トップが「残業ゼロ宣言」を掲げて改革推進
意識改革と業務改善で働きやすい環境づくり

藤井プレス工業株式会社

取り組んだ背景
 ~「残業ゼロ」目指す働き方改革をスタート

 呉市を拠点に金属プレス加工、溶接や金型の設計・製造や部品の製造を手掛け、地元自動車メーカーの下請企業へ高品質の製品を供給し続けることを使命に事業を展開し、創業60余年になる。代表取締役の藤井啓史氏が部長として入社した2014年当時は、非常に多忙で残業も多く、処遇に対して不公平感を持つ従業員が増えてきていたという。当時について藤井氏は
「残業できる人だけに残業が集中してしまっていました。『なぜ、自分だけが』という思いから、人間関係が悪くなっていました」
と率直な思いを語る。もともと「働くことは収入を得るために必要だが、プライベートの時間を確保し、充実させることも同じぐらい大事。会社に関わる全ての人に幸せになってほしい」という思いを持っていた藤井氏は、全員の残業をゼロにできれば不公平感を払しょくできると考え、「残業ゼロ」を目標に掲げ、トップダウンでの働き方改革に乗り出した。

主な取組と工夫点

◆業務量の平準化で生産性を向上、多能工化でフォロー体制も
 製造現場は職人気質のベテランが多く会話が少なかった。このため、まず積極的に現場とのコミュニケーションを取り、風通しのよい社風を作ることから取組を開始した。さらに
「人に仕事をつけるのではなく、仕事に人をつける、つまりその業務内容を中心に据えて、適性を見て人員を配置する考え方に転換しました」
と藤井氏。そうすることで業務のレベルや量に応じた人数を適切に配置できるようになり、必要に応じて教育体制も整えていったという。
 また、部門ごとの忙しさを平準化させるため、他部署との連携を密にし、現場を横断的にカバーできるように多能工化も進めた。そうして生産性を上げることで、フル稼働で回す生産計画をやめ、稼働率8~9割と一定の余裕を持たせ、現場には余裕を持った人員を確保するようにした。その結果、病気などで急に休みが出ても、仕事をカバーできるため、現場が滞りなく稼働し生産能力を維持できるようになった。

◆ムダ取りで業務を精査、不良品ゼロを目指し、全員を正社員登用
 長く製造業を営む中で時代と共に技術を伝承してきたが、長年の慣習で行われた作業の中には不必要な業務も少なくなかったという。製造現場を歩き従業員と交流する中で気付いたムダな業務を無くし、「価値を生む作業」だけを残していった。また、不良品に対する管理を厳格化。
「不良品はムダの塊。不良品にも製造原価や人件費がかかっていることを常に意識しないといけません」
と藤井氏。とはいえ、不良品を全く出さないことは容易ではない。従業員全員が「100個造ったら100個を買っていただけるようにする」という覚悟と責任を持って業務をこなしてもらうために、全従業員を正社員として雇用している。
 また、家庭の事情や健康面からやむを得ずフルタイムで働けなくなった従業員のために、給料の支払い以外は正社員と待遇が変わらない「時給正社員制度」を設けた。藤井氏は
「せっかく仕事を覚えてもらったのに、健康などの事情で辞めなければならないのは、会社にとっても損失ですし、何より本人にとって辛いこと。実際に制度を利用している従業員は喜んでくれているようです」
と話す。

◆小さなことの積み重ねと安全安心のものづくり
 品質を追い求める姿勢から、定期的な機械の部品交換を行い、閑散期には機械メンテナンスを欠かさないことで、繁忙時期になっても故障がない状態を維持している。また、現場教育に生かすために藤井氏とマネージャーが、ものづくりの改善技術を学ぶ講座に参加し、習得したことを実践している。
「現場での作業は安全が第一です。安全確認をしなかったら早く生産できるが、ケガをしたら元も子もない。ケガをしたら誰も幸せになりません」
と、安全安心を守る従業員教育を行うなど、地道な努力も継続している。

◆現場の意識改革から残業時間を削減
 長年働くリーダー級の従業員の中には、時間をかけて仕事をすることを美徳と考える人もいたため、残業ゼロを宣言してもなかなか浸透しなかった。これら従業員を対象に残業を削減する狙いや重要性などを、1年間かけて何度も繰り返し伝えてきたという。最後には納得してもらい、残業ゼロを宣言した1年後から、着実に残業を減らすことができるようなった。

取組の中で苦労したこと
 ~有休消化に向け、継続した声掛け

 藤井氏は「従業員は勤勉で率先垂範する人が多くて助かる」と喜ぶ一方で、有給休暇を取らずに働きたいと考える人も少なからずいたという。月に一度の有休取得を何度も働きかけ、現場のリーダー格にはある一定の期間を定めて休むように促した。結果として
「リーダーの休みに対応するために現場が事前に準備をするようになってきました。不在となることを前提としたフォロー体制の構築が多能工化につながると考えています」
と藤井氏。また
「トップダウンで改革を進めるにはやみくもに方針を打ち出すのではなく、きちんとした説得材料を持った上で従業員に話しかけることが大事です。その方が理解が得られやすいですね」
と話す。

取組の成果
 ~残業時間が着実に減少し成果実感

 業務の平準化や効率化などに取り組んできた結果、12年に1人当たりの1カ月の平均残業時間は32.8時間あったが、19年には7.5時間にまで減らすことができた。まだ当初目標の残業ゼロは実現にいたっていないが、着実な歩みを見せている。従業員からも残業を無くそうという意識が生まれ、効率的に働こうとする姿勢が見えるようになってきたという。

課題や今後の目標
 ~残業ゼロを目指して挑戦し続ける

 今後は現場作業のマニュアル化を進め、
「1人の従業員がさまざまな現場に対応できるようにしたいと考えています」
と藤井氏。現場へのマニュアルの掲示なども充実させることで、いつ、どこの現場に入っても対応できる多能工化が図れ、生産性にも好影響になるとみている。当初の目標である「残業ゼロ」を旗印に掲げて、継続して生産性向上や働きやすい環境づくりに取り組む方針だ。

従業員からの評価

出荷・検査グループ
住村 敏子 マネージャー
 約20年勤務していますが、出荷・検査グループの仕事は、オーダー通りに出荷をさせることが必須です。以前は残業も多かったですが、改善が進み、自分がなるべく現場の作業に入らないでいいようにし、また誰かが休んでも仕事が回るような人員配置にしてもらいました。効率のいい現場になり、残業を減らすことができたので、定時退社後に通院したり友人らと食事に行ったりすることもできるようになりました。有休を使って旅行もできています。

取材日 2020年1月

会社概要

藤井プレス工業株式会社
所在地:呉市広多賀谷2-2-8
URL:http://www.fujii-press.co.jp/
事業内容:金属プレス加工、溶接、金型設計、金型製作などの製造
従業員数:36人(男性17人、女性19人)
(2019年11月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com