環境改善で思わぬ副産物が。
より良い組織への第一歩を踏み出す
美建工業株式会社
1.ライフイベントによる退職を防ぐ体制を整備
美建工業株式会社(以下、美建工業)は広島県福山市に本社を置き、生コンクリートおよび道路などのインフラ整備に欠かせない各種コンクリート二次製品を製造・販売する企業である。2018年11月現在、美建工業における女性従業員比率は業界平均の30.1%(※1)より12.8ポイント低い17.3%であるが、女性管理職比率は業界平均7.3%(※2)を3.2ポイント上回る10.5%であり、母数は少ないながらも管理職として活躍しているといえる。
ほとんどの女性従業員は本社や営業所に事務職として配属されているが、設計開発や配送担当、製造現場、生コンバッチャー(※3)に配属されている女性従業員もいる。
美建工業の特長として、20年以上前から結婚や出産といったライフイベントを理由に退職する女性従業員がほぼいない、ということが挙げられる。
「ライフイベントを迎える従業員の意志を尊重し、本人の希望に応じた期間をしっかり休んでもらいたい」という思いが高田忠義前社長(当時、現会長)や企業風土にあったというが、この思いが具体的になった契機は、05年に一般職の女性従業員(現、経理課長)が妊娠をしたことだそうだ。社内で「産前産後休業・育児休業期間中はみんなで頑張ろう」と業務をカバーするための話し合いを持ち、業務を振り分け ていった。そこには「特に復帰直後は子供が体調を壊しやすいため、気兼ねなく休みが取れるように」という配慮もあったという。
現在、美建工業では産前産後休業・育児休業を取る女性従業員がいると、配置転換や異動、業務を分担してフォローするなどの対策をとっている。また、社内での調整が難しい場合には派遣従業員を雇用し、業務過多や長時間残業を防いでいる。
※1 出典:総務省統計局(2017年)
「労働力調査 長期時系列データ 表5 第12・13回改定日本標準産業分類別就業者数」
※2 出典:厚生労働省
「平成29年度雇用均等基本調査 図11 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員を含む)(企業規模10 人以上)」
※3 生コンクリート操作盤のオペレーターの呼称
2.業務の振り分けから思わぬ副産物
前述の業務の振り分けがキッカケとなり、本社では定期的なジョブローテーションが開始された。この結果、思いがけず3つの効果が生じた。
1つ目は、業務内容についての知見を複数人が有することとなったため、子供を持つ女性従業員にかかわらず、誰もが休みを取りやすくなったことである。1人が休んでも、フォローしやすくなった。
2つ目は、新人教育を分担して行えることだ。新入社員の入社後、一定期間はOJT(※4)として先輩から指導を受ける。ジョブローテーションの結果、複数人が業務について理解しているため、教育担当の先輩が不在の際には別の先輩に質問できる。このため、新入社員のアイドルタイム(※5)の削減とともに、業務についての質問を通じて、社内のコミュニケーションが円滑化されたという。
3つ目は、適材適所の人材配置ができるようになったことだ。ジョブローテーションによってさまざまな業務を経験する中で、「この人はこの業務が得意だからこれをメイン業務にしよう」などと、より人材の活用が進められるようになった。
当初、業務の振り分けは、あくまでも産前産後休業・育児休業となる女性従業員の不在時への対応であったが、それがジョブローテーションにつながり、ひいては新人育成や人材活用という副産物をもたらしたのだ。
※4 On-the-Job Trainingの略。実務を通して先輩から業務を習う
※5 無生産時間、手待ち時間
3.子育てをしながら家族や会社の協力も得て、さらにスキルアップ
「私が今の役職に就くことができたのは、入社時に本社に配属されたからかもしれません。今後は本社や営業所、性別や職種関係なく、各人が適した仕事や役職で能力を発揮できるような環境づくりをしていきたいです」
と話してくれたのは取締役管理部長である金平京子氏(以下、金平さん)だ。
金平さんは、正規従業員として勤務していた税理士事務所を第二子出産のために退職。その後、2年間は専業主婦として過ごしたが、得意分野である経理の勤務経験を生かしたいと、2歳になった子供の保育園への入所に合わせて、経理担当のパート従業員として美建工業に入社した。
前職での経験もあり、入社後間もなくすると「仕事が早い」と評価され、入社2年で正規従業員へと登用された。銀行との折衝を1人で任された時などは、自分が会社から認められていることを実感したという。正規従業員登用後には、初級システムアドミニストレータの資格を皮切りに次々と資格を取得した。さらに、グループ会社をベトナムに設立することが決まった際には、ベトナムの税務会計の勉強もしたという。
