【後編】新事業を実現する「組織づくり」とは
テラスHD、オオアサ電子、イベントスの3社長が対談

【主催】ひろしま環境ビジネス推進協議会|ビジネスセミナー

 環境・エネルギー分野の新事業創出に向け、毎月セミナーを開催している「ひろしま環境ビジネス推進協議会」(事務局・広島県)は7月25日、新事業に積極的に取り組む県内3社の経営者を招き、「組織づくりの本質」と題したセミナーを広島市内で開いた。テラスホールディングス(西区己斐本町)の桑原明夫社長、オオアサ電子(北広島町)の長田克司社長、EVENTOS(イベントス・中区舟入中町)の川中英章社長が対談。新事業を生み出すための組織づくりについて、それぞれの考え方や具体的な仕組みを話し合った。(進行役はeiiconの村田宗一郎執行役員) 前編はこちら

トップダウンかボトムアップか

最終的な実施の決断はトップダウンしかあり得ない。
その判断基準が損得か正しさかを社員は見ている。

―風土を醸成するために大切にしていることは。

テラスホールディングス・桑原社長(以下・桑原)  ビジネスモデルは常に変化するが、経営者は会社の方向性やベクトルをぶらさずにメッセージを出し続けることが大切だと思う。意識して社員に伝えているのは、仕事を楽しむこと。なかなか難しいことだが、1日の業務時間のうち1割でも2割でも自己成長につながる時間を設定することで、さらなる付加価値や新規事業が生まれるのではないか。それを楽しめる風土や仲間のいる環境づくりが大事だと考えている。
 社員に意欲を持たせる方策として、既存社員を変えることは簡単ではない。そこは新卒や若年層にやってもらう方が力になりやすいと感じている。
オオアサ電子・長田社長(以下・長田)  いろいろな分野の人の専門性が生きて、初めて一つの製品ができる。一つの製品にいかに多くの人に携わってもらうかで、その製品のバランスの良さ、ひいては価値が変わると考えている。座学などのトレーニングも大切だが、チームの中で自分たちが考えながら一つのものを完成させることを実践し、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながると思う。「新しい分野に挑戦させてください」と言う社員の中には、やらせたくない人も当然いる。その人にチャンスを与えるかどうかを判断するのは、最終的には経営者の直感かもしれない。

株式会社EVENTOS / 代表取締役 川中英章氏
イベントス・川中社長(以下、川中)  例えば、会社がどんなに頑張って福利厚生制度を充実させても、数年たつと当たり前になる。その逆もあって、社員の方向性を示すキャリアマップがあると、社員は当たり前に線路を走り出す。実際にどんどん線路を延ばしている。それをちゃんと就業規則の中に入れることが大切だろう。就業規則は会社を守るためにあるのではなく、社員の生活を守る規則集だという認識で、それぞれが夢を描ける就業規則をつくるのが一番良い方法だと思う。
 余談だが、私は60歳で事業を承継しようと以前から考えていた。いざ準備を始めると、自己資本が高くなり過ぎて、引き継ぐ社員が株を買えない状況にあり驚いた。どうしようかと悩んでいると、60歳のタイミングでコロナ禍に突入。業績がガタガタになってくれたおかげで、買ってもらえる価値に下がった。私はお金持ちになれなかったが、今なら気持ちよく全額を渡すことができるチャンスを頂いたと考えて、思い切って実行した。

―組織づくりにおける失敗体験は。

オオアサ電子株式会社 / 代表取締役社長 長田克司氏
長田  新しいことに挑戦していると、お世辞かもしれないが、経営者の私に「すごいですね」と言っていただくことがある。しかし、決してすごいことをしているんじゃない。やらざるを得ないからやっているだけ。失敗体験の話はどの経営者もそうだろうが、成功するまでやり続けるしかない。失敗を重ねながら、成功に向かって今頑張っているという捉え方をしている。そして、その原動力は仲間だろう。1人だったら、とっくに諦めていたと思う。寝るとき考え込むと良いことにならないが、明るくなった朝、会社に出て社員に会い、笑顔で会話をすると大きな原動力になる。これが励みであり、新たに自分を凜とさせて頑張る力になっていると思う。
川中 私は成功よりもはるかに失敗の方が多い人生だと思っている。今、コロナが落ち着いて、飲食業から「食を通した地域活性化業」にかじを切り、コンサル業に入ろうとしている。すると今まで頑張ってきた既存の人たちとの考えの違いが発生して、これから失敗体験にならないかと少し心配している。

―新事業をつくるとき、トップダウンとボトムアップをどう使い分けていますか。

テラスホールディングス株式会社・株式会社桑原組 / 代表取締役 桑原明夫氏
桑原  意識して実行しているのは、自分しかできない仕事をやろうということ。私じゃなくてもできる仕事は下ろそうと決めている。社長になって間もなく、ある方に「自分でやる仕事を決めること」、「将来につながる『未来交通費』と『未来交際費』を予算組みしておくこと」が大切と教えてもらったのがきっかけだ。だからそもそもトップダウン、ボトムアップという考え方を持っていない。ただ一つはっきりしていることは、最終的にやるかどうかを決断するのはトップダウンでしかありえないと考えている。
長田  社員に仕事を任せるとき、当然、信頼と根拠があって任せているわけだが、その社員の動き方について厳しく言ってしまうことがある。これはボトムアップになっていないということだろう。ボトムアップは私も望むところだが、長い目で経験させていかないとうまかくいかないと感じる。そういう視点で育成し続けるしかないと思う。
川中 あまりトップダウンはしていないつもりだ。社員が誰も賛成していないのに進めることは絶対しない。ただし、多数の賛成があることが事業として正しいのかは別の話なので、そこには経営者としての意思が当然働いている。まず「社長が本当にそう信じてやっているんだな」という姿を社員に見せること。わが社では「幸せのリーダーシップ」と言っているが、まず自分が大変そうな素振りを見せず飛び込む。そして幸せそうに振る舞ってみせることが、私なりのトップダウンのやり方かなと思う。また当社では貸借対照表を社員に公開し、3年後の貸借対照表について話し合う。これが一番ボトムアップにつながっている。例えば、これはリース調達か、現金で買って減価償却するか、みたいなことも皆で意思決定する。これをやることで、目先のことから3年後の未来のことまで考えるようになり、適切な判断ができるようになっているかもしれない。



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