中央公園、紙屋町~広島駅、アストラムライン
広島の再開発・大型プロジェクト

変貌を遂げる広島市街地

 広島市内で大型の再開発プロジェクトが進む。都心部に老朽化したビルが増える中、2018年10月に税制や規制緩和で優遇される国の都市再生緊急整備地域に紙屋町・八丁堀地区が指定された。同地区とJR広島駅周辺は、さらなる優遇を受けられる「特定都市再生緊急整備地域」への格上げを目指し、広島市が国と協議を進めている。指定されれば中四国地区で初となり、これまで以上に再開発に弾みがつく。
 懸案だったサッカースタジアムの建設地が中央公園自由・芝生広場に決まり、同公園一帯の再整備が検討されているほか、広島の陸の玄関口である広島駅周辺でも大規模な開発が控え、中心市街地はこれから様変わりする。
 アストラムライン延伸や西広島バイパスの高架延伸事業など、都市機能を向上させる交通ネットワークの整備も動き始めている。

【中央公園一帯】

提供:広島市

 旧市民球場跡地を含む中央公園一帯。跡地活用やサッカースタジアムの建設地を巡り硬直状態が続いていたが、広島市、広島県、広島商工会議所の3者が19年5月にサッカースタジアムを同公園自由・芝生広場に建設する基本方針を策定したことで、公園一帯の再整備の計画が動き始めた。
 広島市は11月に基本方針を発表。広島城や球場跡地、スタジアム建設地を含む約42・8㌶を、スポーツ・レジャー、イベント・集客、歴史、文化芸術、こどもの5つのゾーンに区分け。スタジアム候補地や県立総合体育館などがある「スポーツ・レジャーゾーン」は、スタジアムを広島の新たなシンボルとして、県全体の活性化や国際交流、平和発信の拠点とする計画。スタジアムは19年度で基本計画を策定、20〜23年度に基本設計、実施設計、建設工事を経て、24年の開業を目指す。サッカーJ1のホーム試合数は年17試合で、サッカー場としての利用が限られることから、試合のない日の活用方法や街中にふさわしい魅力ある空間づくりが求められている。
 旧球場跡地や青少年センターなどがある「イベント・集客ゾーン」は、20年度の早い時期にイベント広場などの概要を策定する方針で、24 年ごろまでにイベント広場として整備する計画。南に位置する平和記念公園や水辺空間と一体となった緑豊かなオープンスペースとし、飲食物販施設のほか、年間を通じてさまざまなイベントを誘致。若者を中心に多くの市民、観光客を引き付け、にぎわいともてなしを感じられる場とする。
 「歴史ゾーン」は広島城の天守閣の耐震改修、展示機能の充実ほか、中央バレーボール場の廃止を検討し、観光バス駐車場の整備を計画。「こどもゾーン」は、こども文化科学館とこども図書館の公園内への集約・多機能化を、ファミリープールは公園内または域外への移転を検討する。広島城の南に位置する中央庭球場は移転案を盛り込み、移転後の跡地は公園区域から外し、新たな都市機能の導入を検討する。 

【紙屋町・八丁堀地区】

 中区の市営基町駐車場・駐輪場一帯に複合ビルなどを建設する再開発事業。広島商工会議所ビルの建て替え・移転先としても検討が進む。広島市は、紙屋町・八丁堀地区での官民連携のリーディングプロジェクトと位置付ける。オフィスビルのほか、国際的に競争力のあるホテルなどを誘致し、ビジネス環境の整備と、にぎわい・交流の促進を担う施設を目指す。
 事業区域は、市営駐車場を中心に、西隣の中電基町ビル、道路を挟んで南側の広島朝日ビル跡地の約1㌶(道路中心まで含む面積)。地権者の広島市、中国電力、朝日新聞社、朝日ビルディングの4社に加え、広島商工会議所が参画。コーディネーター役を務める都市再生機構(UR都市機構)が民間事業者から事業化検討パートナーの募集を進めており、20年4月以降にパートナーを決め、具体的な事業計画策定に入る。
 広島商工会議所ビルは築54年がたち、建物・設備の老朽化が課題となっている。18年9月に広島市から市営駐車場エリアの再開発検討に併せたビル移転・立て替えの提案を受けた。会議所は既存ビルとの資産(土地・建物)交換条件などで合意に至った後、地権者として参画予定。
 広島銀行は、21年の開業に向けて新本店ビル(紙屋町)の建て替え工事を進める。地上19階、地下1階建て。総合金融サービスグループとしての機能のほか、防災機能の強化と環境に配慮した建物とする。本通り商店街で建て替えが進む広島アンデルセン(本通)は、20年8月のリニューアルオープンを予定。大型商業施設サンモール(紙屋町)を中心とする紙屋町2丁目2番地区一帯の再開発のほか、家電量販店のヤマダ電機などが営業する天満屋八丁堀ビル(胡町)でも建て替えが検討されている。   

