人手不足に悩む飲食サービス業の
慣例を打ち破るいくつもの工夫

株式会社EVENTOS

1 平均年齢は28歳! 正社員の男女比率は1:1

 (株)EVENTOS(以下、EVENTOS)は、生産者と消費者を「新鮮な食材」でつなぎ、「from farm to table(農園から食卓まで)」をコンセプトに、農産物生産活動から、産直市場、ワインショップ、飲食店、ケータリングサービスと幅広い事業を展開している。

 平成27年、安佐南区吉山に「Oishï吉山」をオープンさせたことで従業員を増員。平成29年11月現在、51名が本社や各店舗等で勤務している。同社の大きな特徴は従業員の平均年齢が28歳と若手が中心で、正社員の男女比率は1:1であることだ。全従業員中76%は主に店舗でサービスに従事し、ケータリングサービスの営業も男女1名ずつが担当する。

 広島県における宿泊業・飲食サービス業の女性比率は61.6%であるが、同社ではこれより若干多い64.7%の従業員が女性である。採用の際には男女バランスが取れるように心掛けているといい、その理由としては、多様な考え方の人間がいることで生まれるイノベーションに期待することと、女性が働きやすい環境は男性も働きやすいと考えているからだという。

 また、採用活動の際には経営理念や事業内容を明確にして発信することで、これらに惹かれて自然と人が集まりやすく、平成29年度に入社した新卒の正社員は男性1名、女性2名。予定採用数通りの人材を確保できているという。

2 1カ月連続で休暇取得可能。
半年前から計画することで休みを取りやすく

 宿泊業・飲食サービス業における「女性の活躍を推進するための課題」として挙げられるのは(1)所定外労働時間が長く、休みが取りにくいためプライベートとの両立が難しい(2)交代勤務や夜間の勤務が多く、女性従業員は勤務し続けることが難しいという2点だ(図1、2)。

図1「所定外労働時間が長く、休みがとりにくいため生活との両立が難しい」と答えた企業の割合

図2「交代勤務や夜間の勤務が多く、女性社員は勤務し続けることが難しい」と答えた企業の割合

 そこで、EVENTOSでは、半年ごとに紙ベースで長期休暇のスケジュールを立てさせ、取得を促している。また、10年前から、1カ月間連続で取得することも可能な「チャレンジ休日」という変則公休日取得制度を設けている。これは、毎月7日ある公休を除き、年間21日の休日が従業員全員に付与されているが、この休日を「チャレンジ休日」として連続して取得することができる制度だという。半年前に事前に会社に申請することで取得可能となり、使途は様々だ。これまでの取得事例を尋ねると、男性従業員が育児のために取得したり、海外・国内旅行を満喫する、車の免許を取得する、海外での国際貢献などという。

 半年前の申請を条件にすることにより、経営層にとっては、店舗の従業員勤務シフトが組みやすく、休暇までにしっかり準備することが可能になるため、気持ちよく休暇に送り出すことができるというメリットがある。

3 産休育休の促進や復帰後のケアを視野に入れ、
メンター制度の導入準備を開始

 現在、EVENTOSでは、2名の従業員がそれぞれ2度目の育児休業を取得中であるが、これまで社内で出産を経験した従業員はこの2名のみ。うち1名は調理担当であったが、妊娠中は体調の変化でキッチンに立つことが難しくなったため、自宅での「レシピの考案」という業務に転じ、一時的に在宅勤務に切り替えたという。

 さらに、川中代表取締役社長は、育児休業中の女性従業員に対して2カ月に1回面談を実施することで、各人の状況や体調を把握し、復帰後の働き方や勤務地、時短勤務かパート従業員への勤務形態変更か、といった話し合いの場を設けている。このように、EVENTOSでは、その都度、当たり前のように柔軟な対応が行われてきた。

 しかし、平均年齢28歳の若手が活躍する同社において、結婚・出産といったライフイベントのラッシュが今後予想されるため、その際の離職防止という課題に本格的に取り組むこととした。

 そこで手探りではあるが、まず平成29年の夏に、育児休業前の女性従業員が社内の若手に対して研修会を実施した。産前・産後休業や育児休業の制度説明、自身の第一子出産時の体験談を踏まえて話し、若手との交流や意見交換を行ったそうだ。さらに、平成29年9月から川中代表取締役社長と採用担当2名が育児休業・介護休業についての勉強会を開催した。また、従業員から生の声を聴くために、朝礼の場や毎月1回全社で実施される勉強会においても、これらに関する意見の吸い上げを行った。こういった地道な取組の結果、新入社員の中には、働く上でのライフイベントに対する不安が解消され、モチベーションアップにつながったと話す社員もいるという。

 さらに、平成30年4月から「メンター制度(※1)」も導入する。
 現在同社では、年2回、川中代表取締役社長が中心となって全従業員を対象とした人事面談を行っているが、それだけでは従業員の普段の業務における悩みへの対応や指導、改善事項などのフォローが十分ではないと考えている。また、接客業である同社においては、業務中にじっくり腰を据えて話す機会や時間を確保することが困難であることから、従業員同士のコミュニケーションを促進し、意見を吸い上げるツールの1つとして、メンター制度を活用したいと話す。制度導入へ向け、県が女性活躍推進支援メニューの1つとして実施するメンター研修に従業員を参加させる等、準備は順調に進んでいるようだ。

