外国人観光客の長期滞在へ
あいさつ特区やナイトツアーでおもてなし
広島の観光ポテンシャル【後編】
広島では欧米を中心に外国人観光客が増えており、異業種からの観光事業への参入が増えている。富裕層へのクルージングツアーや夜の街の体験など、各社はさまざまなもてなしを構想しており、経営トップに「広島の観光ポテンシャル」を語ってもらった。
外国人と気軽に話せる場の創出へ
広島県観光連盟 佐々木 茂喜 会長(オタフクHD社長)
-広島の観光ポテンシャルについてどうお考えですか。
2030年の日本は外国人があふれていると思います。県ごとに名物料理があり、500円でおいしいご飯が食べられるのは世界中見渡しても日本だけ。新幹線が遅れずに来ることは、彼らにとって奇跡。広島は「日本の縮図」と言っても良いほど。2泊3日で来ると、日本を丸ごと経験できる。世界遺産が2つあり、広島城もあって、海と山、田舎と都会の両方がコンパクトな中にある地域は他にないと思います。私たちにとって瀬戸内海の島々の風景は当たり前ですが、外国人にとっては〝ワンダフル〟となります。当たり前すぎて価値を見いだしていない。
-宿泊や消費額が少ないことに課題があります。 滞在日数や客単価を伸ばそうという動きになっていますが、まずは外国人に満足してもらう施策を検討すべき。楽しめるコンテンツがないのに外国人は宿泊してくれません。私たちは2つの世界遺産といった恵まれた資源を持っていますが、外国人は本当にそれだけを目当てに来ているのでしょうか。例えば、ゲストハウスに宿泊している外国人は5㌔、10㌔を平気で歩きます。彼らが体験したいのは広島の人たちの普通の生活や日本の文化ではないか。彼らは広島が歩き回りやすい街と気付いています。そして、SNSで情報交換をして、地元住民が行くところに訪れています。
こうした体験をもっと多くの外国人に広めたい。現在、一般市民レベルでできるおもてなしのきっかけとして、平和公園周辺で「あいさつ特区」という構想を考えています。世界各国のあいさつを掲示した看板を設置し、まずは特区の中だけでも外国人と気軽にコミュニケーションを図れる場所とする計画。外国人観光客が広島の何を楽しみにしているのかを研究し、彼らの満足度を高めるコンテンツを育ててほしい。民間人のおもてなしに触れることで、広島をSNSで広めてくれるはず。
以前は宿泊業と旅行業と運輸業が観光の中心でしたが、最近はサービス、物販、飲食業などが加わり、複雑化しています。それらの取りまとめ役が必要で、なかなかハードルは高い。一方で、民間企業同士の連携は大いに可能性がある。広島は産業も発達しているし、街もきれいで、ホスピタリティもあります。そうした良さを各企業が持ち寄り、面白いコンテンツを生み出してほしい。
インバウンドによるにぎわい創造へ
田中電機工業 蔵田 和樹 社長
-観光関連事業の子会社「スマートコムシティひろしま」について。
当社は4月に創業90周年を迎えます。そこで周年事業の一環として、世界に誇れる広島の街の魅力と人をつなげることにより地域に貢献しようと、「(株)スマートコムシティひろしま」を設立しました。同社では商店街などと連携し、デジタルサイネージやスマートフォンアプリによる観光、店舗情報の発信を行っています。
-市内観光周遊にどうつなげますか。 ある調査によると、中国地方を訪れた訪日外国人観光客(インバウンド)が、興味のある情報を得た場合の旅程変更の可能性については、24・3%が宿泊場所の予定を変更可能と回答しています。また、日帰り、または半日の旅程変更が可能とした人が52・2%。予定を変更できない人は、たったの23・5%だそうです。
こうしたことを踏まえ、同社ではアプリ「Bucci A HIROSHIMA」により、インバウンド向けサービスを提供します。現在、西区横川町で実証実験の準備を行っており、商店街で飲食などをしてもらう仕組みづくりを進めています。具体的には、アプリを介した「はしご酒」のような企画を考えています。広島の隠れた魅力で商店街の活性化につなげたいですね。
