国際的な基準を目指す中で
働きやすい環境も磨かれ、さらなる高みへの途上

医療法人ハートフル

1.地域医療の発展のために若手を育成し、人材を輩出する役目を担う

 医療法人ハートフル(以下、ハートフル)は主に回復期医療、そして福祉が一体となった総合医療福祉を提供する医療法人である。

 その中の1つであり、本社を置くアマノリハビリテーション病院がある廿日市市では「アマノ」と呼ばれ、地域住民から親しまれているそうだ。2つの医療機関と10の事業所を抱える同法人には449名の職員がおり、うち81%が医師、薬剤師、看護師、理学・作業療法士、言語聴覚士、栄養士、保育士、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士などの有資格者である。

 ハートフルの理念は「地域のために 地域とともに」であり、地域に根付き、地域を医療・福祉で支えるという姿勢を貫いている。ハートフルの平均勤続年数は男性6.4年、女性7.1年であり、全国の医療福祉業界平均である男性8.4年、女性8.3年(※1)と比べると短い。しかし、それには理由がある。

 それはハートフルが地域医療の発展のため、人材育成の基幹法人としての社会的使命を果たしているからだ。特にリハビリテーション部門では新規採用者のほとんどが新卒者であるが、新卒者は地元で専門職として従事することを希望しても、その地域によっては病院や施設の規模も小さく、研修や学びの機会が少ない場合がある。そのため、経験を積むことを目的としてハートフルに入職し、様々な業務や研修を通して多角的で幅広いリハビリテーションの専門知識と能力を身に付け、3~5年の実務経験を経て退職し、元来希望していた地元の病院や施設に転職することがあるからだという。

 平成29年度の採用者は男性11名、女性31名の計42名であり、その多くがリハビリテーション部門への配属である。採用者が42名と多い理由は、上述の人材育成の基幹法人として地方の新卒者の受け皿となっていることもあるが、
(1)専門学校や短大・大学の実習を受け入れている。
(2)小児から高齢者までの様々な疾患に対するリハビリテーション能力を身に付けることができる。
(3)在職中である職員の後輩が入職してくる。
(4)子育て支援が充実している。
こと等ではないかとハートフルは分析する。中には「家族がお世話になったため」「地域に愛されているため」といった理由でハートフルへの入職を志望する人もいるそうだ。

※1 厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査の概況 第5表 主な産業、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び年齢階級間賃金格差」

2.働きやすい環境の整備で、
業界傾向である「ライフイベントを理由にした離職」を防止

 広島県における、医療・福祉業界における離職率は15.7%であり、全国平均である14.8%と比較するとやや高い。また、女性のみの離職率を見てみると21.6%と、全国平均である15.1%に比べて6.5ポイントも高く、熊本県の28.5%、福岡県の27.7%に次いで全国で3番目の離職率の高さとなっている(※2)。

 離職理由の内訳は、看護職では「出産・育児のため」が22.1%、介護職では「職場の人間関係に問題があったため」の23.9%に次いで「結婚・出産・妊娠・育児のため」が20.5%を占めており、看護職も介護職も妊娠・出産を機に退職する傾向があるといえる(図1)。

図1 看護職、介護関係の仕事を辞めた理由

 しかしながら、看護職と介護職を擁するハートフルにおいて、平成28年度に妊娠・出産した女性職員27名のうち退職者は1名のみであり、女性のライフイベントを機に退職する傾向は非常に少ないという。その理由として「院内託児施設の充実」「男女とも働きやすい職場環境」の2つが挙げられる。

 ハートフルでは、平成8年より職員専用の事業所内託児施設を整備している。この、院内保育園である「あまの保育園」では、0歳から3歳までを保育しており、最大負担金額は月7,000円。曜日限定ではあるが、夜勤勤務者のために24時間保育も実施しており、25名の定員は常に埋まっているそうだ。

 保育園の定員数の拡大が喫緊の課題となっているが、臨時の対策として近くの保育所を院内保育園と同じ条件で利用できるよう、保育料の差額支給などの福利厚生制度を設けている。院内保育園の運営を始めたきっかけは、ハートフルの理事長である天野純子氏が3児を出産し、育児に追われ、勤務地の中に保育園がある方が「安心して働く」ことができ、また、仕事と家庭の両立において、「タイムロスが少ない」と考えたからだという。法人企画部の大﨏部長によると、院内託児施設があることで就職を希望する中途採用者も多いのだという。現在、職員からの要望が多い病児保育の実現も検討中で、さらなるサービス拡大を追求していくそうだ。

 続いて、「男女とも働きやすい職場環境」については、個人の状況に応じた無理のない勤務が実現できるよう、育児や介護等で時短勤務を希望するすべての職員に関して、所属組織にかかわらず9〜16時の短時間労働を認めている。

 また、時間外労働は月平均10時間となるよう調整したり、翌月の有給休暇の申請を考慮したシフト設定を行うなど長時間労働とならないよう意識した取組を行っている。その結果、有給休暇取得率は男女ともに80%であるという。