※1メンター制度とは、職場における人材育成法の1つであり、知識や経験の豊かな先輩社員(メンター)と後輩社員(メンティ)が、原則として1対1の関係を築き、後輩社員のキャリア形成上の課題や悩みについて、先輩社員がサポートする制度。メンターはメンティの直属の上司以外の人物であることが一般的。日本では、新入社員の育成や、女性社員を育成する制度として、導入する企業も増えている。

4 入社3年目の店長をロールモデルに。
後進の手本となる人材の育成を目指す

 前述したように、EVENTOSの従業員は平均年齢28歳。
 近い将来、従業員の結婚や出産など、ライフイベントが相次ぐことが予想される。その際に女性が離職することのないように「ライフイベントが就業継続や女性の管理職登用の妨げになることはない」と示すため、ロールモデルの育成を決意した。そのロールモデルの一人であり、現在新卒の採用担当者として活動している「Oishï吉山」の田中店長にお話を聞いた。

 「店長としての視点で物事を見ることで、ホールスタッフや採用担当業務ではわからなかった点に気づき、仕事の取り組み方も変わってきています」と話す田中さん。
地元である広島市の企業を中心に、就職活動を行っていた田中さんは、「大学時代に学んだフェアトレードにもつながるEVENTOSの事業構想に魅力を感じたことが入社理由」だと教えてくれた。

 平成26年に入社した田中さんは、飲食業未経験者。
 配属された、和風レストランスパゲティー処「BIANCO吉山」のホールスタッフとして、1から仕事を覚えていくことになった。また同時に、新卒者向けの合同説明会への登壇を任されたことで、自社の良い点・悪い点を分析してまとめ、それを学生へ短時間で伝えるという経験を積んだ。その中で、「聞き手」を意識した説明の仕方を学んだことが、現在の店舗でのお客様対応などにも生かされているそうだ。

 入社から3年目、平成28年に新規オープンした、地域の農産物等の販売とビュッフェランチやワインを提供する「Oishï吉山」で、店長を務めることとなった。田中さんが新入社員とパート従業員を率いて新店舗を運営することになり、正直、不安もあったという。また、新規事業ということもあり、「売れないのではないか」と危惧する取引農家との関係構築にも腐心した。さらには田中さんが入社した際の元上司であり、自身のロールモデルでもあった「BIANCO吉山」の店長が育児休業に入り、店長業務において頼りにしていた相談相手が不在となってしまった。当時は、不安解消のためビジネス本などを読みあさったという。

 しかしよく社内を見渡すと、性別にかかわらず、個人の適性を判断した上で店長等の役職者が選出されており、活躍している女性上司がいたことが励みとなった。その他、常に相談できる上司、先輩・後輩といった周囲の存在やアドバイスを頼りにしながら、
「上司や先輩がどんな業務に対しても楽しそうに仕事をしている姿を見て、『自分にもできる!』と思えました」と当時を振り返る。

 田中さんの今後の目標は「若手従業員の理想とする先輩であり上司であること」。そして第2の店長を育て、会社に貢献するとともに、自分自身もより成長すること。さらに、新卒の採用活動の中で、EVENTOSの取組を説明することで、「こんなことをする会社もあるんだ」ということをより多くの人に伝えることだという。

 現在、入社4年目、店長2年目の田中さんは日々邁進中。

「社会的にも活躍されている女性がピックアップされることが多くなり、自分も励まされています。社内に両立支援の制度はありますが、100%浸透していないという課題も残っています。私もできることから1つ1つ取り組んでいるところです。業種や会社は違いますが、一管理職として一緒にがんばりましょう!」と管理職を目指す方や働く女性、後進へのメッセージを送ってくれた。

 

取材担当者からの一言

 厚生労働省の調査(※2)によると、宿泊業・飲食サービス業の週所定労働時間は、40時間6分/週と全産業の中で最も長く、年間休日総数は95.7 日と全業界で最下位となっており、「ワークライフバランスの向上」が課題であるといえる。

 今回、取材に応じていただいた田中さんが勤める「Oishï吉山」の営業時間は10時〜17時。他の飲食店に比べ、比較的短時間の営業である点が、仕事と家庭の両立制度を活用しやすい要因の1つとなっているのではないだろうか。

 人手不足や働き方改革に対応するため、昨今、飲食店の営業時間が短縮される傾向にあるが、経営上は収益とのバランスが必須となる。「Oishï吉山」への取材日は平日であったが、店内は常にほぼ満席状態で、活気にあふれていた。また、食事を楽しんだ後に、店舗に併設されている「マルシェ」で野菜や小物を購入する人の姿も目立った。短い営業時間でも確実な収益を生むビジネスモデルが、働き方改革や、女性の活躍を推進しているのではないかと感じた。

※2 出典:厚生労働省「平成28年就労条件総合調査」

●取材日 2017年11月
●取材ご対応者
「Oishï吉山」 店長 田中 里奈 氏

 

会社概要

株式会社EVENTOS
所在地:広島市中区舟入中町4-35
URL:http://www.eventos.co.jp/
業務内容:「from farm to table(農園から食卓まで)」をコンセプトに、広島市でケータリングサービスを中心にワインショップ、飲食店、産直市場等、農産物生産活動から飲食事業まで幅広く活動している。また「新鮮でワクワクする『食の環境づくり』に貢献し、『誇りと豊かさ』を育みます。」という経営理念のもと、食を取り巻く様々な課題を企業活動で解決することに挑み続けている。
従業員数:51名
女性従業員比率:64.0%
女性管理職比率:20.0%
(2017年11月現在)