変貌を遂げる広島市街地2021
再開発・大型プロジェクト

【中央公園一帯】

　広島市は２０年３月、旧市民球場跡地や広島城などを含む中央公園一帯の在り方について、イベント・集客、スポーツ・レクリエーション、歴史、文化芸術、こどもの５つのゾーンに区分けした基本方針を決めた。１１月には旧球場跡地（約４・６㌶）の「イベント・集客ゾーン」の整備方針の素案をまとめた。大小さまざまなイベントを年間６０日以上開く広場や、１０００平方㍍程度の屋根があるオープンスペース、２階建てまでで延べ４０００平方㍍以下の飲食・物販施設などの整備を盛り込む。整備から運用まで民間のノウハウなどを活用するパークＰＦＩを導入する。２３年３月のオープンに向け、今年３月から設計・整備を担う民間事業者の公募を始める。
　中央公園広場や県立総合体育館などがある「スポーツ・レクリエーションゾーン」は２４年の開業に向け、サッカースタジアムを建設する。広島の新たなシンボルとして県全体の活性化や国際交流、平和発信の拠点とする。パークＰＦＩを採用し、２０年１０月から設計・施工を担う事業者の公募を始めた。臨場感や一体感を高める形状、周辺との調和など２０の審査基準を設け、３月に優先交渉権者を決める。都心に立地する「街なかスタジアム」の特性を生かし、年間を通じて県内外から人が集う施設を目指す。試合のない日の活用方法や街中にふさわしい魅力ある空間づくりを検討する。
　広島城周辺の「歴史ゾーン」は天守閣の耐震改修、展示機能の充実を図る。三の丸の観光バス駐車場には、にぎわい施設などの整備を計画。中央バレーボール場は廃止し、観光バス駐車場の整備を検討する。ひろしま美術館周辺の「文化芸術ゾーン」は、こども文化科学館、こども図書館、中央図書館、映像文化ライブラリーの集約・多機能化に加え、質の高い文化芸術を鑑賞できるホールやコンベンション機能などを持つ施設の整備を検討する。
　「こどもゾーン」は、こども文化科学館とこども図書館の北側の中央公園内への集約・多機能化を図り、ファミリープールは中央公園内または域外への移転を検討する。広島城の南に位置する中央テニス場は移転し、跡地には新たな都市機能の導入を検討する。

【紙屋町・八丁堀地区】

　中区の市営基町駐車場・駐輪場一帯（基町相生通地区）では複合ビルなどを建設する再開発計画が進む。コーディネーター役を務める都市再生機構が事業化検討パートナーを募り、２０年６月に朝日ビルディングを代表に朝日新聞社、オリックス、竹中工務店の４社でつくる「朝日グループ共同企業体」を選んだ。
　事業区域は駐車場を中心に西隣の中電基町ビル、道路を挟んで南側の広島朝日ビル跡地の約１㌶。地権者は広島市、中国電力、朝日新聞社、朝日ビルディングの４社に加え、広島商工会議所が参画する。国際的なビジネス環境形成につながる高度業務機能をはじめ、にぎわいと交流機能、観光・文化・情報発信機能などの充実・強化などを目指し、用途にはオフィス、変電所、市営駐輪場、ホテルなどが候補に挙がる。
　広島商工会議所ビルは１９６５年の完成から築５５年を超え、建物・設備の老朽化が課題となっている。広島商議所は所有する既存ビルとの資産（土地・建物）交換条件などで広島市と合意に至った後、同再開発に地権者として加わる。
　フタバ図書ギガ本通店跡地は２１年３月に取り壊し、２２年３月末に５階建ての新たな商業ビルに生まれ変わる計画。新ビルを企画管理するゼネラル興産の山本一副社長は、「本通で１００平方㍍を超える角地物件は珍しい。新たなシンボルになれるよう、ただテナントを募集するのではなく、まちの活性化策を一緒に考えていきたい。人の流れが生まれる商業施設を目指す」　　　

【広島駅周辺】

　広島駅周辺の再開発では駅北部の二葉の里地区などの整備が先行し、これから駅ビルと南口広場の整備が本格化する。広島駅ビルは２５年春の開業を目指し、地上２０階・地下１階で、商業施設やホテル、シネコンなどが入る施設に生まれ変わる。
　南口広場の再整備は１９年１１月に環境影響評価と都市計画決定手続きなどを終え、実施設計を策定している。２階の交通広場は高い位置に屋根を設け、自然採光や自然換気を取り入れ、眺望が楽しめる開放的な空間にする。デッキの一部には、来訪者と市民が集い、にぎわい、交流できるイベントスペースを設ける。南口にある広島東郵便局（南区松原町）はオフィス主体の２０階建てビルに建て替え、２２年秋ごろの開業を目指す。長年待ち合わせ場所として親しまれてきた駅前広場の噴水は新たに設けるマイカー乗降場に移す。
　２階の交通広場に広島電鉄の路面電車が高架で乗り入れることから、駅前大橋ルートの整備も進む。猿猴橋町を通るルートを廃止し、稲荷町電停から駅前通りを通り、駅ビル正面から乗り入れるルートとする。駅と紙屋町・八丁堀地区のアクセス時間を４分短縮できる。廃止される猿猴橋町の走行空間は歩道の拡幅や、自動車空間として活用し、交通の円滑化や快適な環境の創出につなげることを検討。的場町駅は残し、段原から皆実町を経由して紙屋町・八丁堀を通る循環ルートを新設することで、利便性の向上を目指す。
　再開発の進展により新たなまちへと生まれ変わりつつある同地区において、１８年５月設立のエリアマネジメント団体「広島駅周辺地区まちづくり協議会」が主体となって集客力や回遊性を高める各種イベントを企画・開催している。２０年１２月下旬から南口地下広場での商業広告掲載が可能となり、得られた収益をもとにさらなるにぎわい創出に取り組む。

