従業員の視点に立った効率化や環境改善には
力を惜しまず
社会福祉法人 松友福祉会 障害者支援施設 寿波苑
1.経営層のリーダーシップで働きやすい環境を追求
「社会福祉法人 松友福祉会 障害者支援施設 寿波苑(以下、寿波苑)」では労働力を確保し、安定した施設運営を実現するため、従業員にとって魅力的で働きやすい職場づくりを追求している。これは、女性従業員比率が79.2%である同法人において女性活躍推進にも関係している。
寿波苑では経営層がリーダーシップをとり、(1)雇用の継続(2)業務の効率化(3)能力開発といった基本的な事項を1つ1つ丁寧に行ってきた。この結果、寿波苑の平均勤続年数は業界平均5.6(※1)年を大幅に上回る14.1年、さらに従業員の有給取得率は100%を実現した。
図1 寿波苑の平均勤続年数と介護事業所の全国平均の比較
※1 出典:公益財団法人介護労働安定センター「平成29年度 介護労働実態調査」
2.法改正前から育児休業を推奨し、就業継続を推進
「知識・経験を蓄積した女性従業員の出産・育児等による離職を防ぎ、就業継続を促進することは、優秀な人材の確保という点においてもメリットがあります」
と村瀬映次施設長は語る。
清川浩三法人本部長によると、寿波苑の母体である「社会福祉法人松友福祉会」の過去の人材採用方針として、“介護は家庭の延長にあり、また、介護業務は女性の得意とするところ”という認識があったため、1988年に寿波苑が開所された際に採用された20名は全員が女性であったそう。井上由紀江さん(現、生活支援課長)もその一人だ。その後、「様々な利用者のニーズに対応していけるように」との事務長の考えにより、徐々に男性介護士も増加している。
寿波苑では開所時から結婚・出産で退職する女性従業員はほぼいなかったが、育児・介護休業法の施行前ということもあり、育児休業を取得せずに復職する場合が多かったという。当時の事務長はその状況を危惧し、育児・介護休業法の施行より2年も早い90年に育児休業制度を導入した。そして、事務長自らが率先して育児休業の仕組みを従業員に説明し、村瀬施設長(当時は生活相談員)らが従業員との話し合いを重ねることで、育児休業に対する現場の理解を図った。この結果、制度開始から5年ほどで育児休業を取得する風土が定着したそうだ。
このように、寿波苑では比較的早い時期から従業員を大切にし、雇用の継続を重視する姿勢をとってきた。現在では常に1~2人が育児休業取得中だという。
3.効率化のための仕組みを導入し、有給取得率も100%に
2003年の支援費制度導入により義務付けられた介護記録の業務は、寿波苑の限られた人員でこなすには多くの時間を要した。事業者側が利用者に対してサポートを実施するたび、個別の介護記録を細かく記録することが必要で、日誌や報告書といった書類へ2度、3度と転記する作業が生じてしまった。また、介護・看護の従業員間で情報共有のタイムラグが生じ、お互いの業務や負荷が見えず、業務量の偏りやスムーズな連携ができないなどの問題を抱えてしまっていた。
そこで情報共有による介護・看護の業務内容の見える化を図り、業務効率化を目指すため、介護記録専用の「生活支援記録ソフト」を13年に導入した。自動的に情報が集約される仕組みであるため、転記が不要となった。これにより事務作業が減り、“時間的・精神的な余裕”が生じ、サービスの向上に注力できるようになったという。また、料理や身体を動かす風船バレーといった各種レクリエーション、日帰り旅行や半日外出などのイベントを、利用者が心置きなく楽しめるよう支援できるようになるなど、利用者に寄り添ったサービスに力を入れることが可能になった。
また、リアルタイムでの情報共有が可能となり、従業員同士で業務や負荷状況といった“動き”が見えるようになった。加えて、村瀬施設長が介護・看護の従業員と話を重ねていくことで、業務が徐々にスムーズに行えるようになったという。寿波苑では、妊娠した従業員は夜勤や身体的負荷が高い業務から外すなど、業務役割の配慮を行うが、
「フォローに入れる人が積極的にフォローをします。気を付けているのは、特定の誰かだけが忙しいという状況を絶対に作らないことです」と村瀬施設長は語る。
パソコンを使ったことがない従業員も多かったため、入力を学ぶことから始まり、定着までは時間がかかったが、その分の効果はあったという。
