個人も組織もチャレンジ精神旺盛なベンチャーならではの女性活躍
株式会社Fabric Arts
1.個人の意志にフィットする働き方を提案した結果、女性比率も高く
株式会社Fabric Arts(以下、Fabric Arts)は、Webサイト制作を主体に、管理システムの構築やアプリ開発、自社パッケージの開発・販売、インターネット広告代理店事業、通販運営事業、企業ブランディング事業など、ITソリューションを展開するITベンチャー企業である。
一般的にソフトウエア開発は、複数のITエンジニアが各プロジェクトやチーム単位で仕事に取り組むため、作業の進捗管理や製品の品質管理が難しく、また個人の能力に依存することが多い。そのため、時間外労働や休日出勤が多い傾向にあり、全産業と比較すると、月間実労働時間が最も長くなっている。また、従事する場所も自社の事業所に限らず、顧客先で常駐して作業を行うことが多いなどの特徴があり、数日間の出張はもちろん、時には数カ月の長期出張もあるという。
このような業界の特徴からか、情報通信業の女性従業員比率は26.3%(※2)と全産業の平均値43.8%と比較して少ない。しかし、Fabric Artsでは従業員37名のうち20名が女性で54.1%と全体の半数を超えており、情報通信業の平均の約2倍となっている。また、部長相当職1名、課長相当職2名と、同社の女性管理職比率は37.5%であり、業界平均の10.0%(※3)や全産業の平均と比較しても高く、多くの女性が活躍していることが分かる(図1参照)。
図1 女性従業員比率と女性管理職比率の比較(Fabric Arts・全産業・情報通信業)
※2 出典:総務省統計局(2017年)
「労働力調査 期時系列データ 表5 第12回改定日本標準産業分類別就業者数」
※3 出典:厚生労働省
「平成29年度雇用均等基本調査 図11 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員含む)企業規模10人以上」
Fabric Artsの女性従業員比率が業界平均よりも高い1つ目の理由として、子育て中の女性従業員のほとんどがディレクター職に就いていることが挙げられる。ディレクター職は、顧客から受けた要望を、制作技術スタッフ・カメラマンに指示するなど、WEBサイト制作全般のマネジメントから、企業のブランディングまで活躍の幅が広い職種だ。写真撮影や打合せなどの日程は、比較的自分のスケジュールに合わせることが可能であることから、現在ディレクター職を務める5名の女性のうち4名が子育て中であり、9時~18時の定時内での勤務や時短制度を利用している。
ディレクター職以外でも、結婚、出産といった生活環境の変化の際は、本人の意志を尊重し、業務の割振りを行っているそうだ。また、2つ目の理由として、広島本社の顧客となる企業が、地場である広島県内の企業であるため、出張が少ないことも挙げられる。加えて、一般的にシステム開発は夜間の緊急対応や、急を要する出張があるようだが、同社はWebサイト制作がメインであるため、緊急事態の発生や、長期にわたる出張が少なく、女性の働きやすさにもつながっているようだ。
Fabric Artsでは、個人の意志やライフステージによって働き方を選択できるような提案も行っており、従業員が理想とする働き方に柔軟に対応する姿勢をホームページなどで積極的に発信している。働きやすい環境を会社の魅力として伝えた結果、採用活動も順調だそうだ。2019年入社予定の新卒社員3名は全員女性で、3名全員が第一志望で同社を志望した。さらに3名中2名が営業職を志望しており、今までは少なかった営業志望の女性が近年少しずつ増えてきているのだという。
2.“いいと思えばすぐ導入、問題と思えばすぐ改善”のスピード感がベンチャーならでは
「取組の始動と廃止の判断がスピーディーなのがベンチャー企業ならではですね。良いと思うことはすぐに実践しますが、ダメだったらすぐやめる。また、より良い解決策が見つかったらすぐに変更します」。
そう話すのはFabric Artsの管理統括本部のマネージャーとして、給与計算や社会保険実務、商標登録、自社サイトの運営等を行っている前島紫乃さん。
過去に導入したものの廃止した制度の1つに裁量労働制があるという。エンジニアは個々の技量によって業務速度にばらつきがあり、また集中するとなかなか仕事を中断することができず、残業時間が増えがちであった。また、「集中して働ける」と、夜間に業務を行うことを希望するエンジニアが多かったことから、柔軟な働き方ができると考え、業務の遂行手段や時間配分の決定を従業員の裁量に委ねる「裁量労働制」を15年に採用した。新卒採用者を除く、自分で業務管理ができると判断された希望者が制度を利用し、メリハリのある働き方を支援する環境を整備した。
