県内126団体でネットワーク構築
事業承継を手厚く支援〔支援機関〕

事業承継のカタチvol.10 広島県事業承継ネットワーク

  

―広島県事業承継ネットワークとは。

 木原: 広島県内の商工会議所や商工会などの支援機関、金融機関、自治体、大学など126 団体でつくる組織で、2017年6月に発足しました。国内の中小企業や小規模事業者は減少を続け、経営者の高齢化が進んでいます。事業承継を円滑に進めるためには、経営者に早めの準備を働きかけ、適切な支援をしていくことが大切です。身近な支援機関などでネットワークをつくることで、意識を高め、計画的な承継を支援しています。

 宮西: 事業承継コーディネーター3人が全体を統括し、それ以外に県内を東部(備後地区)、南部(呉市など)、北部(県北)、西部(広島市周辺)の4ブロックに分け、それぞれにブロックコーディネーターを配置しています。構成員である金融機関などから集めた情報を基に、事業承継に精通した専門家を派遣し、具体的に進めていくのが私たちの役目です。

平野: 承継には子どもや娘婿などに引き継ぐ「親族内承継」と、従業員への承継や事業を第三者に譲渡する「親族外承継」があります。後者の親族外承継の場合に、私が統括する「広島県事業引継ぎ支援センター」が支援していきます。

―具体的にはどのような活動を行っていますか。

宮西: 経営者によって承継への意識に温度差があり、勉強会などを開いて意識付けを行っています。以前は「事業承継」という言葉すら知らない人が多かったですが、年々意識は高まっています。

木原: 事業承継は、機微に触れる企業情報を頂かないといけません。何も知らない人に、すぐに腹を割って話してくれるものではありません。だからこそ、日頃からつながりのある支援機関などでネットワークを組織し、その人たちに情報を集めてくださいと頼んでいます。どこに相談しても、私たちのところに案件が上がってきて、適切なアドバイスができるような体制を敷いています。

宮西: いきなり承継の話をするのは難しいため、まずは16ほどの質問に答えてもらう診断書を使って、ニーズを引き出します。特に60歳以上の経営者を対象に診断を進めています。

平野: 承継は準備期間に5年から10年がかかると言われています。60歳から準備を始めると、それほどゆっくりできる時間はない。企業の規模にかかわらず、すべての事業者が対象になります。「10年後のわが社を語れる人がいますか」という質問を投げ掛けて、気付きを与えるようにしています。

―承継はどのようなスケジュールで進めるのですか。

木原: まず事業の中身を見直さなくてはいけません。次の世代にバトンを渡すために、経営体質や利益を生む体質に変えるなど、いろいろな改善すべき点があり、定着させるには時間がかかります。株式転換をどのタイミングで、どういうスケジュールで進めるのかをヒアリングし、具体的な計画に落とし込んでいきます。経営は、算数みたいに公式を覚えればうまくいくものではない。現場で経験を積むほかに方法はなく、後継者を育てるには時間がかかってしまいます。

平野: 事業承継イコール後継者の育成だと思います。創業と承継はまったく異なるもの。創業はゼロから立ち上げ、自ら仕事の中でノウハウを身に付けていくが、承継は出来上がったものを継がないといけない。いきなりたくさんのことに対応する難しさがあります。

木原: 企業規模にもよりますが、経理、営業、生産などさまざまな部署があります。それを一巡するために計画性を持って部署を移っていくことも大切です。

―広島県の現状を教えてください。

平野: 経営者の平均年齢は年々上昇し、全国平均はほぼ60歳で、広島県は59・1歳です。民間調査会社の調べで、2015 年に広島県は後継者不在率が全国2位と発表されましたが、現在は全国5位に好転。相談件数は、事業引継ぎ支援センターが発足した14年度には117件でしたが、17年度には390 社で、都道府県別で全国2位に。18年度はそれよりも早いピッチで相談を受け、関心度は高まっていると実感しています。しかし、17年度にM&Aなどの成約実績は32件。一方、毎年700 ~800 社が廃業。まだ計画すら持っていない経営者がたくさんいるのが現状です。

―M&Aはどのように進めますか。

平野: 後継者がいない場合にM&Aを検討します。M&Aは売り手と買い手のタイミングとニーズの合致が第一。案件によって長くかかることもあれば、すぐに決まることも。長い案件では、相手探しから契約まで4年ほどかかることもあり、だからこそ早く取り組みましょうと話しています。また、お金よりも取引先のことや事業の継続を重視する経営者はうまくいきやすい。過去、お金で失敗した例は数えきれません。

―準備していない経営者に助言をお願いします。

平野: 事業承継は、最重要の経営課題。高度成長期に生まれた企業が、そのタイミングを迎えています。創業社長が引き継ぐとき、「わしはやってきたんじゃけえ、おまえもできるよ」と楽観されている方が多い。承継する内容には、人、モノ(資産)、知的資産があります。特に知的資産は社長の頭の中にあり、それを引き出すには時間がかかり、引き継ぐのも一番難しい。早く準備し、後継候補者と一緒になって引き継いでいきましょうと話しています。

宮西: 日頃からのコミュニケーションも大事です。さまざまな話をする中で、少しずつ候補者に意識付けすると、自然と承継の心づもりが生まれるものです。
(最終回)

団体概要

名 称:広島県事業承継ネットワーク事務局
所在地:広島市中区基町5 -44 広島商工会議所ビル7 階
連絡先:TEL.082-555-9651

(情報提供:広島県)