「前社長は身一つで美建工業をここまで大きくした、存在感のある人でした。前社長についていくため、必要だと思った勉強を必死でしました」と語る。
仕事をこなしながら、また二児を育てながらも金平さんが勉強に邁進できた理由は2つある。1つ目は勉強をすることが自分の業務、ひいては会社のためになることを実感していたことだ。身に付けた知識は、普段の業務だけでなく、顧客への提案の際にも生かすことができた。そのため、業務を通して得た達成感がさらなる勉強のやりがいにつながった。2つ目は応援してくれる家族の存在だ。社内だけでなく、社外の研修にも積極的に参加をして、帰宅時間が遅くなることや、休日に家を空けることもあった。その時には家族が子守りや家事を分担してくれたという。
1997年に経理課長への昇進を打診されたとき、これまで培ってきた業務経験から、抵抗感や違和感はなかったという金平さん。2016年には現職の取締役管理部長へと昇進した。
「仕事、プライベート、勉強、それぞれがとても大変でしたが、今振り返ってみると『頑張って良かった!』と思います。前社長には叱られながら褒められながら、たくさん勉強させてもらいました。あの経験が今も生きています」と笑顔で教えてくれた。
4.残業削減へ意識改革を行い、メンターをつけるなど、さらなる環境向上に取り組む
07年に就任した高田浩平社長は、企業利益と従業員の職場環境等のバランスを取り、時代に即した働き方改革を目指した。まず行ったことは従業員の残業に対する意識改革である。「20時までに帰宅ができれば子供と接することができる」「休日はしっかり休もう、遊びと仕事のメリハリをつけよう」と従業員に伝え続けた。この結果、1日の残業時間は長くても2時間ほどに削減されたという。
また、残業時間が最も長かった営業部門に対しては、定時内での事務処理を個別に促した。従来は、営業に朝出て帰社は夕方となり、定時後に事務処理を行っていた。しかし、営業にかける時間や手法を見直すことにより、定時内で事務処理を行うようにした結果、残業時間が削減された。
さらに美建工業が現在力を入れているのは、人材育成である。
全従業員に対して、会社が定めている種類の資格を取得すると毎月の給与に反映される資格手当を10年ほど前より導入している。金額は月額で2千円から最大5万円までであり、美建工業の中には最大の5万円を毎月受け取っている従業員も複数人いるという。
また、新入社員に対しては、メンター制度を導入しており、各人の習得度や業務内容によって半年から1年間ほどベテラン従業員をメンターとして配置している。この制度を続けるうちに、次の課題が見えてきたと金平さんは言う。それはメンターとしての立場にあるベテラン従業員が新人を教育することに不慣れであるということだ。このため、メンター制度を十分に機能させ、新人教育を円滑に行うためにも、メンター向けの研修を検討しているそうだ。
美建工業では、ジョブローテーションも人材育成の手段と考えている。このような取組は、従業員に新たな刺激を与え、モチベーション向上につながるとともに、自身のキャリアプランを立てる一助となっている。
取材担当者からの一言
美建工業において、18年に有給休暇の取得に関する社内アンケートを実施したところ、「別の現場の働き方を知りたい」という意見が従業員から出てきたという。
金平さんの言葉にもあるように、今後、美建工業において重要となることは本社で行われている各取組の水平展開や、社内での人材交流となるだろう。本社における人材育成だけでなく、営業所や工場の人材育成も図ることで美建工業全体の底上げにつながるのではないだろうか。
その未来を牽引するのは、従業員の意見を聞き、バランスを重視する高田社長や、笑顔で業務をこなす金平さんなのであろう。彼らが率いる美建工業のこれからの変化が楽しみである。
●取材日 2018年11月
●取材ご対応者
美建工業株式会社
取締役管理部長 金平 京子 氏
会社概要
美建工業株式会社
所在地:福山市駅家町近田30
URL:http://www.bikenkougyou.co.jp/
業務内容:広島県福山市に本社を置き、広島県・島根県を中心に事業所を展開。生コンクリートおよび道路などのインフラ整備に欠かせない各種コンクリート二次製品を製造・販売している。環境に配慮した再生資源の使用を積極的に取り入れている。
従業員数:231名
女性従業員比率:17.3%
女性管理職比率:10.5%
(2018年11月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)