しかし、導入後、残業時間は短縮どころか増加した。また、個人ごとに設定された納期が守られない、勤務が深夜・休日に及ぶことで疲労が増え、体調が崩れがちといった課題が見受けられた。よって、裁量労働制を廃止し、18年8月からは従業員全員、9時から18時の定時出勤に戻した。
「裁量労働制の廃止後は残業時間が減少傾向にありますが、今後さらなる効果を見極めたい」と、前島さんは話す。
また、Fabric Artsでは時短制度の利用などといった働き方にかかわらず、成果に応じた評価と処遇を目指し、18年11月から新たな評価制度を運用開始した。「予算の達成・納期の遵守・残業時間・開発したシステムの品質」などの評価項目をポイント制にし、給与に反映することによって従業員に還元する。これについて、前島マネージャーは、
「各支社で人数も増え、目が行き届かなくなってきているので、公平で透明な評価制度が必要と考えました。システム開発は何よりも人材が宝であるため、従業員が納得のいく評価体制を整えていきたいと思っています」と話す。
3.全ての経験が糧となり、自分の可能性を広げるきっかけに
同社の管理職である管理統括本部マネージャーの前島さんは、新卒で入社した製造業で5年間、人事労務担当となり、実務や社会保険労務関連のセミナー受講を通し、基本的なスキルを身に付けたそうだ。その後、人材派遣会社、飲食系ベンチャー企業と異なる業界ではあるが、人事労務を中心に経験を積み重ねてきた。また、飲食系ベンチャー企業では、株式上場準備担当も兼務し、社内規定の作成、商標申請、内部監査など、会社の基盤づくりにも関わった。Fabric Artsに入社後は、管理部門の責任者として同社の成長を支えている。
前島さんにベンチャー企業の面白さを尋ねると、
「最初の製造業に勤めていた時から、人事労務という仕事内容に違いはないのですが、同じ業務内容でもベンチャー企業は経営者との距離が近く、何かを動かしている、会社を大きくしているという実感が得られる点が面白いです。当社の技術者やディレクターも同じように感じているのではないでしょうか。また、”好きなこと”が仕事になり、そして仕事への思いが”カタチ”になることも魅力だと思います」と話す。
働く女性にメッセージをお願いすると、
「私自身これまで様々な業界で業務を行ったことが、結果として、現在の自分を支える力や糧になっているように思います。なので、転職することも恐れず、色々な場所でチャレンジしていくと、自分に合った道が開けるかもしれません」と教えてくれた。
前職で多くの経験を積んでいった結果、マネージャーとしての責務を果たす上で、困ることはないという前島さん。今後もFabric Artsの成長をしっかり支えるキーパーソンの一人として活躍していくに違いない。
取材担当者からの一言
16年に経済産業省が行った「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」によると、IT業界で女性を活用することによる効果として、「職場が活性化する」「人材が多様化する」「対外的な企業イメージが向上する」「ワークライフバランスが実現される」などといったメリットが挙げられた。IT業界でも人材の確保が課題である中、女性活躍推進は必須といえそうだ。
また、取材担当者は長らく東京で勤務し、Fabric ArtsのようなITベンチャー企業と関わる機会が多かったが、男女区分なく仕事を与えられ、女性も経営メンバーとして活躍しているといった印象を持っていた。最近東証1部に上場し、注目を集めたIT企業の女性従業員比率は31%、女性管理職比率は20%と、ここでも女性が活躍しているようだ。多様な人材を集め、個々の能力を発揮させることができる企業は勢いがあるようだ。
●取材日 2018年11月
●取材ご対応者
株式会社Fabric Arts
管理統括本部 人事総務グループマネージャー 前島 紫乃 氏
会社概要
株式会社Fabric Arts
所在地:広島市中区紙屋町2-1-22
URL:https://www.fabric-arts.co.jp/
業務内容:株式会社Fabric Artsは2007年の設立以来、Webサイト制作を中心に、Webアプリケーション構築、自社パッケージの開発・販売、インターネット広告代理店事業、通販運営事業、企業ブランディング事業など幅広いサービスを展開するITベンチャー企業である。東京、島根、福岡に支店を持ち、近年事業拡大を図っている。
従業員数:37名
女性従業員比率:154.1%
女性管理職比率:37.5%
(2018年4月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)