退社時間の徹底管理と業務の仕分けにより、
残業時間を段階的に削減

株式会社Taisei

取り組んだ背景は?
 ~従業員の健康と法令順守が企業存続には不可欠

 プロモーション・グラフィック・印刷・ウェブを通して情報ソリューションを目指す同社。
「長年、広告・印刷業界は“夜が遅いのが当たり前”という状況が続いていました。しかし世の中の情勢も変化し、働き方を整備できない企業は存続できなくなると感じはじめたのが2016年ごろです」
と代表取締役の吉岡ゆかり氏。折しも、吉岡氏は全日本印刷工業組合連合会のダイバーシティ委員会の特設委員に任命され、全国の企業を視察に訪れたり、講演や議論を通して学んだりする機会を得た。
「こうした機会を通じて、従業員の健康、法令順守、CRS(新たな雇用・採用への対応)の3つが取り組むべきポイントだと再確認しました。一人一人の仕事の在り方を見直して、働きやすい企業になることを目指して、取組をスタートしました」

取組導入のプロセス
 ~施錠管理により段階的に最終退社時間を前倒し

 同社では、業界的にかつては、従業員が遅くまで仕事をしていた部署もあったという。そこで16年後半、“22時までに必ず退社しよう”と全従業員が集まる朝礼で発信した。最終退社を役員が確認し、施錠管理するという取組を始めた。
「役員幹部一丸で取り組みました」
と吉岡氏。17年5月以降は、“20時退社”と段階的に退社時間を早めた。
「やってみると、意外と帰れるのです。どうしても残業で遅くなった場合は、翌日の出勤時間を現場の管理者の責任で調整するという方法で進めています」

主な取組と工夫点
 ~業務仕分けや事前申請により残業を削減

◆終業を知らせるBGMと上司への残業事前申請の導入
 有線放送を導入し、19時30分になったらアップテンポな音楽を、20時には『蛍の光』を流す。残業が必要な場合は、当日の18時までに上司に申請書を上げる。上司は「絶対に今日しなければいけないことか?」「業務に差しさわりがあるか?」などの項目にチェックを入れて印鑑を押す。残業終了後は、残業予定時間と実績時間の報告書を記入して退社する。
「残業を本人任せにせず、上司が状況を把握し、作業を明日に延ばしたり他のメンバーに振ったりといった対策を行うことで、1人当たりの1カ月の残業時間を約6時間削減できました。残業の多かった部署は、月10時間30分もの削減になりました」
と、総務部課長の田中氏は語る。
 さらに、残業時間が一定の時間に近づくとアラートが鳴るように設定し、個人別の残業時間を掲示板に見える化し、努力を続けている。

◆業務の仕分けを行い、「絶対に必要な仕事」に特化
 本当にその仕事が必要なのかどうかを明確にするために、業務の仕分けを実施した。「絶対にやらなければいけない仕事」「やった方がいいけど、やらなくてもいい仕事」「やらなくてもいい仕事」の3段階で従業員が判断し、それを部門長が確認して会社に提出した。
「業務内容が見直され、今まで惰性や習慣でやっていた仕事の中に、不必要なものがあると分かり、時間短縮や効率化に結び付いたと思います」
と田中氏。
「お客さまに不便をかける部分もあるかもしれないという心配はありましたが、思い切って取り組みました。お客さまの理解や協力も、徐々に得られていると感じます」
と、吉岡氏も続ける。

◆将来のリーダーを育成する「ジュニアボード」を設置
 若手育成のために「ジュニアボード(JB)」を設置した。将来リーダーとなって働きたいという思いのある30歳前後の従業員の中から、挙手制で5名がこのJBに参加している。JBは月に1回、社長も交えて話し合いや勉強会を持ち、全社的なコミュニケーションの取組や情報発信などを行う。JBメンバーが会社前に立って「あいさつ運動」を行ったり、行動指針の言葉を「私たちのアクション」から「Taiseiのプライド」に変更したりといったアイデアが実行されてきた。彼ら自身も、全社員を巻き込んでいくことの難しさを通じ、マネジメントの学びとなっている。
「若手従業員の活躍の場があることで、非常に社内が活性化してきて、横の連携やコミュニケーションが取りやすくなったと感じます」
と田中氏。

◆出産・育児に柔軟に対応する風土
 「当社ではかなり前から、時短を行ったり、授乳時間によって勤務時間を調整したりしています。私自身、子どもを育てながら働いてきましたので、出産・育児に関しては理解のある会社でありたいと思います」
と吉岡氏。男性従業員の育児休暇についても実績があり、従業員の状況に応じて上司や管理職が相談に乗り対応している。

取組の中では課題も

 「やらなければいけない業務を放ってまでも、働き方改革だから早く帰りましょうということではありません。そのために労働生産性をいかに上げるかという思考が大切ですが、従業員への浸透はまだまだです。結果を具体的な数字に落とし込んでいく必要があると感じています。働き方改革に取り組むことで自己の成長につながり、ひいては、働きがいを感じることができる工夫もしていかなければなりません」
と、吉岡氏は語る。

取組の成果

 「若い従業員が“うちの会社はブラックだね”と言わなくなりました。採用活動はJBのメンバーに任せていますが、結構、就職説明会の出展ブースなどに人が集まってくださるなど、効果を実感しています」
と吉岡氏。
「この取組が少なからずアピールポイントになっていて、採用試験を受けに来られた方から“こういう取組をしているから来ました”という声も聞きます」
と、田中氏も話す。 

◆労働時間(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が165.0時間

◆多様な働き方(直近3年間)
・時差出勤制度の利用が5人
・育児・介護を除く短時間勤務の利用が6人

従業員からの評価

 「一番変わったと思うのが、空気感です。単純に早く帰るだけでもみんなの顔色が違いますし、プライベートな時間が持てるので、趣味や子育ての話で盛り上がるようになり、コミュニケーションが深まりました。子どもや祖母を病院に連れて行く時などは有給休暇を取りますが、使いやすい雰囲気になってきたと思います。自分の力が試したくてJBのメンバーにもなりました。年末のあいさつ運動のリーダー経験を通して、取組の手応えと自分自身の成長を実感しています」
と、メディア事業部の国貞さん。

「働き方改革を行ってきたことで、『他の人が残業していると帰りにくかったけど、今はやらなければいけない仕事をやれば周囲の目を気にすることなく帰れるようになった』『特に急ぎの仕事が無くても、土曜日は出勤するのが通例だったが、連休が増えたので生活にゆとりができた』などの好評価もありますが、逆に『急ぎの仕事があっても残業になるので頼みにくい』『やりたい仕事や急ぎの仕事があっても申請をしてまで・・・と考えると後回しにしてしまう』といった声も聞きます。そのようなことが起こらないよう仕事の標準化と生産性の向上に取り組み、さらにプライベートと仕事が両立できる職場を目指していきたいと思います」
と、田中氏。

今後の目標 など

 「従業員がいろいろな働き方ができるように、もっともっと枠を外していかなければと考えています。例えば、在宅ワークや短時間社員の組織化など、まだまだできることがたくさんあると思います。働き方改革はさらに生き方改革へと進化していきます。仕事を通じ成長し、従業員の人生が充実した豊かなものになるよう、働き方改革を進めていきたいと思います」
と、吉岡氏は締めくくった。

取材日 2019年2月

会社概要

株式会社Taisei
所在地:広島市安佐南区祇園3-24-17
URL:https://www.taisei-print.co.jp/
事業内容:ブランディング、ウェブ制作、広告企画・印刷
従業員数:49名(男性35名、女性14名)
(2018年11月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com