また、広島市内のインバウンド事業に興味のある地元の方々とのコラボ策を通じてインバウンドが立ち寄りそうな観光施設をアプリで紹介し、ガイドブックには載っていないディープな広島の情報などを提供したい。観光地ではない穴場を地元スタッフと巡る企画も考えています。このほか、今後は広域的な展開も視野に入れており、まずは東広島市西条の酒蔵通りを活性化させる企画を検討しています。酒祭りの開催期間以外の通常時にも今以上の観光客が行き交う通りにしたいですね。
広島は世界遺産2つの距離が近すぎます。今は大阪、京都から日帰りで訪れるのがインバウンドの一般的な動きです。既存の観光資源を生かすだけではなく、夜の企画をつくらないと宿泊してくれません。そこで考えたのが、流川を中心としたナイトツアー。ディープな広島の街の情報が少ないこともあり、インバウンドがなかなか行けないのが現状です。食事はケータリングサービスの提供も含めて、地元の方々と連携してもてなしたい。通訳案内士との連携も検討するなどで、おもてなしをする側の負担も軽減したい。また、このアプリには決済機能もあり、インバウンドが気軽に参加できるような仕組みを構築する予定です。夜に滞在するからこそ宿泊につながる。そうした仕組みをつくり、マネーサプライの増強を図ることで、地元の活性化につなげたいと思います。
外国人富裕層をもてなす企画
バルコム 山坂 哲郎 社長
-高級車での市内観光周遊や瀬戸内海クルーズを始めました。
18年11月、つばめ交通と業務提携し、高級輸入車ブランドのロールスロイスのハイヤーを始めました。販売先ターゲットの1つとして、近年増加傾向にある外国人観光客、特に富裕層を想定しています。
ハイヤーは全長599×全幅202㌢で圧倒的な存在感を誇ります。ゆったりとした室内空間で、世界最高峰の技術を駆使して実現した「世界で最も静粛なクルマ」です。広島の観光案内や送迎を実施予定です。お客さまの移動時間に究極の心地良さと格式を提供したい。
また、内航不定期航路事業の許可を取得し、最上級ヨットのプライベートチャーター・プランを始めました。全長50フィート(15・27㍍)のヨットで最大12人が乗船でき、4時間から利用できます。美しい瀬戸内海の静けさの中で優雅な時を楽しんでいただけます。船内には完全個室の2ベッドルームを有し、宿泊チャーターも可能です。
広島で富裕層向けの観光資源がありません。こうした企画で最高級のおもてなしを届けたいですね。また、広島は富裕層が宿泊する施設がありません。当社では北広島町と南区出汐に保有している建物を改装し、1組だけが泊まれる高級宿泊施設をオープンしました。そうした施設に泊まってもらい、ロールスロイスで送迎。クルーズ船上からは宮島観光をはじめ、瀬戸内海の多島美を満喫していただけるプランなどを計画しています。
-カプセルホテルを開設予定です。 富裕層向けの一方で、バックパッカー向けのカプセルホテルを中区大手町に4月オープンします。新会社「(株)バックキャスト」を設立予定で、長男で外国人向けのゲストハウス「つるや木賃宿」(同区本川町)を運営する和諧の山坂哲大社長に、同社の代表を任せるつもりです。4階建てで1階にはクラフトビール工場を備えた飲食店を同時オープンし、観光客だけではなく、地元住民にも広く利用してもらえる施設とします。また、バルコムグループのお好み焼き店「弁兵衛」でのお好み焼き体験など、さまざまな体験型観光案内の機能も備える予定です。
今後開催される19年のラグビーワールドカップ世界大会をはじめ、20年の東京オリンピック、25年の大阪万博と世界的ビッグイベントが日本で相次いで開かれます。多くの外国人に広島に足を伸ばしてもらうために、県内外へ販促活動を展開していきます。