「業務価値の見える化」と「選択の自由」で
働きがいのある職場を実現

株式会社ディスコ広島事業所

取り組んだ背景は?
 ~モチベーションを高く、働きがいのある会社を目指して

 

 創業81年を迎えた同社は、半導体や電子部品向けの切断・研削・研磨装置で、世界トップシェアを誇る精密加工装置メーカーだ。スマートフォンやICカード、自動車などに搭載される最先端デバイスの素材を「切る」「削る」「磨く」技術で、最終製品の薄型化や小型化に貢献している。1990年代から、急激に会社が大きくなっていくのに伴い、社内での価値観の共有が難しくなっていた。そこで全社共通の意識のもと、従業員一人一人が主体的に考え、モチベーションを高く働きがいを持って働いてほしいという思いから、1997年に、企業としての価値観をまとめた「DISCO VALUES」をリリースした。経営の基本方針や従業員の働き方などを200以上の項目で明文化しており、これに基づき「人を大切にする経営」を行っている。
「10年以上、働きやすい会社づくりに向けて取り組んできました。会社の知名度も高まってきましたが、呉市に生産拠点があることを知らない人が意外に多いのです。私たちとその取組をもっと知っていただきたいと思い、『広島県働き方改革実践企業』への申請を決めました」

 

取組導入のプロセス
 ~ユニークな社内通貨を働き方改革にも活用

 2003年から、生産性向上を業務レベルで意識する仕掛けとして、独自の管理会計手法「Will会計」を展開し、各部門の活動成果を数値化している。11年には、この仕組みを従業員個人レベルの収支に広げた「個人Will会計」を導入した。社内のあらゆる仕事に「Will」という単位で値が付けられているため、従業員一人一人が採算を意識した合理的な判断を、仕事を通じて身につける事が可能だ。自身が担当した業務の価値が見えるため、楽しみながら生産性向上の意識も培われるようになった。「Will」は業務やプレゼンなどの報酬として従業員が獲得し、自身の人件費や他者へ仕事を依頼する際の費用などに計上できる。
「Will会計は文字通り、従業員の“意志”を尊重した取組で、従業員満足度を上げるツールになっています。そこで、働き方改革においてもWillを活用しました」  

主な取組と工夫点
 ~モチベーションアップを促す数々の独自制度

◆業務内容や働き方を選べるオークション制度
 同社では、Willを使った社内オークション制度で、担当する仕事を自分の意志で選べる。オークションでは、大きなプロジェクトや、高度なスキルを求められる仕事には高いWillが設定され、反対に、誰でも担当できるような簡単な仕事には低いWillが設定される。金額にかかわらず発生する定型業務もあるが、基本的にほとんどの業務にWillが設定される。
 しかし必ずしも、多額のWillを獲得する働き方を推奨しているわけではない。困難なプロジェクトで多額のWillを稼ぐ人がいる一方で、子育てをしながら仕事を続ける従業員も多く、中にはWillの獲得よりも早く帰れる仕事を選ぶ人もいるという。それぞれのライフスタイルや能力に応じて、働き方が選べるのが特徴だ。自分の意志で業務を選択できることは、「仕方なく指示された業務を担当する」という状況からの脱却にもつながっており、従業員のやりがいやモチベーションの向上にも貢献している。

◆生産ライン社員向けの昇格制度を新設
 広島事業所の生産ラインを担当する契約(無期)社員には、昇格制度がなかったため、「働きがい」を高める制度として「360度評価」を導入した。半期ごとに、職場の従業員同士で項目に沿って評価し合い、結果を本人にフィードバックする。評価が高い従業員にはWillとは別の社内ポイントを付与し、ポイントがたまると自動的に昇格につながる仕組みを設けた。評価基準が分かりやすくなったことで、従業員の意欲向上が感じられるようになったという。

◆フレックスタイム・ナイス有休を導入
 広島事業所では有給休暇の取得促進のため、1週間前に休暇を申請した場合、「ナイス有休(計画的な休暇取得)」として、前述の社内ポイントを獲得できる仕組みを取り入れている。18年秋からは、製造職では珍しい「フレックスタイム」も採用。用事がある場合など、以前は半日有休を取得するしかなかったが、コアタイム(10時~14時半)を除けば、始業・終業時刻を自由に設定できる。病院に行ったり学校行事に出たりと、数時間の私用に対応できるようになっている。