 さらに、平成23年3月に男性職員が社内初の育児休業を取得して以来、これまで10名の男性職員が育児休業を取得しており、その中には管理職の男性もいたという。日数は最短で5~32日間と個人によって異なるが、平均で10日前後取得する男性職員が多いといい、定着ぶりがうかがえる。このようにしっかりとした制度が整い、その制度を利用する風土が根付き、男女ともに働きやすい職場環境となっていることが離職防止にもつながっているようだ。

※2 厚生労働省「平成28年雇用動向調査結果の概要」

3.リハビリテーション施設の国際的評価機関からの認定を機に、
さらなる労働環境の改善にむけた活動を開始

 ハートフルは、平成29年度、リハビリテーション施設の国際的評価機関であるCARF Internationalから日本初の認定を受けた。審査項目は、患者主体のリハビリテーションを実施しているか、などの専門的な項目だけでなく、患者や職員の安全性の確保、労働環境の整備ができているかといった項目もあり、ハートフルでは平成28年より毎年1回、全職員を対象とした職員満足度調査を実施している。

 この職員満足度調査は、労働・雇用・精神的負担・肉体的負担・給与といった職員が抱える問題や悩みを吸い上げ、課題を識別し、さらなる労働環境の改善を図るために行われている。平成28年に同法人が実施した調査では「仕事と家庭のバランスが取れているか」の項目について「満足している」と答えたのは全体の48%であり、法人としての労働環境整備のための対策が必要と判断した。

 そこで、子育て中や子育てが一段落した30代以上を中心とした各組織の代表9名(男性3名、女性6名)によるプロジェクトチームを立ち上げ、現在、法人内の課題の洗い出しを行っているところだという。今後、各現場での意見を取りまとめ、目的に応じて優先順位をつけてアクションプランを立案する予定だ。

 幅広い事業を展開するハートフルでは、それぞれの現場で悩みも異なるため、各組織で不公平が生じないようにと、対策に尻込みする傾向もあったそうだが、女性を中心に数々の相談の声が上がり、経営層も改善の必要性を実感したという。

 具体的な内容を尋ねると「病児保育」や「警報発生時などの小学校の臨時休校対策」などの意見が上がってきているといい、早くも対策を考えているそうだ。2020年には職員の満足度を60%まで引き上げることを目標とする。

取材担当者からの一言

 医療・福祉業界の多くで抱える悩みといえば「人手不足、採用ができない」ことであろう。取材の冒頭で質問すると「ハートフルでは人手不足感はあまりない。なんとか採用できている」という答えであり、取材を進める中で、その理由をひも解くことができた。

 医療・福祉業界の女性従業員比率は74.8%(※3)、女性管理職比率は50.6%(※4)であり、最も女性活躍が進んでいる業界だ。ハートフルの女性従業員比率は73.5%、女性管理職比率は55.5%であり、全国平均に近い状況である。職員の負担額が少ない院内保育施設を備え、各種両立支援制度の整備や男性の育児休業取得が浸透しつつあり、働きやすい環境が整っている先進的な法人であるように感じたが、職員満足度調査やプロジェクト組織で課題を認識し、さらなる改善中だという。

 根本には、CARF Internationalの認証取得といった、リハビリのサービス品質向上への取組に表れているように、地域医療を支える法人として、質の高いサービスを提供したいという考えがある。そのためには「職員を大切にすることが重要である」という法人としての信念が伝わってきた。これこそが「人材の確保」ができている理由ではないかと感じた。

※3 総務省統計局(2016年)
『労働力調査 長期時系列データ 表5 第12回改定日本標準産業分類別就業者数』
※4 厚生労働省
『平成28年度雇用均等基本調査 図9 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員含む)(企業規模10人以上)』

●取材日 2017年12月
●取材ご対応者
法人企画部 部長 大﨏 均 氏
障がい者支援部 部長 立花 英美 氏
事務部 総務課 課長 赤松 俊宏 氏

会社概要

医療法人ハートフル
所在地:廿日市市陽光台5-9
URL:http://amano-reha.com/
業務内容:医療法人ハートフルは、廿日市市に拠点を置き、リハビリテーションを主軸とする総合医療福祉グループである。「アマノリハビリテーション病院」と「廿日市在宅総合ケアセンターあまの」を中心として、外来、入院、居宅介護支援、訪問看護・リハビリ、高齢者デイサービス、重度認知症デイケア、老人ホーム、障害者生活介護、児童発達支援センター、放課後等デイサービス、障害者相談支援、障害者就業支援などの事業を運営。子供から大人まで地域住民のニーズに包括的に応える医療・福祉機関を目指している。2017年には、リハビリテーション施設の国際的評価機関であるCARF(Commission on Accreditation of Rehabilitation Facilities)から日本で初めてリハビリの品質を評価する認証を受けた。
従業員数:449名
女性従業員比率:73.5%
女性管理職比率:55.5%
(2017年12月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com