Vol.3 松村循環器・外科医院
~「スモールスタート」から 実施領域拡大 職員の業務負担軽減・ ケアの質向上へ~

◆◇◆企業を変えるテレワーク ー 県内企業の挑戦 ー ◆◇◆

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院


地域のかかりつけ医として診療や訪問看護、居宅介護支援事業などを運営する松村循環器・外科医院。職員が在宅勤務や直行直帰できる環境整備に着手し、柔軟な働き方の実現に力を入れている。向井みどり事務長に話を聞いた。

テレワークに取り組んだ背景

― 多様な価値観を認め、柔軟な働き方を推進

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院医療法人松村循環器・外科医院 / 向井 みどり 事務長
 コロナ禍真っただ中の2021年8月、居宅介護支援事業所の職員から「1日中マスクを着用し続けるのがつらい」という声が上がった。医療・介護業界が慢性的な人手不足にある中、行動制限が職員の退職につながる可能性もあり、何か手を打てないかと思案した結果、ケアプラン(介護サービス計画書)の作成など事務業務であれば在宅勤務可能なことからテレワークの導入に踏み切った。



主な具体的な取組

― 低コストで不満の種をこまめに取り除く

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院
 居宅介護支援事業所では、要介護者が最適な生活支援を受けられるよう、ケアマネジャーが介護を必要とする人や家族と面接し、ケアプランの作成やサービス事業者との調整を行う。事務業務はノートパソコンと基本的なオフィスソフトがあれば場所を問わず勤務できるため、テレワーク勤務規定を定めた後、9月からテレワークの運用を開始した。
 スタート直後には問題も発生した。事務所には利用者などから電話が頻繁にかかってくるため、テレワークの職員と事務所にいる職員の間で業務負担の差が出てしまった。そこでテレワークする職員に専用の電話番号を支給し、担当職員の携帯電話へ直接転送できるようにした。
 職員同士のコミュニケーションにも課題が挙がった。以前は対面形式の朝礼を行い、職員同士の交流機会があった。しかし、テレワークの導入後は職員が同時にそろう朝礼は難しくなり、コミュニケーション不足となった。そこで、より対面に近い形でコミュニケーションが行えるよう、事務所に大型モニターを設置。ビデオ会議システム「Zoom」を常時接続することで、リモートで朝礼に参加でき随時コミュニケーションが取れる体制を整えた。


導入後の変化・メリット

― テレワークを実施する部署・業務の拡大

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院
 22年3月からは、テレワークを導入する部署を拡大し、居宅介護支援事業所の隣に拠点を構える「訪問看護ステーション」でもテレワークをスタートした。職員4人が順番でテレワークを実施し、出社の必要がないときには直行直帰を奨励。職員からは「朝、自分の時間が取れる」「ワークライフバランスの向上につながった」などの意見も挙がり、テレワークの効果を感じている。
 また、今回の取組を機に、職員の業務改善や、テレワーク実施につながる業務領域の拡大に着手した。現在利用している介護保険システムはインストール型の※オンプレミスソフトで、訪問員は事務所にあるパソコンでしか訪問記録の入力ができず、職員の帰宅時間帯に度々入力の渋滞が発生している。そのため、年内にクラウド型の介護保険システムを導入し、訪問先で直接訪問記録が入力できるワークフローの構築を目指す。これにより、訪問員が直行直帰しやすい環境が整うほか、事務所でしか確認できなかった登録情報が訪問先でも確認できるようになる。さらに、これまで訪問時の利用者の様子は、携帯電話やスマートフォンで写真を撮り、事務所に帰ってから医師へ報告していたが、現場の様子を映像などで詳細に伝えることができることから、迅速で適切なケアにもつながる。


取組のポイント

― 先入観を取り除いてチャレンジ


 同事業所では職員の要望をきっかけにテレワークを導入した。実施が難しいとされる医療・福祉の業種でも、前向きに検討すればテレワーク可能な業務の切り分けや、課題解決に向けた糸口が見つかる。職員の要望に耳を傾け、できるだけ答えようとする姿勢が職員の離職防止、ひいては「この病院で働けて良かった」と職員に感じてもらえるきっかけとなる。

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院


今後に向けて

― 従業員満足度(ES)向上を目指す

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院
 テレワーク導入を機に、従業員満足度向上の取組に力を入れている。
 例えば、職員の頑張りを見える化するため、猛暑日に患者宅へ出向いた看護師や、冬の出勤前に雪かきをした職員に対して手当てを支給している。さらに、職員のエンゲージメント向上を目的に年1回、理事長が全職員面談を実施。面談時には職員の悩みや要望を聞き取り、結果を受けて「職員の年間休日数増」にも着手した。試験的に外来対応する看護師の休みを週2日から2・5日に増やした。職員の人数が減っても支障が出ないよう、受付やカルテ出しなど業務の属人化を解消。職員は休みを利用して温浴施設や美容院に通うなど「リフレッシュできる」と好評で、今後は全職員への適用を目指している。
 こうした制度改善に加え、テレワークの活用による柔軟な働き方を推進していくことで魅力的な職場環境づくりをさらに進めていく。

社員の声

企業を変えるテレワーク 広島県内企業の挑戦|松村循環器・外科医院居宅介護支援 / 那須 麗子 さん
 介護保険に関する相談・助言や、利用者とそのご家族の希望、要望に沿ったケアプランの作成などを手掛けています。1日中マスクをしていることが何かと息苦しく、テレワークを導入してもらったおかげでそうしたストレスから解放されました。
 テレワーク中は自分の業務に集中できるので作業効率が高まります。車で15分の出退勤時間を有効に活用できるほか、お昼にお弁当ではなく自宅で暖かい食事を取れることもメリットだと感じました。


用語解説
※オンプレミス

サーバー機器などのハードウェアや業務用アプリケーションなどのソフトウェアを、使用者の管理する施設内に設置して運用すること。対照的にクラウドは、インターネット経由のため、別のコンピューター上にあるアプリケーションなどを自社施設内に設置することなく利用できる。

取材日:2023年10月

会社概要

松村循環器・外科医院
所在地:広島市佐伯区楽々園2-2-19
URL:http://www.matsumura-cc.jp/
業務内容:医療・介護
従業員数:79人

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍 取組サポートサイト「ヒントひろしま」http://hint-hiroshima.com
広島県商工労働局 働き方改革推進・働く女性応援課 TEL 082-513-3340