【広島西飛行場跡地】

　2012年に閉鎖した広島西飛行場の跡地。北側から▽広域防災、▽新たな産業（雇用）、▽スポーツ・レクリエーション、▽新たな産業（にぎわい）の４ブロックに分け、利用計画を策定。県は雇用ゾーンの事業予定者に大和ハウス工業を選び、同社が１９年５月から産業団地「広島イノベーション・テクノ・ポート」の開発に着手。北側約８㌶を６つに分けた内の１区画に、中四国地区最大の物流施設「ＤＰＬ広島観音」を２０年６月に着工し、２１年１１月に完成予定。ほか３区画も契約済みという。
　スポーツゾーンは、１８年に広島商議所が国際会議など「ＭＩＣＥ」施設の建設候補地とする提言を行ったため、県が整備可否を検討する間、市は計画を一時休止していた。２０年１月に県が着手見送りを決めたことで、市は同ゾーン北側に多目的スポーツ広場の整備計画を再開した。２１年度から造成工事を始め、２３年に完成を計画。南端のにぎわいゾーンは計画が具体化していない。

【商工センター、市中央卸売市場】

　施設の老朽化が進む広島市中央卸売市場中央市場（西区草津港）は、現地での建て替え計画が進む。１９年３月策定の基本計画で、品質・衛生管理の高度化や物流拠点としての機能充実、にぎわい機能の導入などを掲げ、青果、水産、花きの卸売場３棟と関連１棟を順次建て替え、３０年代初頭の完成を目指している。
　２０年２月に鹿島建設を代表とするグループ、五洋建設、大和ハウスグループの３者を対話事業者に選び、計画概要などの検討に着手。２０年度で施設配置や事業手法などの基本設計をまとめ、２１年度に事業者選定などに取り組む計画だ。
　㊯広島総合卸センター（商工センター）はＪＲ新井口駅から中央市場に続く一帯に西日本最大級のメッセ・コンベンション施設などを誘致・整備する再開発構想を描く。国の助成事業である「卸商業団地機能向上支援事業」に採択され、２０年度から「街づくり事業委員会」で街づくりの方向性などを検討。コンサルタントにＧＫデザイン総研広島を選び、より実現可能性の高い計画にまとめる作業を進める。完成後の街を視覚的にイメージできるように、本年度から２カ年で３Ｄ（３次元）映像を採用したビジュアル提案を制作。整備構想の早期実現を目指している。

【アストラム延伸、道路整備】

　1999年の基本計画策定から、財政難を理由に先送りされていたアストラムラインの延伸計画は事業化が決まり再始動している。
　現在の終点である広域公園前駅（安佐南区）からＪＲ西広島駅までを「西風新都線」（延長７・１㌔）とし、佐伯区の五月が丘団地や大型商業施設「ジ・アウトレット広島」などに新たに６駅を設置する。概算事業費は約５７０億円を計画。２２〜２４年頃に用地買収、工事着工し、２５〜２７年頃に石内東地区まで部分開業。全線開業は２９〜３１年頃を予定する。
　市民から事業に反対する声は少なく、地域の活性化や利便性向上を期待する声が多い。西広島駅は西風新都線の接続駅となり、３階にアストラムラインの駅が設置される見通しで、ＪＲ、広島電鉄、アストラムラインの３つが集結する駅となる。３社とバスの乗換利便性の向上を図るため、自由通路などの整備、南口駅前広場の再整備、北口駅前広場とアクセス道路の整備に取り組んでおり、２２年度末までの完成を目指す。西広島駅に隣接する、ひろでん会館跡地には、広島電鉄が２０年２月に広場を中心とする憩い、くつろぎ、交流の拠点「コイプレイス」をオープンした。イベント開催や飲食を中心とした新たなコミュニケーション広場として３年間に限って暫定活用する。
　道路ネットワークの充実と強化への動きも活発だ。東広島バイパスとの連結を計画する広島南道路は、東部の海田大橋出入口と海田西ＩＣまでの２・２㌔を延伸し、２２年度に全線開通を見込む。西広島バイパスでは、完成時期は未定だが、東部の観音本町から平野町までの２・３㌔の延伸事業が２０年度に再開された。市域における災害時の緊急輸送道路ネットワークとしても重要な役割が期待されている。広島高速道路５号線事業は２２年度に本線完成、２４年度に２号線・５号線連結の完成に向けて事業を進める。