◆従業員の気付きを改善につなげるPIM活動
 「業務改善も本来の業務の一部として、業務時間の50%は使うように」というモットーを掲げる同社では、従業員一人一人の気付きを改善に生かすPIM(パフォーマンス・イノベーション・マネジメント)活動を推進している。改善提案が認められれば、Willが獲得できる。例えば呉工場ある従業員は、製造工程で使用した液体を処分する際の手間に着目。液体の跳ね返りによる床の汚れを防ぐために、液体廃棄用の箱の改良を独自で進め、社内で発表した。改善提案が認められ、Willを獲得している。
 同工場で機械の梱包作業を担当する従業員は、不具合が多かった装置の原因特定に成功。試合形式で改善事例を発表するプレゼン「PIM事例対戦」に参加した。このPIM事例対戦は、聴講した従業員が、投票アプリに各自のWillを投じることで勝敗が決まる。発表する従業員はもちろん、投票する従業員も投票結果でWillを獲得できるため、真剣に聴講され盛り上がるイベントになっている。中には他部門の発表が、自部門の改善のヒントになる場合もあるという。 17年はPIM事例対戦のテーマに「残業削減」が追加され、全社で年間700以上の改善アイデアが生まれた。

◆異動や勤務地を従業員が選択できるシステム
 同社では、従業員の定期的な異動はなく、欠員・業務拡大などによる人員補充は、公募制度で行っている。公募にかかわらず、従業員が異動したい部署に働き掛け、合意の上で異動することも可能になっており、その場合、現部署は異動を拒否できない。所属部署を変えずに勤務地だけを変えて働くことや、現部署のまま他部署の業務に従事することも可能になっている。部署・異動・勤務地・業務を自由に選べる制度は、従業員が自ら描いたキャリアプランの実現や、モチベーションの向上につながっている。

取組の成果

 残業削減のアイデアを職場単位で発表する機会があるため、普段から「具体的にどうしたら残業が減るか」という意見が活発に交わされるようになった。特定の従業員に業務が偏っている場合は、「みんなで手分けして片付けよう」という雰囲気も、自然に生まれている。また、自由な企業風土に興味を抱いてアプローチする学生や、自分の提案を実現できる社内制度に魅力を感じて入社する転職者も増加しているという。 

◆労働時間・休暇(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が170.9時間
・常用雇用者の年次有給休暇の平均取得率が72.1%、平均取得日数は12.6日

◆取組に対する評価
・第1回「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」最優秀賞(厚生労働大臣賞)受賞
・17、18、19年「健康経営優良法人(ホワイト500)」認定
・19年「健康経営銘柄」に選定
・第10回「ワークライフバランス大賞」優秀賞受賞
・日本版19年「働きがいのある会社」ランキング第3位(女性ランキング第3位)

従業員からの評価

 18年のキャリアを持つ呉工場のある従業員は、
「昔は指示された業務をこなすだけでしたが、新しい仕組みが導入されて、やる気がある人、行動に移した人が評価されるようになりました」
と話す。同社のWillは賞与の査定にも反映されるため、
「分かりやすい給与体系が、がんばる意欲につながっています」
とも話す。

 改善提案や新しいスキルの習得には、それなりの苦労がつきものだが、
「自分のアイデアが業務の改善に生きるのは楽しいし、周囲から評価されると、やはりうれしいです」
と、同工場の別の従業員は笑顔を見せた。 

今後の目標など

 

 「当社独自の仕組みが働き方改革に直結しているので、より働きやすい会社になるため、現在のシステムを社内にもっと浸透させていくことが目標です。そして、たくさんの『かい(甲斐)』を持つ会社、例えば働きがい・取引しがい・投資しがいのある会社に成長していきたいと思います」

取材日 2018年11月 

会社概要

株式会社ディスコ広島事業所
所在地:呉市広文化町1-23
URL:https://www.disco.co.jp/jp/
事業内容:半導体製造装置、精密加工ツールの製造
従業員数:2045名(男性961名、女性1084名)
(2019年3月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com