時代に合わせて必要と思われた変化には臆さず挑戦

株式会社ヒロテック

1.海外のグループ会社からの刺激もあり、女性管理職登用が進む

 自動車部品メーカーである株式会社ヒロテック(以下、ヒロテック)は、国内に3社、海外に10社を展開するグローバル企業で、主な取引先はマツダやトヨタ、GMやフォードなど、国内外の主要な自動車メーカーだ。    

 ヒロテックの女性従業員比率は6.3%で、輸送用機械器具製造業の全国平均である15.6%(※1)の半分以下と少ないが、女性管理職比率は2.8%と全国平均2.4%(※2)を若干上回り、女性従業員数が少ないにもかかわらず管理職として活躍していることが分かる。また、女性従業員の平均勤続年数は14.5年で、男性従業員の15.4年とさほど変わらず、出産等のライフイベントが理由で離職することはまれで、就業継続しやすい職場環境といえそうだ。

図1 ヒロテックと全国平均(輸送用機械器具製造業)の比較 

※1 出典:厚生労働省(2017年6月)「賃金構造基本統計調査(輸送用機械器具製造業の企業規模、100~999人)」
※2 出典:厚生労働省(2018年4月)女性の職業生活における活躍推進に関する法律に基づく認定制度に係る「産業ごとの管理職に占める女性労働者の割合の平均値」について(改訂) 

 同社において、女性活躍を推進するのは代表取締役社長鵜野徳文氏だ。ヒロテックアメリカ株式会社の代表を務めた後に、2007年に日本の同社に戻った鵜野社長は、「アメリカに比べて、日本では女性が活躍していない。もっとチャンスを与えたい」と考えたそうだ。そこで「人と技術開発に力を入れる」という経営方針のもと、女性にも男性にも同様の役割を与え、教育・育成することを始めた。そしてようやく、18年に3名の女性管理職が誕生した。

 実は、海外グループ会社の方が先行しており、例えば北米では、財務担当副社長、プロジェクト管理部長、総務人事部長をはじめ、管理職として女性が多数活躍している。また、メキシコ、インド、タイ、中国においても女性の部長がいる。
「年2回、海外グループ会社も含めて幹部が集まる会議があるのですが、日本の管理職は男性ばかり。すると海外から集まった幹部から『日本はどうなっているのか』と、疑問を呈されることがありました」
と、人材開発センター課長、有重三紀子氏は言う。

 トップダウンで進めるにあたっては、社長が会議で管理職に向けて女性活躍の重要性について折に触れて発言したり、年度計画立案に際して社長が女性の活用や育成計画について各部門長からヒアリングするなどし、徐々に浸透してきたという。

「当時、担当者として営業部門に所属していたのですが、08年頃から、徐々に雰囲気が変わってきたことが現場にも伝わってきました。10年に班長に昇進し、会社としての取組を少しずつ感じていました」
と、有重氏も振り返る。 

2.出身学部にこだわらず、現場で適性を見て配属を決定

 ヒロテックは「女性従業員比率が5.5%と少ないこと、過去5年間における女性の採用も6.6%と低いこと(16年4月時点)」を課題と捉え、採用者(新卒・中途)に占める女性の割合を8%以上とすることを目指し、活動をしてきた。

 女性にも働くイメージを持ってもらいやすいように、採用情報Webページで紹介している社員4名中2名を女性従業員にしたり、インターンシップで女性を積極的に受け入れるなどした。

 その結果、新卒採用に占める女性の割合は17年度では22.7%(5名)、18年度では18.2%(8名)となり、着実に成果を挙げた。

 18年度より、新卒者は7カ月もの間、職場実習生として理系・文系等の大学の専攻にかかわらず、設計、生産、営業、総務といったさまざまな部門の仕事を1カ月ずつ体験することとし、各人の適性を見て本配属を決定した。18年度に採用した大卒女性社員の配属先は、情報システム部、品質保証部、生産管理部であり、幅広い部門に配置して、第一線で活躍してもらうことを期待しているという。
「当社の主な採用対象となっている機械工学を専攻する学部生の女性比率は、わずか5.7%(※3)です。機械工学を専攻する男性も、他社との競争が激しく、採用が難しい状況です。そこで、大学における専攻にはあまりこだわらず優秀な方を採用し、適性に合わせた配属をし、育成することを考えています」
と有重氏は言う。

