整理・整頓という基本から改善。
業務効率を従業員自ら考える企業風土に
社会福祉法人尾道さつき会
取り組んだ背景は?
~「働きやすい」「辞めない」職場づくりを目指す
1978年に、無認可作業所の開設からスタートした同法人では、障害者福祉事業(各種通所施設)、高齢者福祉事業(特別養護老人ホーム・ケアハウスなど)、介護職員養成学校(尾道福祉専門学校)の3事業を展開し、地域に根差したサービスを提供している。介護福祉サービスへのニーズがますます高まる中、事業所・施設拡大を目指す同法人にとって、人材確保は大きな課題であり、「せっかく入職した従業員に辞めてほしくない」「働きやすさが感じられる職場を提供したい」との思いから、約7年前より各種制度の見直しを続けてきた。
働き方改革に本腰を入れたのは2017年。理事長の判断で、外部コンサルタントの指導による「トヨタ式カイゼン」を導入することに決定した。総務部が推進役となり、全従業員へ周知した。
取組導入のプロセス
~有給取得率向上・ノー残業デーを取組の要に
初めに着手したのは、従業員の残業や、有給休暇の取得状況などを把握するアンケート調査だ。「思うように有休を取得できない」「その日の仕事を終わらせるために、どうしても定時を過ぎてしまう」などの声を拾い、事業所ごとに目標を設定した。
17年にスタートした業務改善は、その土台づくりを兼ねて、法人本部と福祉施設の現場から着手。外部コンサルタントのアドバイスを受けながら職場を見直し、効率的に仕事ができる仕組みを探り、18年4月からは、障害者施設に改善活動を広げている。
18年度は、「働き方改革の実現」を重点事業と位置付け、具体的な目標として「全職員有給取得率50%以上の達成」「ノー残業デーの完全実施」「全事業所19:00完全退出・消灯」などを掲げた。目標を明記したポスターを掲示し、理事長の取組に対する思いや、働き方改革の必要性、各事業所での改善の取組について、広報誌(理事長通信)を活用して、全職員に発信している。
主な取組と工夫点
~「トヨタ式カイゼン」をベースに身近な問題から着手
新しくトヨタ式カイゼンを導入するに当たり、コンサルタントから最初に指摘されたのが、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」ができていないことだった。そこで5Sの中でも特に2S(整理・整頓)を重視し、「職場のきれいが続くこと」をみんなで考え、行動できるように徹底した。
「例えば倉庫では、以前は備品の段ボール箱が放置されている状態でした。そこで、誰が見ても分かるように置き場所を決め、それを乱さないようにルール化しました。整理・整頓も成果ですが、何より従業員の意識が変化してきたと感じます。介護の現場では、業務内容およびマニュアルをあらためて見直したところ、従業員2人で担当していた利用者の入浴介助が、1人でも対応可能になりました」と総務部主任の川口達也氏。
「どうすれば業務負担が減るか」を具体的に考え、成果につなげたことで、徐々に「改善を楽しむ」空気が醸成されている。
◆定着率アップのための新人サポート
入職した従業員に、長く腰を据えて働いてもらいたい、キャリアを重ねてほしいと考える同法人では、内定者同士での交流会や新任職員研修(1泊2日)、フォローアップ研修など、充実したサポート制度を用意している。入職後は1カ月に1回、同期が本部会議室に集合し、若手ならではの不安や悩みを早めに解決できるよう、外部講師や総務部から具体的なアドバイスを受ける。3カ月・半年・1年のタイミングではアンケートも実施している。業務内容や人間関係の問題点を吸い上げ、ピンポイントで対処する。同期が定期的に集まることで仲間意識も深まり、同法人の入職後3年での定着率(直近5年間)は98%と高い数値を維持している。
◆従業員同士の交流を深めるサークル活動
施設・事業所間の親睦を図るため、サークル活動にも力を入れており、補助金を出して活動を奨励している。ソフトボール部や合唱部など、運動系・文科系を合わせて13団体(新たに3団体が申請中)が活動している。普段は関わりが少ない、所属が異なる従業員同士が、仕事以外の活動を通じてコミュニケーションを図ることで、「同じ職場の仲間」という一体感が生まれている。
◆「働き方」を考える管理者向け研修
