社長交代で会社が激変
地域貢献ができる余裕を育てる改革

三原テレビ放送株式会社

取り組んだ背景 ~24時間のサポート体制に課題、社長就任機に改革スタート

 三原市をエリアとするケーブルテレビ局を運営するほか、インターネット接続事業も手掛け、地域に密着した放送サービスを提供している。
「テレビ業界というのは、もともと労働環境が厳しいんです」
と口を開くのは、代表取締役社長の後藤和之氏。従業員数30人ほどの中小企業だが、24時間365日でサポート体制を整えなくてはならないため、かつては深夜は技術担当が枕元に電話を置いて仮眠し翌日も出勤、休日には総務部が交代で電話応対を行うが振替休日を取れないまま、という状況が続いていた。後藤氏は2018年に現職に就く前からこの働き方の問題を解決しなくてはならないと感じていたという。
「長く勤めていると、普通ではないことが普通になってしまう。社員たちも仕事を回すのに精一杯で、自分たちの過酷な状況を当然のこととして受け入れているように見えました」と後藤氏は振り返る。
「変えたほうがいいと感じていたことは、全部変えてしまおう」と、社長就任を機に統括部長の勝村祥治氏を右腕に、改革チームを発足。ヒアリングを行って従業員の意見を取り入れ、経営の見直しや新たな展開を創出する若手従業員を中心とした経営企画部も設置し、多面的な改革に乗り出した。

主な取組と工夫点

◆組織図・就業規則を見直し、ガイドブックを作成し周知
 まず社内システムの見直しと徹底的な可視化を行った。それまで存在していなかった組織図を作り、組織としての機能を見直して役割や責任を明確化・視覚化したほか、長年改定されていなかった就業規則を一から作り直すなど、会社の基礎とも言える規則の見直しから改革をスタートした。
 これらの取組を従業員に伝え浸透させるために、新しい就業規則や複雑な出張時の勤務時間算入方法をはじめ、勤怠管理システムの入力方法、福利厚生制度などを分かりやすくまとめたガイドブックを作成し、従業員に周知した。

◆勤務形態の見直しや有休制度の整備で柔軟な働き方実現
 それまで深夜勤務(午後10時~翌午前5時)の翌日の勤務形態について、明確な規定はなかった。このため深夜の勤務時間に応じ、翌日は終日免除または半日免除と就業規則で定めた。
 また、完全週休2日制の導入と同時に、以前は1日または時間単位だった有休を、一日・時間・半日(午前・午後)と自由に選べるように整備した。さらに、女性従業員の要望を受け、時短勤務の対象条件を拡充。子どもの年齢上限を小学校低学年から中学校入学前までに伸ばし、学童保育に入れない高学年の子どもを持つ女性従業員でも安心して働ける環境を整えた。

◆業務の棚卸により課題を明確化、外部委託も活用
 深夜勤務の翌日の勤務、休日出勤など、これまで従業員たちの「頑張り」によって仕事が成立していたため、改めて業務の棚卸を実施。根本的な人員不足が浮き彫りとなったため、業務の中で外部委託できる部分と、新たに人員補完する部分を明確に分けた。週末の電話応対はコールセンターに委託し、さらに従業員数23人だった18年度末から20年度夏までの間に9人の大幅増員を実施し、技術部門などの根本的な人的リソース不足を解消した。人員を増やしたことで、それまで手が回らなかった業務や新規事業の準備などにも取り組めるようになった。

◆勤怠管理など各種システムを導入し、効率化
 年5日の年次有給休暇の義務化をきっかけに、働き方の実態把握に向け勤怠管理システムを導入。各部署に必要な人員の目安とするとともに、残業時間や有休取得状況を可視化し、各部門長が従業員に声掛けをしながら管理を行っている。
 また稟議書や顧客管理を紙からシステムでの運用に切り替え、より効率的に業務を行うことができるよう環境を整えた。

取組の中で苦労したこと 〜変化に伴う実務増加で、一時的に多忙状態に

 取組以前は明確な運用ルールがなかったため、「新しいシステムの入力が面倒」という声も一部であったが、業務効率化や休暇の取得推進などにつながる時代に合った改革は、ほぼ好意的に受け取られたという。
 一方で、1年ほどの間に次々と規則改定やシステム導入を進めたため、就業規則の改定に伴う実務をこなしながらシステム構築も並行して進めるなど、実務的な負担が一時的に増大。さらに、同時期に新しい従業員への指導も重なり、半年ほどは多忙を極める状態が続いた。しかし、改革への期待感から従業員1人1人が自覚を持ち、役割をこなしたという。

取組の成果 ~年間休日が増加、時間外は減少

 短期間で雇用を増やし、新システムをいくつも導入するには、経営面での負担もあったが、
「経験を積んだベテラン勢が辞めてしまうよりはずっと良い。人の方が大事なので、迷わずに即判断できました」と勝村氏。
「一部業務を外部委託する、人員を増やすなど、改革には費用が掛かりますが、働きやすい環境を整えながら利益を出すシステムを考えるのが社長の仕事だと考えます」と後藤氏は力強くうなずく。
人員を増強したことで完全週休2日制が可能となり、年間休日日数は2019年度の115日から122日に増加。一カ月当たりの平均時間外勤務も18年の25時間から19年に15時間と10時間も減った。以前はどこまでが勤務なのか分からない働き方をしていた従業員たちに目に見えて余裕が生まれ、従業員同士が意見を交わし合う場面も多々見られるようになった。
 また、事業の必要性や進め方を見直すことで、年間休日の増加や平均時間外勤務の削減のなかでも、売上を維持できている。

課題や今後の目標 ~地域貢献や福利厚生の一層の充実へ

 後藤氏は、
「改革で生まれた余裕を地元・三原市への貢献につなげていきたい」と話す。
18年の西日本豪雨以降は、早めの避難につなげてもらいたいと、川の水位を監視する河川カメラの設置を進めている。3年で市内11カ所に設置する予定で、県から提供される水位データと合わせて目視で川の水位を確認できるシステムを構築する。
 就業規則など労働環境の基盤が整備できたことから、今後は従業員により長く働いてもらえるよう、健康面やメンタルヘルスなどの福利厚生にも力を入れていく方針だ。

従業員からの評価 

総務部 兼 経営企画部 主任
渡邉 良美 氏

 社内の雰囲気が良く、安定したテレビ放送やインターネットサービスを提供して市民の役に立つケーブルテレビの仕事にやりがいを感じていました。時間外勤務や休日出勤は日常的にありましたが、「これがケーブルテレビ局」と思い込んでいました。その後、子どもが生まれ、正社員として育児と仕事を両立できるのかと不安に思っていた矢先に社長が交代。以前は社員の意見が採用される社風ではありませんでしたが、若手従業員でつくる経営企画部が発足され、「話を聞いてくれる」、「改善してくれる」雰囲気へと一変しました。仕事に関しても「代わりがいないから絶対休めない、何かあったらどうしよう」という精神的な切迫感がなくなり、安心して働けています。

取材日 2020年9月

会社概要

三原テレビ放送株式会社
所在地:三原市宮沖5-8-15
URL:http://www.mcat.co.jp/
業務内容:有線テレビジョン放送業、インターネット接続サービス
従業員数:32人(男性19人、女性13人)
(2020年9月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com