50年先を見据えた理想の働き方を求めて
有休取得、女性活躍、残業削減など改善を推進

青山商事株式会社

取り組んだ背景
 ~若手の離職増、旧来の人事制度見直しへ

 「洋服の青山」ブランドで全国的な知名度を誇る、紳士服の小売業国内最大手。約900店の系列店の大半は年中無休で営業し、季節の変わり目など繁忙期にはパートタイマーやアルバイトを含むと約8500人が勤務する。近年、いずれ店長として活躍してもらいたいと期待をかける20~30代の若手の離職が増え、採用し育てては辞めるという悪循環に陥っていた。創業以来、人事制度の抜本的な改正は実施されておらず、2014年の創業50年を前に、これまでの働き方を見直さなければという議論が社内で起こった。人事部長の小川誠氏は
「50年先の将来を見据えた時、これまでの人事制度では継続的に事業を発展・成長させるのは難しいと感じていました」
と、当時の状況を語る。

主な取組と工夫点

◆幹部によるプロジェクトチーム結成
 15年に全社から課長職以上の社員、地区統括責任者など計16人を集め、「人事制度改革プロジェクト」を立ち上げた。小川氏が責任者となり、参加メンバーから給与や退職金、人事評価、転勤制度など、さまざまな課題や問題点を抽出・整理した。そして、それらの課題に対し従業員の意見・想いを反映させるために外部コンサルタントの協力を得て、70項目にも及ぶアンケートを実施した。
 その結果、「将来にわたり働き続けたいと思える職場づくり」に焦点を絞って改革を進める方針を固めた。3年がかりで計画を練り、18年4月に新しい人事制度の運用を始めた。

◆店長の意識を変え、評価制度も刷新
 これまでは月次の売り上げ目標の達成に向けて、店長自らが営業の最前線に立つ率先垂範型の組織運営が浸透していた。アンケート結果から、猛烈に働くその姿はスタッフに刺激を与える一方、有給休暇を取りにくい職場の雰囲気を生み、さらに「同じようには働けない」と、若手が将来の自らのキャリアを店長に重ねることを難しくしていることが判明した。
 そこで店長の意識改革を推進。売り上げ目標を中長期的な視点で捉え、また個人売り上げだけでなくチーム売り上げを重視する仕組みとした。店長の評価についても、業績評価(目標管理)だけでなく行動評価をバランスよく取り入れることにした。

◆転勤が定着を阻害、転勤可能だと報酬アップ
 アンケートでは、全国転勤が定着を阻む要因の1つになっていることが判明した。そこで、転勤登録制度を見直し、全国転勤可能だと給与を15%アップ、エリア内で転勤が可能だと10%アップ、と総合職と地域限定職で給与に明確な差をつけた。この結果、総合職の士気が上がっただけではなく、女性が結婚後に転勤のない地域限定職に変更し、家庭と両立しながら働くという選択肢も生まれた。

◆有給休暇取得をバックアップ
 人事部副部長の櫻井英紀氏は
「17年度には、3日間の有給休暇取得目標を掲げ実施したところ、ほぼ全員が取得することができた」
と手応えを得た。また毎月の取得日数を把握し、会社全体で有給休暇を取得しなければという意識を少しずつ広げていった。有給休暇の取得日数は16年に2.3日だったが、17年に6.3日、18年には8.2日となり、取得率も16年の13.8%から48.1%まで伸びた。

◆女性活躍推進のワーキンググループを発足
 人事制度改革に並行して「女性活躍推進ワーキング」を発足。これまで店長は男性ばかりで、女性の活躍する機会が限られ、〝女性活躍〟の意識が芽生えづらかったという。女性を主体にディスカッションを重ねる中で
「自分たちでも少しずつ会社を変えていけるのではないか、という発想が生まれてきました」
と、人事部副部長の渡邊美咲氏は語る。
 女性活躍を推進する役割として、人事部に「ウーマンアドバイザー」という専任スタッフを置き、ライフステージに合わせたさまざまな支援を始めた。例えば、産休・育休中の従業員向けに、復帰支援セミナーを開き、育休取得者同士の横のつながりを形成し、復帰への不安要素を解消した。ウーマンアドバイザーの中﨑佳子氏は
「セミナー参加者は全員が職場復帰を果たしています」
と、成果を実感する。入籍後10年間もしくは子どもが小学6年生になるまでは、実働6時間の時短勤務ができるなど制度も見直した。
 また、仕事と育児の両立をするために、男性の育児休業も推奨。実際に18年度には41人が育休を取得しており、長い従業員では2カ月間取得している。

◆夏季の営業時間短縮で総労働時間削減
 長時間労働対策として、勤怠管理システムを新たに導入。上長が従業員の時間外労働時間の状況を管理できるようにし、時間外労働が多い従業員に対しては、業務状況を聞き取り、注意喚起を行う。また、本部では毎週木曜日をノー残業デーとするほか、一部店舗では閑散期である夏季の平日営業時間を短縮するなど、経営的な判断も行いながら会社全体で総労働時間の削減に取り組んでいる。

取組の中で苦労したこと
 〜働き方を変えることに抵抗も

 これまでの働き方を変えることに、社内には少なからず違和感があったという。渡邊氏は
「これまでの店長の役割も、個々の働き方も、いろいろと変化しようとしている中で、ハレーションは確かにあった」
と話す。さまざまな取組が確実に働きやすい職場づくりにつながっており、粘り強く意識改革を進めている。

取組の成果
 〜離職率低下、ワークライフバランスも実現へ

 これらの取組により、新入社員の退職者数は17年上半期に14人だったが、翌18年には半数の7人にまで減るなど、確実に改善が進んでいる。また「効率的な業務を行うために、マニュアル、手順書の整備を行うと共に各自のスキルアップを図る意識が高くなった」、「所定勤務時間の中で効率的に働けるように、創意工夫をするようになった」など、業務効率の向上にもつながっている。「有給休暇が取得しやすくなり、余暇も充実。時間外勤務が減り、家庭との両立がより可能になった」と、ワークライフバランスも充実しつつある。

課題や今後の目標
 〜正社員登用や介護相談窓口の設置など

 現在、女性活躍を推進する厚生労働省の「えるぼし認定」や、子育て支援などで一定の基準を満たした企業が選ばれる「くるみんマーク」の取得を目指している。またパート従業員のキャリアアップとして正社員登用を推進している。給与や待遇面が改善されると共に、自己実現が可能となる制度整備により社員の働きがいが増し、その結果、営業力の強化にもつなげる狙いだ。高齢者の介護を抱える従業員には介護相談の窓口を設け、外部の福祉施設と連携し、親の介護をしながら働ける環境づくりを進めている。小川氏は
「いろいろな働き方を許容するために、就業規則を改正し超過労働にならない範囲で副業を可能とした」
と話す。

従業員からの評価

人事部 労務・福利厚生グループ
杉原 奈実 チーフ
 2児の母親で、朝9時30分~午後4時30分の短時間勤務で働いています。放課後の学童保育の迎えは、フルタイムで働いた後では間に合いません。悩んでいましたが、両立支援策として制度が改正され、子どもが小学6年生まで短時間勤務を延長できることとなりました。また、半日有休や時間有休の制度ができたことで、参観日や習い事の送り迎えにも対応でき、家庭と仕事の両立が可能となっています。

取材日 2019年5月

会社概要

青山商事株式会社
所在地:福山市王子町1-3-5
URL:http://www.aoyama-syouji.co.jp/
事業内容:各種衣料品の企画・販売に関する事業
従業員数:7597人(男性3529人、女性4068人)
(2019年3月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com