寿波苑では、有給休暇取得率が100%であることも特徴的だ。子供の病気や行事、自身の身体の都合、海外旅行など、それぞれの理由により休むが、従業員の仲が良く、“お互い様だから”と業務をフォローする風土ができているという。
また、「生活支援記録ソフト」の導入により、仕事の見える化や効率化が実現したことも有給取得を可能にした大きな要因だ。介護を担当する従業員は、それぞれの一日の業務分担表をもとに業務にあたるため突発的な休暇があっても、その表を確認し、負荷を考慮して各個人の分担を組みなおすそうだ。
さらに、寿波苑の母体である松友福祉会では、介護現場だけでなく、調理員の業務改善も予定している。3施設の食事を1カ所で調理するセントラル方式を導入、さらに19年度からは、セントラルキッチンのある施設にマイクロ波方式の加熱機器導入により加熱時間の短縮を図り、朝の早出時間を1時間遅らせる取組を行う予定だ。
4.個々のスタッフの能力向上のための研修も積極的に行う
寿波苑では10数年前より、ケア方針の共有や、専門知識・接遇といった能力向上のための従業員研修を研修委員会の主催で月1回行っている。村瀬施設長を中心とした研修委員会にて、毎月の研修内容を検討し、講師や日程等を調整する。また、従業員が研修委員会メンバーとして活動することで、企画力やコミュニケーション能力などが伸びる効果も期待しているという。
「人材育成の観点からだけでなく、従業員にとって魅力ある職場にして雇用の継続を促すため、研修には力を入れています。より良い介護サービスが提供できるよう、利用者様とのコミュニケーションを重視しており、接遇研修には特に注力しています」と村瀬施設長は語る。
外部研修においては、法人外で開催される感染症対策や障害者施設研修会などに参加をして知見を広めてもいる。また内部研修にも外部講師を招き、法制度、接遇、コミュニケーション、虐待防止研修など、座学だけでなく、意見交換やグループワークを行うことでさらなる理解を図っている。
取材担当者からの一言
介護労働安定センターの調査によると、介護業界では年々人材不足感が高まっており、17年度の調査では66.6%の事業所が不足感を感じると回答している(※1)。そんな中、寿波苑における平均勤続年数は14.1年であり、雇用の安定が実現できている。
また、人材の確保や定着に関する課題が少ない事業所で実施率が高い施策は、下記の3点であるという(※1)。
(1) 残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等、労働条件の改善に取り組んでいる
(2) 業務改善や効率化等による働きやすい職場作りに力を入れている
(3) 経営者・管理者と従業員が経営方針、ケア方針を共有する機会を設けている
寿波苑においては、これらすべてについて取組が行われた結果の成果だろう。
その鍵を握るのは、内部における密なコミュニケーションであり、「従業員同士の仲が大変良い」という村瀬施設長の言葉にも表れている。また、改善の目的や方向性を明確にした上で必要なコスト・人材・時間を投入し、また、改善を現場に定着させるためのパイプ役として、従業員への的確なフォローを行う中間層の努力もあるようだ。
●取材日 2018年11月
●取材ご対応者
社会福祉法人 松友福祉会 障害者支援施設 寿波苑
法人本部長 清川 浩三 氏
施設長 村瀬 映次 氏
生活支援課長 井上 由紀江 氏
会社概要
社会福祉法人 松友福祉会 障害者支援施設 寿波苑
所在地:三原市須波ハイツ4-15-1
URL:http://www.sunamien.jp/index.html
業務内容:「社会福祉法人 松友福祉会 障害者支援施設 寿波苑」は身体や知的障害を抱え、常時介護を必要とする18歳~65歳に対して、ショートステイや一時利用にも柔軟に対応し、施設入所介護を中心とした生活介護を行う。「全ての利用者の人権を尊重し、細心の注意と最大の努力を傾注し、安全にして確実、そして明るい生活の場を創り出すものとする」の基本理念の下、高品質のサービス提供を目標に活動をしている。
従業員数:53名
女性従業員比率:79.2%
女性管理職比率:75.0%
(2018年11月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)