100周年を機に働き方改革を本格化
業務の時間単価算出で効率化の意識促す

株式会社中本本店

取り組んだ背景
 ~「人」づくり推進へ、13年から改革を本格化

 

 1919年に創業した総合印刷会社で、2019年12月に100周年を迎える。業界では締め切りを過ぎた入稿や修正、印刷・製本の納期に追われ、業務が長引くことがある。同社は2交代制などで早くから残業対策を行ってきたが、13年ごろから働きやすい環境の整備や有給休暇を取得しやすい雰囲気づくりの取組を始めた。代表取締役の中本俊之氏は、
「人を大切にする経営理念が原点にあります。人を育て、社員が幸せに働くために、働き方改革は切り離せません。原爆投下で工場と社員を失い、復興と共に歩んできたからこそ、100周年に向けて改めて『人』づくりを一層進めようと決心しました」と話す。

主な取組と工夫点

◆業務の時間単価を算出し、業務の質向上
 まずは業務の効率化に着手。企画やプランニング、デザイン部門を含めた全ての業務工程にかかる時間と、それが生み出す価値(売り上げなど)を割り出し、業務の時間単価を算出。これによって「この業務は1時間以内に終わらせなければ利益が出ない」といった原価管理の意識が根づき、短時間での質の高い業務を推進している。
 また、営業職はクライアントと綿密な打ち合わせを心がけ、無理な納期の延期の交渉を行うようになり、製造部門の残業時間や休日出勤の削減につながった。社員の心身の負担を減らすだけでなく、割り増し賃金などのコストも抑えられ、利益率の向上にもつながっている。

◆見える化・平準化で効率アップ、残業削減
 16年からは業界の「見える化情報交換会」に参加し、印刷工程の無理・無駄な部分を精査。以前に比べさらに作業効率をアップさせた。特に製造部門では2年連続で残業時間を3%近く減らしている。並行して、見える化した業務のマニュアルを作成。特定の人だけしかできない業務をなくし、偏っていた負荷を平準化した。この過程で、例えばデータ編集のフォーマット策定などの改善提案が出され、効率アップや残業時間の削減にもつながった。

◆有休の残日数を明確化し取得促進
 多様な働き方を推進するために定時の捉え方を見直し、早出、遅出などの裁量労働の幅を広げることで、通院や子どもの送迎などの時差出勤の利用が進んでいる。18年11月からは、給与明細に有給休暇の残日数を記載して取得を一層促している。働き方改革関連法の施行を受け、新入社員でも早い段階から計画的に有休が取得できるように、19年4月に社内規定を変更。入社後すぐに有休が取れるようにした。また、産業医による定期的な訪問や管理職向けのメンタルヘルスセミナーの実施などで、社員の健康面にも気を配る。

◆創造性・発想力の向上へ人事評価制度を改定
 いくら業務効率を高めても、淡々と業務をこなすだけでは創造性は育まれない。印刷業界の中で今後も生き残るために、企画・デザイン部門などの発想力を一層磨く必要があった。会社が目指す基本戦略に「クリエイティビティーを発揮し、あらゆることに挑戦する」ことなどを盛り込み、実現を目指している。室長の川本学氏は、
「働き方改革と連動して、基本戦略に合わせた人事評価制度に変えている最中です。創造性や発想力の向上を図る会社の目標を伝え、社員は各自のチャレンジシートを使って会社の目標を自身の目標へ落とし込み、達成度を数値化。評価基準を明確にすることで、社員のモチベーションも向上すると考えています」。

取組の中で苦労したこと
 〜労働環境を変えることに抵抗も

 働き方改革の本格化に当たって社員アンケートを実施したところ、「労働環境に不満はない」という声が多く、改革で現在の環境を変えることへの抵抗感も見られた。それでも現状を変えなければ、今よりも働く環境が改善することはない。社長室がリード役となり、推進した。川本氏は、
「なぜ取り組むのか、社長の『人』づくりに込めた思いを社員に丁寧に話し、根気強く説得。目的と理解なくして行えば、それもただの作業になってしまいます。理念を共有することが大切です」。

取組の成果
 〜有休取得率は61.3%、業務効率も向上

 年次有給休暇の取得率は61.3%と上昇傾向で、社員からは「有休取得率が上がり、家族行事に参加しやすくなった」との声が上がる。また「社員同士が声を掛け合い、特定の人に時間外労働が集中しないように、仕事の分担が図れるようになった」や「顧客との会話にも働き方改革・長時間労働是正というキーワードが出て、顧客とともに業務の見直しを行い、効率化を実現しつつある」、「業務改善により社内の加工高が上がり、併せてミス防止にもつながり、昨年対比でもミスの件数が減っている」など、働きやすい職場づくりや、業務効率の向上に実感が広がりつつある。 

今後の目標
 〜「社員と家族の幸せ」の実現へ

 社長室課長の宮田浩司氏は、
「働き方改革は当初、社長室が主導しましたが、現在は社員による社内の推進委員会が立ち上がり、自主的に進めてくれています。広島県働き方改革実践企業の認定は、社員が働き方改革を今後も続ける動機づけの良い機会となりました」。
中本氏は、
「次の100年へ向けた中期経営計画『ツナグto the next 100years』で、経営に関わる8つの基本戦略を掲げています。中でも人材面では『社員とその家族をもっと幸せにする』と宣言。これが社長としての最大のミッションだと肝に銘じています」。
〝企業永続は人なり〟を実践する方針だ。 

従業員からの評価

プリプレス(印刷前の刷版作成)
立川 里子 さん

 パソコンで印刷物のデータを作成する業務が中心です。効率の良い編集ソフトを使うほか、営業職がクライアントから聞いた要望を最初にしっかりと確認し、後の修正を減らすことでトータルの業務時間の削減に努めています。多能工化も進めていますが、他の仕事を覚えることは大変。みんなで教え合うことで、コミュニケーションの面でも良い効果が生まれています。担当者の急な休みに対応できるよう、終業時にはデータと一緒に注意点を記して共有サーバーに保管し、誰が見ても分かるようにしています。
 9歳と4歳の子どもがおり、約4年間、時短勤務をしていました。仕事と子育ての両立に不安はありましたが、周囲のサポートもあり、子どもの病気や授業参観時などに休みを取れています。

取材日 2019年5月

会社概要

株式会社中本本店
所在地:広島市中区東白島町13-15
URL:https://www.nakamotohonten.co.jp/
事業内容:印刷、企画、デザイン
従業員数:92人(男性63人、女性29人)
(2019年5月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com