 製造現場においても、女性の配属が徐々に進みつつあるという。同社が生産する自動車部品のうち、比較的重量が軽い排気系部品を生産する山口県の光工場では、10年以上前から女性のみで担当するラインがあり、ラインの責任者(職長)も女性だという。また、他の工場でも、検査や軽量部品の組立工程に、女性従業員が徐々に配置されている。
「当社は、生産工場の24時間365日無人稼働を目指し、部品投入の自動化や検査技術などのロボット開発を進めていますので、体力が必要な工程は今後減っていき、ジェンダーレス化が進んでいます。また、金型の設計や治具装置製作のプロジェクト管理など、より現場に近い仕事で女性が力を発揮しています」
と、田村茂取締役は話す。

※3 出典:文部科学省 平成30年度「学校基本調査」 

3. 大学院派遣や語学留学などの選抜教育や育成機会の充実

 近年、若手の女性従業員が増えてきたため、15年度から18年度(※4)まで女性従業員向けの「キャリアデザイン研修」を社内で開催した。女性従業員が早期の段階で、自身の今後のキャリアデザインを考えることにより、仕事と生活の両立をしながら就業を継続し、将来の活躍の仕方を検討する機会を設け、キャリア形成意欲を高めることが狙いだ。来期からは、男女共にワークライフバランスとキャリアの両立といったテーマの需要は高まってきている点を踏まえて、すべての若手に対して実施することを計画しているという。

 また、男女ともに幹部候補者の育成を行うことを強化するそうだ。

 人材育成を重要視するヒロテックには、技術の継承、個人の能力向上など、目的に応じたさまざまな教育制度がある。国際的なエンジニアリング企業として大きく発展することを目指している同社において、グローバルに業務を行うための英語研修や、1年間の語学留学、国内の大学院への派遣、海外グループ企業への出向などは、幹部を育成することにつながる。ヒロテックではそのような機会を女性従業員にも与えることを始めており、人材開発センター課長、有重三紀子氏も、県立広島大学大学院に15年に派遣された女性従業員の一人だ。
「私より前に派遣された10名の先輩は、いずれも男性で、私が女性従業員としての初めての選抜でした。上司から話を受けたときは、2人の子育て中で不安な面もありましたが、会社の将来的課題を考えてみたいし、二度とないチャンスかもしれないと、チャレンジしました」
と考えての決断だった。

 ヒロテックでは、仕事の役割とともに、育成の機会も女性従業員に平等に与え、「経営者の視点」で仕事に取り組み、将来的にグループ会社を任せられるような人材を育成したいと考えているという。

※4 2018年度は広島県商工労働局働き方改革推進・働く女性応援課の女性活躍支援出前講座(講師無料派遣)を利用 

取材担当者からの一言

 ここ数年で女性活躍に着手し始めた企業も少なくないと思われる中、ヒロテックは07年頃に始動してから女性管理職が誕生するまで約10年を要したことから、女性管理職を育成するためには、息の長い取組が必要であると再認識するとともに、会社を担う多様な人材を育成する重要性を感じた。  

 また、同社は海外における売上比率が年々高まる中、人材戦略もグローバル化が求められている。「現地化」を軸に海外展開をした結果、自然と海外の方が女性幹部が多くなり、本社である日本が後追いする形になった。世界の人材市場から選ばれる企業となるために、女性活躍は第一歩に過ぎない。その時代に取り残されないための取組は、同社を大きく飛躍させてくれるきっかけになるかもしれない。

●取材日 2018年2月 

●取材ご対応者
株式会社ヒロテック
取締役 本社 田村 茂 氏
人材開発センター 課長 有重 三紀子 氏

会社概要

株式会社ヒロテック
所在地:広島市佐伯区石内南5-2-1
URL:https://www.hirotec.co.jp/index.html
業務内容:国内外の自動車メーカーを支える自動車部品(ドア、排気系部品)の設計・製作から、金型・治具・組立ラインの設計・製作を担う。開発から量産まで一貫した生産体制により、お客様目線で常に改善・進化するものづくりを展開し続ける国際的なエンジニアリング企業である。
従業員数:1,386名
女性従業員比率:6.3%
女性管理職比率:2.8%
(2018年12月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com