【広島駅周辺】

提供:広島市

 広島駅周辺の再開発では、駅北側の二葉の里地区などの整備が先行し、これから駅ビルと南口の整備が本格化する。広島駅ビルは25年春の開業を目指し、19年12月に着工。地上20階、地下1階建てで、商業施設やホテル、シネコンなどが入る施設に生まれ変わる。「広島アッセ」は20年3月末に閉館する。
 南口の再整備は、19年11月に環境影響評価と都市計画決定手続きなどを終え、実施設計を策定している。20年12 月までの着工を目指す。2階の交通広場は、高い位置に屋根を設け、自然採光や自然換気を取り入れ、眺望が楽しめる開放的な空間にする。デッキの一部には、来訪者と市民が集い、にぎわい、交流できるイベントスペースを設ける。南口にある広島東郵便局(南区松原町)は日本郵便(東京)が、オフィス主体の20階建てビルに建て替え、22年秋ごろの開業を目指す。
 2階の交通広場には、広島電鉄の路面電車が高架で乗り入れることから、駅前大橋ルートの整備も進む。猿猴橋町を通るルートを廃止し、稲荷町電停から駅前通りを通り、駅ビル正面から乗り入れるルートとする。駅と紙屋町・八丁堀地区のアクセス時間を4分短縮できる。廃止される猿猴橋町の走行空間は歩道の拡幅や、自動車空間として活用し、交通の円滑化や快適な環境の創出につなげることを検討。的場町駅は残し、段原から皆実町を経由し紙屋町・八丁堀を通る循環ルートを新設することで、さらなる利便性の向上を目指す。   

【アストラム延伸、道路整備】

提供:広島市

 1999年の基本計画策定から、財政難を理由に先送りされていたアストラムラインの延伸計画は事業化が決まり再始動した。現在の終点である広域公園前駅(安佐南区)からJR西広島駅までを「西風新都線」(延長7・1㌔)とし、佐伯区の五月が丘団地や大型商業施設「ジ・アウトレット広島」などに新たに6駅を設置する。概算事業費は約570億円を計画。22〜24年ごろに用地買収、工事着工し、25〜27年ごろに石内東地区まで部分開業。全線開業は29〜31年ごろを予定する。市民から反対意見は少なく、地域活性化や利便性向上に期待する声が多い。
 西広島駅は西風新都線の接続駅となり、3階にアストラムラインの駅が設置される見通しで、JR、広島電鉄、アストラムラインの3つが集結する駅となる。3社とバスの乗り換えの利便性を向上するため、自由通路などの整備、南口駅前広場の再整備、北口駅前広場とアクセス道路の整備に取り組んでおり、22年末までの完成を目指す。西広島駅に隣接する、ひろでん会館跡地には、広島電鉄が20年2月に広場を中心とする憩い、くつろぎ、交流の新拠点「コイプレイス」をオープンする。イベント開催や飲食を中心とした新たなコミュニケーション広場を想定。3年間に限った暫定活用として整備する。
 道路ネットワークの充実と強化への動きも活発だ。東広島バイパスとの連結を計画する広島南道路は、東部の海田大橋出 入口と海田西IC(仮称)までの2・2㌔の延伸工事を19年度中に着工。西広島バイパスは、東部の観音本町から平野町までの2・3㌔の延伸事業を、20年度から再開する見込みだ。市域における災害時の緊急輸送道路ネットワークとしても重要な役割が期待されている。広島高速道 路5号線事業は「第5回変更整備計画」を申請手続き中で、22年度に1号線との連結、24年度に2号線(府中仁保道路)と連結する計画。