グローバル企業ならではの
前例にとらわれない女性活躍推進への取組

株式会社マツオカコーポレーション

1 女性がゼロだった営業本部「営業担当」に、
初のロールモデルを誕生させ、社内風土の改革へ

 株式会社マツオカコーポレーション(以下、マツオカコーポレーション)は、福山市に本社を置く国内最大手の縫製メーカーである。昭和31年、広島県東北部に位置する人口わずか6千人の旧上下町で創業した同社は、平成2年に生産機能、縫製拠点を国内から中国へ移す。その後、アジア各地域に生産拠点を拡大し、現在では世界に約20の関連会社を持ち、2万人以上の従業員が働くグローバル企業であり、東証一部上場企業へと成長した。日本国内で勤務する従業員は平成29年12月時点で116名。主な業務は営業活動と海外生産拠点における生産管理である。

 現在、マツオカコーポレーションの女性従業員比率は43.1%と、製造業全体の平均である30.0%(※1)と比べて13.1ポイントも高く、40年以上同社で勤務した後、役員を務めた女性従業員がおり、営業本部商品開発課には女性課長、海外の生産拠点では現地女性従業員が幹部になっているなど、女性役員や管理職の活躍が目覚ましい。

図1 マツオカコーポレーションの組織図と女性従業員配置状況

 しかし、総務人事部西村課長代理は
「約2年前まで営業担当の管理職のほとんどが男性でした。『営業本部のうち、「営業担当」を担う者は男性』という固定観念があったのだと思います」
と話す。

 マツオカコーポレーションにおける営業業務は主に4つの担当に分類される。お客様に対して営業を行う「営業担当」、製品を作るための生地・資材発注業務を担当する「業務担当」、サンプル品等を作成し、営業職とともにお客様のところに赴く「企画担当」、そして輸出入といった貿易業務を担う「貿易担当」だ。これらの部署が密に連携し、お客様の様々な要望に応えている。従来から、「業務担当」、「企画担当」、「貿易担当」はそれぞれ7~10割を女性従業員が占めていたにもかかわらず、わずか数年前まで「営業担当」の女性従業員は“ゼロ”であったというのだ。

 これまでの人材育成で、「業務」「企画」「貿易」といった担当分野を熟知した優秀な女性従業員は存在しており、「4つの担当が密接に絡み合うことから、これらの業務を熟知している人材が営業担当にならないのはもったいないのではないか」、「営業担当に女性がいてもよいのではないか」という声が約2年前に社内で自然と出始めた。時を同じくして、ある女性従業員から営業への配属希望があった。

 こうして会社や従業員の意向と本人の希望が一致したことをきっかけに、社内初の女性営業担当が誕生した。これをきっかけとして、「営業担当は男性」という固定観念がなくなり、平成29年12月現在では、営業担当の9名中3名が女性となり、活躍している。同社における全体の女性管理職比率は25.0%であるが、営業本部だけで見ると課長職(課長代理を含む)の女性比率は46.1%と高い数字となっている(女性の配置状況に関しては図1参照)。また、現在では性別や国籍等を問わず、適材適所で人材を育成する企業風土が出てきているそうだ。

※1 総務省統計局(2016年)『労働力調査 長期時系列データ 表5 第12回改定日本標準産業分類別就業者数』

2 産育休復帰後の両立支援制度をさらに使いやすく。
従業員の声を聞き、随時改善することで、さらに働きやすい環境へ

 マツオカコーポレーションにおいては10年ほど前から結婚・出産を理由に退職する従業員はほとんどおらず、平成28年度には3名、平成29年度は2名が産育休を取得している。社内に女性従業員が多いため、「子育てで大変なのは一時だけ。カバーし合おう」という雰囲気があるというが、産育休を取得する時期が重なる従業員の数、担当業務や部門によってはカバーが難しい場合もある。そういった際には、派遣社員の配置で業務をやりくりするなど会社全体で対応し、産育休中の従業員を擁する部署の負担を軽減している。

 また、産育休後に無理なく働けるよう、育児・介護休業法に定められた“3歳まで”を超えて、小学校入学までとした「時間短縮勤務」と、「残業なし」を選択することができる社内制度を整えており、この制度を利用する従業員が多いという。同社の時間短縮勤務は、通常の勤務時間が9時―18時のところ、例えば2時間短縮して、9時―16時の勤務を可能とする。従業員の要望を受け、今後はこの制度を小学校低学年まで延長するよう検討しているところだという。

 さらに、「時間単位の有給休暇」を取得できるよう切望する従業員の声を聞き、その制度整備を現在検討しているそうだ。時間単位の有給休暇制度導入のためには、現在使用している勤怠管理システムの変更を余儀なくされるが、既存の半日単位有給休暇制度では「数時間で良い子供の学校行事や病院・学校などから家への送迎のために半日休むのは会社・個人ともにもったいない」という意見や考えからだ。既に女性従業員が働きやすい風土が醸成されているマツオカコーポレーションであるが、常に従業員の「声」を聞き入れ、継続的に制度の変更や拡充を行っている。

