働き方改革は業務改革
情報共有や多能工化で業務の属人化を改善

広洋工業株式会社

取り組んだ背景 ~仕事の属人化が進み、残業時間差が10倍も

 特装車のボデーから塵芥(じんかい)収集ボックスまで、製缶加工を中心にさまざまな産業機器の設計・制作を手掛ける。本社のある海田のほか、4工場で事業を展開。顧客ごとに担当者を置く顧客担当制にしていたが、事業の拡張とともに製造品種が多岐にわたるようになり、発注数の多い顧客の担当者は残業が月100時間を超える一方、10時間未満の従業員もいた。代表取締役の藤原隆政氏は、
「以前から改善が必要だと痛切に感じていました」
と話す。 顧客担当制により仕事の属人化が加速し、担当者以外は受注自体を知らない、材料が届いてもどの顧客向けの材料か分からない、同僚が何の仕事をしているか分からないという問題が発生。製造過程で不良が出た場合でも担当だけで解決し、会社に情報共有しないケースもあった。この状況を打開しようと取締役で生産管理部長の藤原寛揮氏を筆頭に、工場長と現場リーダーの計3人で県主催の働き方改革セミナーに参加。3人が働き方改革推進者となり本格的に取組を始めた。

主な取組と工夫点

◆コミュニケーションの活性化へ班ミーティングや食事会を実施
 会社の課題を把握するために実施した従業員アンケートにおいて、従業員同士のコミュニケーション不足や基本的な報告・連絡・相談が十分に行われていないことなどが明らかになった。そこで、従業員が共通の問題意識をもてるようにと、コンサルタントを招いての全従業員への働き方改革のセミナーを実施。
 また、働き方改革推進者から各リーダーに取組の方向性を示したうえで、班ごとに話し合いの場を設け、情報共有や意見の吸い上げを行った。少人数での定期的な食事会の開催や、従業員の目標設定と振り返り面談も併せて実施。会社全体、グループ、個別など様々な形態での従業員同士のコミュニケーションの機会を増やしていった。
「従業員同士のコミュニケーション・情報共有の機会を増やすことで、少しずつ、従業員から自発的な意見が出るようになってきました。」
と取締役の藤原氏は話す。

◆残業時間の削減へ多能工化を推進
 仕事の属人化が残業時間の偏りの原因となっていたことから、従業員のスキルアップによる多能工化に着手。成型の中で「切る」、「曲げる」で担当が分かれていたが、互いの作業場を訪れ、一緒に作業することで徐々に担当以外の作業ができるようになってきている。
 また、レーザー加工機など新しい設備を導入することで、誰でも作業ができる環境をハード面でも整えた。また、工場をまたいで行われていた加工も各工場で完結できるよう整備し、作業効率もアップした。さらに、各工場のベテラン従業員による若手従業員の教育も始めた。高齢の技術者たちのいわゆる「匠の技術」を後進に伝える意味でも効果的に機能している。取締役の藤原氏は、
「ベテラン従業員に会社の方針や今後の活動について丁寧に説明をし理解を得たうえで、『(若手に)教えてあげて』とお願いした。そうすることで、積極的に指導に関わってくれている」
と話す。また、業務を洗い出し、仕事の手順と量を明確化することで、「ムリ・ムダ・ムラ」の軽減につながっている。

◆働きやすい環境へ短時間正社員制度など導入
 数年前に出産を控えた女性従業員から希望されたが、当時は導入まで至らなかった「短時間正社員制度」を、2020年春から制度化。正社員としての待遇や賞与をそのままに、本人が希望する時間帯に短時間で勤務できる。子どもの送迎が必要な従業員などの利用を想定し、子どもの成長に合わせて後に通常の勤務体系に変更できる。また半日単位での有休取得や、男性の育児休暇制度を導入するなど、働きやすい環境を着々と築いている。

◆残業時間や有休取得状況を見える化
 以前は総務課しか把握していなかった残業時間や有給休暇の取得状況を一覧表にし、工場の入口に掲示。全員が見える場所で共有することで、それぞれが意識をするようになったという。さらに班長からメンバーへの積極的な声掛けもあり、残業時間の削減や有給休暇の取得につながっている。

取組の中で苦労したこと ~属人化を改め「他人ごと」を「自分ごと」へ

 取締役の藤原氏は取組を始める前の社内について、
「それぞれが業務に追われ、何事に関しても『言わなくても分かるだろう』という雰囲気が蔓延していた。仕事の属人化によって、自分の仕事以外のことは知らないし、人に伝えるという意識も低い状況で、働き方改革に関しても『他人ごと』から『自分ごと』へ意識を変えることが最も難しかった」
と振り返る。当初はリーダーですら受け身の状態だったが、経営陣とともに参加したセミナーや社内での取組を通じ、「自分ごと」へと次第に意識が変化。リーダーや班長を中心に縦横の連携を強化することで、協力し合う体制へ変化していった。

取組の成果 ~働き方改革は業務改革

 従業員から出た意見をそのままにせず、「できることならすぐ動く、できないことならきちんと理由を説明する」と必ず対応することで、経営層と従業員との信頼関係を築いてきた。ベテラン従業員からの技術指導が行われるようになったことで世代を超えた従業員同士の会話を生み、会社全体の一体感も醸成された。多能工化を促進することで仕事の偏りも軽減。以前は各担当しか把握しておらず、全体像すら見えていなかった不良率についても、工程から情報共有して原因を追求することで、不良管理・分析ができる体制へと変化しつつある。

課題や今後の目標 ~苦境にも立ち止まらず、改革を継続

 社内全体の意識改革から始まり、コミュニケーションの活性化、情報共有、業務改善と着実に取組を進めてきた。今後は多能工化やカイゼンをさらに進めることによって会社全体の生産性は上げつつも、従業員が一層ワークライフバランスを実現できるよう、時間単位の有休取得制度も整備する予定だ。 コロナ禍による受注減少など不安定な要素による改革の意識や機運の薄まりを懸念しつつも、取締役の藤原氏は
「アンケートの中に『改革は時間がかかるけれど、ずっと続けていくべきだ』という意見がありました。その言葉を裏切らないように、従業員の生の声をしっかりとすくいあげながら本気で改革し続ける、立ち止まらない会社の姿を見せていくつもりです」
と決意を新たにしている。

従業員からの評価

製缶課
杉本克紀氏

 当初は有休取得などに関して「本当にできるのか」と半信半疑でしたが、リーダーから声をかけてもらうことで意識が高まりました。全員参加のセミナーでは情報共有の重要性を実感。リーダーや班長がつなげてくれることでベテランの先輩方との交流もスムーズになりました。元々、面談を通して給与面などでトップと直接対話ができる風通しのいい会社なのですが、改革が進み、仕事面でも相互に意見交換ができるようになったのが最大の変化だと思います。

取材日 2020年9月

会社概要

広洋工業株式会社
所在地:広島県安芸郡海田町月見町3-10
URL:http://www.koyo-industry.com
事業内容:金属加工、鋼構造物工事業、機械器具設置業
従業員数:38人(男性32人、女性6人)
(2020年9月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com