Vol.1 賀茂鶴酒造株式会社
~ 大学生が東広島市の企業5社をインタビュー ~
◆◇◆「東広島ではたらこっか」東広島市学生インタビュー企画【2023年】◆◇◆
学生が地元経営者をインタビューすることで、地域で輝く企業に目を向け、思考を深め、広島での就職意識を高めてもらうプロジェクト。県内外の大学生が2022年の夏、東広島市の企業を訪問し、インタビューしました。
第1回は創業150年、東広島を代表する酒造メーカー、賀茂鶴酒造株式会社の石井 裕一郎社長に、会社の歴史や地域企業としての想いなどを聞きました。
― 会社の歴史を教えてください。
2023年で創業150周年を迎えます。木村和平が酒造りを始め、1873年に酒銘を「賀茂鶴」と命名しました。1917年、大蔵省主管日本醸造協会主催の第6回全国酒類品評会で全国初の名誉賞を受賞。翌年後継者である木村静彦が株式会社組織にしました。
― 創業から150年、守り続けてきたことは。
創業以来守ってきた精神「酒の中に心在り(酒中在心)」を大切に、おいしいお酒を造り続けることです。これまで先人たちは、酒質の向上を目指し続けるとともに、「新しい価値」を世に問い、そしてそれをお客さまに育てていただきました。1958年には「大吟醸特製ゴールド賀茂鶴」を大吟醸酒の先駆けとして発売。65年頃から銀座の名店として知られる「すきやばし次郎」をはじめ、さまざまな飲食店でも長く愛用されたことで、2014年には安倍晋三元首相(故)とオバマ米前大統領との食事会で「ゴールド賀茂鶴」が振る舞われるなど注目を浴びました。
最近は研究が進み、業界全体の酒質のレベル・おいしさが向上しています。お客さまの嗜好に合わせて近年では甘酸っぱいフルーティーなお酒など、各社それぞれの酒蔵の個性が求められる傾向があります。当社では伝統的な味・お客さまの趣向に合わせた味両方で品ぞろえするなどの工夫をしています。伝統と流行の両方でバランスをとりながら、おいしい酒造りを続けたいです。
― 最近の酒類業界の動きは。
コロナ禍で業界全体が厳しい状況です。文化庁が2024年11月の登録を目指し、国連教育科学文化機構(ユネスコ)の無形文化遺産に「伝統的酒造り」を推す動きがあります。25年には大阪万博開催も控えており、インバウンド(訪日外国人客)回復を念頭に酒蔵ツーリズムの開発を進めています。蔵が存続しなければ伝統文化も継承できません。このほかにも、嗜好品であるお酒の生き残り方を、時代の変化やライフスタイルに合わせて模索しています。
― コロナ禍で家飲みが増えました。
「ステイホーム」が呼び掛けられ、家飲みが増えて、日本酒は大手メーカーが製造する低価格のパック酒がよく売れました。家計への負担もありますからね。当社の直売店では品ぞろえを豊富にしたり、商品価値を訴求できるように売り場づくりを工夫したほか、ECサイトでポイントキャンペーンを実施するなど、価格は少し高いけれど買ってみようかなと思える売り方を試し、一定の効果はでました。このほか、地元企業の加工食品とセットで販売したり、市や、行政が観光による地域づくりを戦略的に展開するために設立したDMOと観光ツアーを造成するなど、他の事業者と協力することで相乗効果を生めるよう努力をしています。
― 若い世代にどのように日本酒を提案していますか。
なじみの薄い若い世代には日本酒というのはハードルが高く感じる人がおり、他のアルコールと割って飲む「日本酒カクテル」レシピなどを提案しています。例えば、トニックウォーターと日本酒を2対1で割ると飲みやすい。
また、料理と合う酒を提案する「ペアリング」にも力を入れています。日本酒は薫酒・熟酒・爽酒・醇酒の四つに分けられます。薫酒は香りが良く、大吟醸やゴールド賀茂鶴などで例えば焼き鳥やタコのマリネなどが合います。熟酒は古酒などで飲んだ時にガツンとくる風味が特徴で、味の濃い料理やスパイスをきかせた料理にぴったり。爽酒は本醸造系ですっきりとした味わいで刺身や冷奴と相性が良い。醇酒は純米酒などでコクがあり、ぶり大根やおでんがおすすめ。ただ、ペアリングは自分の舌によって変わるので好みを知るためにも利き酒をすることが大事です。利き酒やペアリングは新しい発見ができ、面白いですよ。
― 地域企業としての意義や責任は。
例年、県内外から約25万人が訪れていた大きなイベントだった「酒まつり」がコロナ禍で中止になりました。何かできることはないかと、オンラインでの利き酒会を企画しました。事前に当社のお酒や東広島市の加工食品をECで購入してもらい、当日にお酒の解説や料理とのペアリングの提案をしたほか、酒蔵案内をするなど、オンライン上で行いました。酒まつりの規模には及びませんが、この新しい取り組みが少しでも東広島のPRにつながったのではないかと思います。22年は3年ぶりにリアル開催できました。制約がある形での実施でしたが、地元酒蔵にとっては待ちに待ったイベントで活気が戻ったように感じます。
― 経営で大切にしていることは。
ファンづくりを大切にしています。例えばメルマガでの情報発信や杜氏が自ら案内する酒蔵ツーリズムなどを通して、まずは賀茂鶴を知って好きになってもらう。その方が複数回購入していただくロイヤルカスタマーになってくれると考えています。また、この先も長きにわたり賀茂鶴が飲まれ続けるために、若年層のファンを育てることも大切です。そこで、園児たちの酒米の田植え・収穫体験や児童が対象の酒蔵見学、飲酒マナーなどを教えるお酒の成人式に取り組んでいます。こうした経験を原体験に残す子どもたちが、大人になって、新たなファンになってくれたらいいですね。お酒づくりの伝統・歴史を伝えていくことも、日本酒文化を守っていく使命だと感じています。
代表取締役社長 / 石井 裕一郎 1965年11月10日生まれ、東広島市出身。早稲田大学政治経済学部を卒業後、89年に日本放送協会(NHK)入局。大阪放送局チーフ・プロデューサー、広報局広報部経営広報副部長、編成局計画管理部副部長などを経て2017年退職。同年に賀茂鶴酒造入社。常務、専務、代表取締役副社長を経て22年10月から現職。
私たちがインタビューしました
身近な業界と思っていましたが、取材を通じて、新しい発見がたくさんありました。日本酒の伝統文化を大切にしながら、時代の変化に合わせた飲み方やたしなみ方を提案する賀茂鶴酒造の姿に感銘を受けました。 植田 貴哉(広島経済大学3年生)
賀茂鶴を愛してもらうため、ファンになってもらうため、レストラン運営や観光、動画配信や酒米の田植えイベントなど多様な取り組みをされていることを知りました。酒造りとファンを大切にするという強い思いを感じました。 山本 悠斗(神戸大学3年生)
酒造りに対する思いと地元愛を強く感じました。目先のことだけでなく未来を見据えた、さまざまな取り組みを行う積極的な姿勢が印象的でした。日本酒と料理のベストなペアリングを見つける楽しみができました。
住田 名優(広島経済大学3年生)
取材日:2022年8月
会社概要
賀茂鶴酒造株式会社
所在地:〒739-0011 広島県東広島市西条本町4-31
設 立:1918年
資本金:1000万円
従業員数:99人
TEL: 082-422-8008
URL:https://www.kamotsuru.jp/
事業内容:清酒「賀茂鶴」の醸造および販売
※2022年8月当時の情報です。