3 働く時間や優先順位は変わっても、「効率化」を目指す姿勢は変えない

 マツオカコーポレーションで、現在、子育てと管理職の両立を実践し、営業本部営業1部1課の課長代理を務めている笹川さんに話を伺った。
 まず入社の理由を尋ねると
「実は、縫製知識もないし、服の流行り廃りにもあまり興味がなかったんです。大学卒業後に山東省へ1年半の語学留学をしたことをきっかけに、中国と関わることができる会社を探した結果、マツオカコーポレーションと出会いました」
と教えてくれた。「出産まではとにかく仕事!『仕事=(イコール)生活』でした」という笹川さんだが、2児の母親になった今は、かつてと働き方が全く変わったという。

 入社直後に任された「貿易担当」は全く未知の領域で、仕事を早く覚えようと周りの先輩方に質問ばかりしていたそうだが、次第に「期限内に書類を作成するために、今、何をしておくべきか」などの流れを理解できるようになり、業務効率アップのための工夫も行うようになった。

 スキルアップのために希望した、製品を作るための生地・資材発注業務を担当する「業務担当」への異動が叶い、中国にある生産工場への海外出張の機会を得た笹川さん。現地の生産プロセスや体制への理解が深まると同時に、様々な気づきがあったという。それは、「お客様の要望に応えたい」という本社側と、実際に生産する工場側の認識や温度の違いだった。両面から自分の業務やそれを取り巻く環境を客観的に見ることができたことで「今まで自分たちは生産現場に対しての配慮が足りなかった」と反省するとともに、生産能力向上のために本社からの指示はより明確に工場に出すように心がけるきっかけとなったという。

 「受注から納品まで、業務全体の流れを把握でき、自分自身で業務をコントロールできるようになったことで、仕事に対するストレスが軽減されました」という笹川さんからの言葉から、中国での勤務をきっかけに視野が広がったことが伺える。

 入社5年目には、東京事務所へ転勤し、課長代理職として後輩の指導に当たった。広島へ帰任後は、新たな拠点の立ち上げに携わるなど「最先端の服の流行に触れる楽しさ」「自社で生産した服が店頭に並んでいる喜び」を味わったことで、いつの間にか仕事にのめりこんでいったそうだ。

 そんな中、第一子の産育休を取得。復職の直後に、第二子を妊娠した。1年間のブランクがある上、時間短縮勤務も余儀なくされ、今までのペースでは仕事ができなくなった。それでも事務所内の雰囲気は良く、仕事だけでなくプライベートなことも相談しやすい雰囲気があったため、周りの協力を得ながら仕事をすることができたそうだ。

 「私が産育休から復帰した際は、社内に新しいシステムが導入され、仕事のやり方が変わっていました。初心に戻ったつもりで、わからないことはとことん周囲に聞くようにしました」。
 出産前から効率的な業務遂行を心がけていた笹川さんだが、出産後は限られた時間の中で、より一層効率的な業務をすることを意識したという。笹川さんの現在の目標は、取引先毎に進め方の異なる業務の「平準化」を図ること、そして日々チームで働く周囲の意見を吸い上げ、それをチーム内に反映し、「業務改善」に励むことだという。

 女性が管理職へ昇進するために何が必要なのか。笹川さんに尋ねると、
「業務全体を見る経験。海外生産拠点での経験です」
という答えが返ってきた。最近はテレビ会議でのコミュニケーションが増え、出張等で海外に行く機会は減ってきているそうだ。しかし、実際のところは現地に行かないと把握しきれないこともあり、社内ネットワークの構築においても顔を合わせたコミュニケーションが有効だという実感があるようで、若手時代の海外出張の経験が、管理職である今の業務にも活きているそうだ。

取材担当者からの一言

 マツオカコーポレーションには中国、ミャンマー、バングラデシュ、ベトナム、インドネシアに生産拠点があるため、特に営業本部の「企画担当」に所属する女性従業員は、海外出張に行くことが多いという。

 また、海外からグループ会社の研修生を受け入れているが、現在は全員が女性だという。海外研修生の多くは、夫や子供を自国に残して日本での研修を最長3年間受け、帰国すると現場の管理者として活躍するそうだ。幹部候補として選抜されて来日し、家族に会えぬ寂しさを抱えながらも懸命に働いている様子を見たことで「たくましさ」や「強さ」を感じるとともに、日本の女性にも、海外を含めた多くの経験や育成の機会を与えるべきだと感じた。

 一般的に会社としては治安や情勢等が不安定な国へ送りこむことに対して、危惧もあるだろうが、特にグローバル展開する企業においては、海外での経験はステップアップする上での重要な糧になるのであろう。

 県内他社においても、マツオカコーポレーションのように、女性にも海外出張、社外への出向に送り出す等、様々な経験の場を用意するとともに、成長の機会を与えてほしいと願う。

●取材日 2017年12月
●取材ご対応者
管理本部 総務人事部 課長代理 西村 淳一 氏
営業本部 営業1部1課 課長代理 笹川 文恵 氏

会社概要

株式会社マツオカコーポレーション
所在地:福山市宝町4-14
URL:https://www.matuoka.co.jp/
業務内容:株式会社マツオカコーポレーションは福山市宝町に本社を置く、国内最大手の縫製メーカーである。縫製加工OEM(取引先ブランド生産)による商品の受注、生産、そして納品を主に行っている。 中国を中心としたアジア地域5カ国に生産拠点を置き、メンズ・レディースのフォーマルウェアからカジュアルウェア、ユニフォームウェアまで幅広い縫製加工品を生産。2017年12月には東証一部に上場。
従業員数:116名
女性従業員比率:43.1%
女性管理職比率:25.0%
(2017年12月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com