約20施設の管理者(働き方改革の担当者)が集合する、1泊2日の「就業環境改善研修」を実施している。それぞれの施設の残業時間、有給休暇の取得率、就業環境などの情報を共有し、対応策について意見交換を行う。実際に、参加者全員で同法人の施設の現場を見て、2Sがどれだけ徹底できているかなどを確認し、解決方法についても話し合う。施設の代表として研修に参加する管理者が、リーダーの自覚を持ち、将来的に法人の中核的な人材に育ってほしいという期待も込めている。
◆子育て中の従業員を各種制度でフォロー
産休・育休の取得率は100%で、子育てをしながら勤務する従業員も多い。子どもが小学校へ就学するまでの条件で整備されていた「時短勤務制度」に加えて、小学校へ入学以降も勤務時間を短縮して正職員として働ける「短時間正職員制度」を16年から導入した。男性の育児休暇制度も整え、柔軟な体制で子育て中の従業員を応援している。同社は12年に子育てサポート企業の証しである「くるみん認定(次世代認定マーク)」を取得している。
取組の中での苦労点
「例えば、ノー残業デーの徹底においても、その周知を図って軌道に乗せるまでが大変でした。取組をリードする人間だけではなく、現場の従業員がやる気にならなければ、本当の改善にはつながらないことを実感しています」と総務部次長の永井孝一氏。
そこで自ら、各施設・事業所をこまめに巡回するようになったという。
「顔を合わせて話すことで、より確かな信頼関係が育まれ、少しずつ従業員の取組への姿勢も変わってきたと感じています」と、永井氏は従業員の変化も実感している。
取組の成果
「ノー残業デー」は確実に浸透してきており、施設によっては週2日の定時退社を実現できている。有給休暇の取得に関しては「休みを取ることが当たり前」という意識が定着。今ではお互いさまという雰囲気が醸成され、周囲に気兼ねなく申請できるようになっている。
有給休暇取得率60%以上などの数字が学生の目に留まり、応募者も増加傾向にある。特に介護福祉を専門に学んでいない学生や、尾道市とゆかりのない県外学生からの問い合わせや応募も増えてきているという。
◆労働時間・休暇(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が131.5時間
・常用雇用者の年次有給休暇の平均取得率が62.4%
◆若年者(直近5年間)
・就職した新卒者の定着98%(入職後3年)
従業員からの評価
児童発達支援センター「あいあい」で、主任補佐を務める仲本さんは、
「以前は残業して仕事を終わらせるのが当たり前だったので、働き方改革に取り組みはじめて、時間内に業務を終わらせるという難しさを感じています。でも意識することで、自分なりにいろいろな工夫を重ねるようになりました」と話す。
水曜・金曜のノー残業デーは、思い切って業務を切り上げて帰宅するという。「家で子どもたちとゆっくり過ごせています」とうれしそうだ。
総務部内では、従業員が「無駄なこと・改善できること」について意見交換し、手入力だったデータ管理を完全にシステム化した。
人事課の高橋さんは、
「入力ミスが減り、かかる時間も大幅に削減できました。総務部は19時を完全退社と決めて徹底していますので、今ではそれ以上の残業はきついと感じるようになってしまいました」と語る。
現在の課題や今後の目標など
尾道市以外に、福山市・広島市にも事業所を構え、今後ますます拡大を目指している同法人では、引き続き良い人材を集められるようさまざまな課題に取り組んでいくという。川口氏は、その意気込みを語る。
「学生からの応募は増えていますが、慢性的に人材は不足しています。それらを解決できるように働きやすい環境を整え、当法人ならではの魅力を発信していきたいです。大事なのは継続していくこと。職場の全ての問題をクリアするために、今後もコツコツと改善活動を続けていきたいと思います」
取材日 2018年9月
会社概要
社会福祉法人尾道さつき会
所在地:尾道市久保町1786番地
URL:http://www.satukikai.com/
事業内容:障害・高齢・救護施設と、専門学校の運営
従業員数:530名(男性158名、女性372名)
(2018年7月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)