受注量を見直し、品質向上・新アイデア創出
残業減や女性の働きやすさ向上で採用に効果
本瓦造船株式会社
取り組んだ背景 ~好業績に反し、多忙から体調不良者が増加し、離職率も上昇
1949年の創業来、ケミカルタンカーや特殊船を主力に600隻以上を建造してきた。働き方改革の取組を始めた背景は近年の採用難だ。代表取締役社長の本瓦誠氏は、
「景気の良し悪しに関わらず、新卒は大手など有名企業に流れてしまい、中小企業にはなかなか目を向けてもらえません。また、造船業にはきつい・汚い・危険の3Kのイメージが定着しています。『休日は少なくて当たり前』、『残業は多くて当たり前』という業界全体の体質もあり、敬遠される材料がそろっていました」と話す。実際に、仕事量がピークに達していた数年前には、残業による体や心の不調を訴える従業員も増え始め、従業員が毎月一人ずつ辞めていく事態に。
「『ものづくりを通じて、顧客の満足と従業員の幸せを追求する』という企業理念が揺らぐのを感じていました」と本瓦氏。
「売り上げは過去最高でしたが、社長も従業員もみんな疲弊してしまい、何も残らなかったばかりか、失ったものも多かった」と総務部長の佐藤琢磨氏は振り返る。従業員が幸せに働ける環境の構築が採用増や定着につながると考え、仕事量の見直しから改革に着手した。
主な取組と工夫点
◆全体の受注量を削減、品質と効率を高め利益維持
業務量を維持したまま、休日数の増加、残業の削減を掲げるだけでは、業務時間中の負担が増える上に給与が減る可能性があった。そんな本末転倒を避けるため、物理的な仕事量の削減が必須であると判断。業績面から躊躇もあったが、工程数などで仕事を絞り、全体の受注量を減らす思い切った決断をした。これは協力会社にとっても仕事量の減少を意味するが、「充実した労働環境の下で良い船を造りたい」という思いを共有することで、反発無く方向転換ができたという。結果として、一隻一隻を丁寧に造ることが可能になり、引き渡し後の製品トラブルも減少。品質が向上し、顧客から一層支持されるようになったという。
◆日給制を月給制に改め、年間休日日数を年々増加
2018年の規定の年間休日日数は96日あったが、19年に108日、20年には120日にまで段階的に休日を増やした。併せて給与体系の見直しを実施。以前の日給給与形式だと休日の増加が給与の減少につながってしまうため、月給形式に変更して従業員が不安なく休める環境を整えた。また、ほとんどの従業員が満足に休暇をとれていなかったことから、勤怠管理システムを導入。休暇取得率を見える化し、幹部会で状況を報告。部門長からもこまめな声掛けを行っている。
長時間労働の削減にも着手。
「長時間残業が常態化していた中、いきなり『残業を減らしてください』と伝えても難しいと分かっていました」と佐藤氏。そのため、最初は部署ごとに曜日を決め、定時で帰るという分かりやすい方法から実践。月45時間を超えることがないよう、残業時間の見える化や積極的な声かけで、ゆっくりと従業員の意識変革を促していった。
◆女性を積極雇用し、働きやすい環境を整備
従来は男性の新卒者を中心に採用していたが、採用難が続き、数年前から、女性の雇用を積極化した。造船業界に女性は少なく、環境整備が遅れていたため、子育てなど都合に合わせて勤務時間を選べるように変更。女性トイレの増設なども行い、男女に関係なく働きやすい環境を整えていった。派遣からの正社員登用も積極的に行い、女性比率は約20%まで増加している。専門性の高い仕事を含め、さまざまな分野で活躍しているという。専務取締役の本瓦歩氏は、
「進水式などで来賓の方々から弊社の女性従業員たちの働きぶりを見て、驚いて声をかけてこられる方もおられます。それほど女性が少ない業界です。最初は採用難からのやむを得ずの策でしたが、結果として戦力として活躍してくれているのはうれしい限りです。今後も多様な人材が活躍できるよう、従業員の声を大事にしていきたいと思います」と話す。派遣従業員とそれ以外の従業員との給与格差の是正も進めている。
取組の中で苦労したこと ~手探りで生産体制を整え、新しい働き方を推進
従業員の負担を軽減するために受注量を減らすことは、会社としては大きな決断だった。
「『顧客からの要望があれば、なんとか応えたい』という思いから受注量が増え、そこから歪みが生じていた」と専務取締役の本瓦氏。
「受注削減の方向性を決めた後、どんな仕事を受注し、どのように業務を進めていくのかについての具体的な戦略は、その都度方向を修正しながら進めていきました」と佐藤部長が語るとおり、営業担当も含め、会社そのものの新たな「働き方」を手探りで見つけながらの改革だったという。現在は製造工程が似た船を同時に造るなど、効率や工数、建造する船の種類などを熟考しながら受注を行い、建造する隻数は減ったものの利益は増えている。
取組の成果 ~離職率ゼロ実現、余剰時間で新プロジェクトも
仕事に余裕ができたことで、従業員たちの表情が明るくなり、一時は年間10人もいた離職者が今年は0人に。3Kのイメージに直結していた残業や休日の問題を改善したことで、来年は男性の新卒を2人採用することも決定している。さらに、改善の結果生まれた時間を活用し、新しいコンセプトの船を開発するプロジェクトが発足し、特許も取得した。要望に応えるだけではなく、顧客にこれまでにない新しい提案活動ができる効果もあった。
課題や今後の目標 ~技術者の育成を、業界全体の未来につなげる
専門的に造船を学び業界に入る従業員よりも、造船の知識のない状態で入る従業員のほうが多く、今後は教育制度も充実させる予定だ。専務取締役の本瓦氏は、
「造船経験ゼロの人材でも、通信教育で造船工学をじっくりと1年かけて勉強し、資格を取りながら専門的な技術者になってもらいたい。これまでは学ぶ時間的・精神的な余裕がありませんでしたが、これからは制度を充実させ、さらにそれを上司がサポートできる体制をつくっていく予定です」と語る。さらに、育成した人材の新たな活躍の場をつくることも考え中だ。
また、働き方改革で得ることができた余裕を、新しいことにチャレンジするやりがいの時間として活用していきたいと社長の本瓦氏。
「造船業界では製造もさることながら、主な顧客である内航海運業界でも乗組員の高齢化・人手不足も問題となっています。若い人でも働きたくなるような船や、労力を省き船員不足等の課題を解決できるような新たなコンセプトの船を設計・提案をしていきたいですね」と船業界全体へのチャレンジにも意気込んでいる。
従業員からの評価
工務部 工務・検査課 調達グループ
柿原 由香 主任
派遣従業員として勤務していましたが、今は直接雇用され、主任を務めています。しっかり仕事を任せてもらえ、やりがいを感じています。女性用トイレや休憩室の整備など、従業員の声を受けた改善が進み、ここ数年でずいぶんと働きやすくなりました。コロナ禍を受け、会社内に子どもを預かる場を用意するなど、従業員の声をすぐに反映してもらえて非常に助かっています。残業が減ったことなどでみんなに気持ちの余裕が生まれ、社内の雰囲気も良くなったと感じています。
取材日 2020年9月
会社概要
本瓦造船株式会社
所在地:福山市鞆町後地1717
URL:https://hongawara.co.jp/
業務内容:各種小型鋼船・鉄鋼構造物の製造、修理
従業員数:76人(男性62人、女性14人)
(2020年8月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)