外国人観光客の消費額増へ
広域連携や体験プランに期待
広島の観光ポテンシャル【前編】
2020年の東京五輪や25年の大阪万博を控え、外国人観光客の拡大が続く中、広島では異業種からの観光事業への参入が増えている。外国人の長期滞在で観光消費額底上げにどうつなげるか。経営トップが「広島の観光ポテンシャル」をテーマに語った。
戦後の復興過程を伝えたい
近畿日本ツーリスト中国四国 船場 誠吾 社長
-旅行会社から見る、広島の観光素材は。
広島は世界遺産や自然体験などが充実している観光地。そうした資源を生かすとともに、平和都市「HIROSHIMA」を伝えていかなければならないと考えています。原爆投下、終戦の象徴となった負の歴史を持つ一方で、73年かけて広島は立派な都市になった、〝復興〟の街というプラスの側面もあります。その両面を、私たちは観光客に説明しなければならない使命を感じています。
-旅行会社の役割について。旅のつくり手として、異業種・異業界をつないだ旅商材を作るなどハブ機能を担う存在でありたい。2018年4月に広島県にも導入された「地域通訳案内士」と連携した企画を進め、外国人観光客に広島をより深く知ってもらえるようにしたい。瀬戸内海の島々を案内士がガイドするプランなど、外国人に楽しんでもらえるはず。
-注目している商材は何ですか。旅行前、また移動中などに旅行予約できるような着地型旅行商材(受け入れ側がつくる旅行)の拡充に力を入れています。前日または直前にスマホで申し込みをする旅行客が5割もおり、着地型観光の提案を工夫することで地域の旅行会社にチャンスが出てくる。広島の経済界で話し合ったものを吟味し、さらに、観光客に魅力的かつ汎用的な商材を企画・充実させるつもりです。
-広島の観光の課題は。長期滞在ですね。今は平和公園、宮島を訪れる日帰りプランが主流ではないでしょうか。一泊できる夜のコンテンツを充実させなければならない。神楽の文化や歴史を楽しんでもらうためには実際に郷土を訪れ、ストーリーや時代背景などを体験を交えながら時間をかけて説明することが重要。滞在することで魅力が一層伝わる神楽や鉄板文化などを私たちが国内外へ発信していかなければいけません。広島に一泊する価値は大いにあると思います。
-今、注力している商品について。着地型修学旅行の誘致に力を入れています。平和公園や資料館を訪れて、被爆体験を聞くという流れは昔から広島への修学旅行で定着している。プラスアルファで、そこで聞いて感じて考えたものを、互いにディスカッションするプランを提案しています。訪れるだけではなく、平和について考える、語り合うきっかけをつくり、広島の復興を知ってもらいたい。
中国四国のハブ拠点「広島」へ
みどりホールディングス 杉川 聡 社長
-マリーナホップの観光的な役割を教えてください。
05年のマリーナホップ開業時、広島県の本来の方針では数少ない海に面した商業施設なので、観光資源化に寄与できるようにしたい思いがあったそうです。それを受けて、12年に引き継いだ後に宮島へ渡れる航路をつくりました。17年には水族館を、18年夏にはJTB社と連携した大型飲食施設「マリホフードホール byるるぶキッチン」をオープン。同年11月からはプロジェクションマッピングを始めるなど、コンテンツを増やしており、今後、外国人観光客を多く集客できる観光コンテンツを育てたい。
-広島の観光ポテンシャルについて。 原爆ドームと宮島は相当な財産。広島に1度は行かなきゃという人たちは多く、観光客は増えている。
でも、広島の街に宿泊してもらうだけのコンテンツが少ない。お好み焼きを食べて、平和公園を見学して帰ってしまう。市街地には土産物屋が一軒もない。それは、平和公園や原爆ドームが祈りの場所で、商売をするのは難しいから。また、市街地に大型バスの駐車場がないなど、旅行事業者がツアーを組むのに、使い勝手が悪い。マリーナホップは市街地から少し離れていますが、そうしたバスの発着拠点となれるのではと考えています。広島の街で観光事業者の大手がおらず、潜在的市場がたくさんあると感じています。
外国人観光客は1~2週間の長期滞在をする方が多い。そうした外国人にとって3時間ぐらいの移動は当たり前。四国であれば愛媛県の道後温泉に、山陰であれば島根県の出雲大社に行ける。マリーナホップが中四国の観光情報を提供するとともに、施設を起点にワンデイトリップで島根や山口、岡山、四国へ送客したい。現在、そうした地域での宿泊施設を検討しており、農業や酪農、漁業体験をくっ付けるといった仕掛けもつくり、リピーターになってもらえる環境づくりをしていきたい。
広島は中四国の真ん中であることを自覚することが大事。中四国のハブになるべき。「観光」というキーワードだったら、広島に勝るところは中四国にはない。外国人にとってみれば道後温泉も出雲大社も広島。〝広域の広島〟を体験してほしい。”
原爆投下100周年をイメージ
広島マツダ 松田 哲也 会長兼CEO
-おりづるタワーの役割は。
広島は、全世界の平和を希求できる場所。原爆ドームがあるからだけではなく、市民が穏やかで明るく笑顔あふれる暮らしをしていることが救いとなる。16年におりづるタワーを建てたのも原爆ドームの向こうに広がる街並みが好きだったから。私たちに求められる役割は、何もない街から立ち上がった親の世代に敬意を払いながら、新しい広島、新しい未来を示していくことです。こうした風景を観光客にも見てほしい。
18年12月に画家の田中美紀さんに、原爆投下から100周年の45年の広島市と当社やマツダのイメージを重ねたものを描いてもらいました。ソウルレッドカラーの乳母車が包み込んでいる街は、子どもたちに残したい未来の広島です。
そのためには議論ではなく、この先30年という長い時間軸で考え、さまざまなアイデアを詰め込むことが必要。カープが代表するように、市民が日常的にスポーツを楽しむ文化がある。これが根付いたように、安心して子育てができるといった生活の軸が増えれば自然と人は集まる。これからのおりづるタワーはそうした情報の発信基地の役割を果たしたい。”
1階の物産館は、広島の個性を発揮するものを置いています。これからは店員が自信をもって商品を薦められるホスピタリティーを高めていく。当社が胸を張って紹介できる商品に厳選することなどを検討しており、これまで以上にお客さまと顔の見える関係を築く方針です。
-訪れた人に感じてほしいことは。展望台からの景色を眺めて原爆投下から現在までの復興の物語や情緒、そして未来に思いをはせてほしい。広島でも東京タワーやあべのハルカスにも負けないものを作る気持ちがあるからこそ、同等の入場料で真っ向勝負をしています。現在は有料入館者数が年間11万人と一定の役割は果たせていると思う。まずはここを「小さな広島」に見立て、チャレンジを続ける。単独企業の枠を超え、多くの人と一緒に取り組みたい。