学校をつないだ。大崎上島町商工会の小川裕壮会長は、
「仕事図鑑は生徒たちの目線で仕事の魅力や、やりがいなどを生き生きと伝えている。学校と地域が連携するきっかけとなり、子どもたちのキャリア感とふるさとへの思いを劇的に変えた。地域住民にとっても高校への理解や共感を高め、島での暮らしや仕事に対する新たな誇りを芽生えさせた。そして新たな魅力化企画を生み出す原動力となり、次々と素晴らしい化学反応を起こした。これからも学校と地域が問題や課題に知恵を出し合い、話し合いを重ね、多くの失敗も重ねながら解決に向けて挑戦し続けたい」

 教室を飛び出し、島のことや人を知ることから始めた生徒らに思いがけない発見があり、感動があったのではなかろうか。調べる、考える。教育の原点を改めて示唆しているように思える。今回の受賞理由として、
・毎年関係者間で理念を再構築し、新しい動きを生み出すなど、組織的な取り組みで魅力化プロジェクトの持続・発展が支えられている。
・汎用性のある好事例として広がりを見せる。学校と保護者、地域住民が共に知恵を出し合い、「地域と共にある学校づくり」を進めるコミュニティ・スクールとして着実に歩んでいる。地域で育ち、働く人が増えるなど着実に成果が上がっている。
-など。

 仕事図鑑は昨年、島を飛び出し「ひろしまの仕事図鑑」へと発展。県内公立高校5校による学校間連携地域協働学習となった。弊誌を発行する広島経済研究所とも連携し、サイト「ひろしま企業図鑑」へも掲載。北海道や宮崎県の高校にも波及していった。今年1月から海外へ広まり、上海日本語学校で仕事図鑑をトライアルで制作。学校のカリキュラムへの反映を検討するプロジェクトが始まった。
 生徒が働く人の個性に触れて、地元のことや生きることを学んだ価値は大きい。

広島経済レポート22年3月17日号掲載記事

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