経営理念を共有し、考え・話し・行動する
その繰り返しで、全員参加での取組推進
株式会社西井製作所
取り組んだ背景は?
~会話のない職場環境を変革したい!
ナンバープレートなどの標識や電気製品、航空機部品、半導体関連機器などの開発・製造・品質検査まで一貫して行っている同社。
「取組を始めたのは2008年です。恥ずかしながらその当時は、従業員の中で顔と名前が一致しない、休憩時間は誰も話をしないなど、社内の雰囲気があまりよくありませんでした。それでは面白くない。いろいろな取組をして、今の職場環境を変えていこうと思ったのがきっかけです」と、代表取締役社長の西井裕昭氏は振り返る。
取組導入のプロセス
~経営理念を変え、思いの共有からスタート
同社では、まず経営理念を変えることから着手した。
「それまでは『会社は働いて給料をもらう所、家庭は幸せな人生を送る所』と、会社と家庭を別物と考え割り切った部分がありましたが、本来はそうではありません。会社で経験して学んだことや成長が、家の中でも生かせるからこそ幸せな家庭がつくれるのだと考えています」と西井氏は語る。
その考えを踏まえ、経営理念を「自らの成長を通じて、人々に役に立ち、感謝される会社になって、最終的には“人生の勝利者”になる」と掲げ、会社全体での思いの共有を軸としながら、取組を進めていった。
主な取組と工夫点
~従業員が自発的に考える仕組みづくりと社内技能大会
◆会社の理念を共有し、従業員が考え・発言・行動する習慣付
従業員同士が意見を発言し合う場として、毎朝30分間の朝礼を実施している。そこでは、経営理念や行動指針、同社が大切にしている考え方などを実現するためには、どうしたらいいかなどを全員で話し合う。言葉にすることで理念の理解や浸透につながり、他人の意見を聞くことで新たな気付きが得られるという。
その他にも、週に1日1時間、全員が集まって、業務改善などのさまざまなテーマで意見を出し合う勉強会を実施。さらには、会社の経営理念を基に実施した事例(お客さまなどから受け取った言葉や対応など)を「プチレジェンド」と称して共有し、そのレジェンドをさらに高めるためには、どう行動したら良いかなどを考える取組を行っている。
「人間が成長するステップは、『考える・発言する・行動する・振り返る』だと思います。これを積み重ねることによって、気付きが生まれ、経営理念の実現につながります」と西井氏。さらに、
「従業員が、会社の考えをただ記憶するだけでは意味はありません。その考えを踏まえて行動することが一番大切です。そのため、私からはあまり発言せず、従業員が主体的に行動できるよう、考える機会を多く設け、自らが発言・行動するよう促しています」と西井氏は続けた。
◆技能の向上を目指す「社内技能大会」
年に2回、「社内技能大会」を実施している。この大会は終日行われ、技術部門の従業員だけでなく、営業や総務を含む全従業員が参加して、技術部門では製品の測量の正確さ、事務部門は見積書の作成など、各担当業務において必要とされる知識や技能を競い合う。課題は大会の一カ月前に発表され、当日に向けて皆で教え合い、練習する。こうした取組を通じ、それぞれの技術力の把握はもちろんのこと、「本当に必要なのはどんな技能なのか」を従業員自身が考え、共有するきっかけにもなり、一人一人の成長のスピードも増しているという。さらに、大会当日の様子はビデオに収録し、大会後はそれを見直しながら振り返りを行う。「なぜできなかったか」「どこが理解できていないのか」を明確にし、お互いに助言し教え合うことが、技術力のさらなる向上に結び付いている。
◆休みを取りたくなる休暇の仕組みと多能工化への働き掛け
「従業員が周囲への遠慮や、『いざという時のために』といって、なかなか有給休暇を取らないため、それならばと思い切って“リフレッシュを目的とした有給休暇を4日使えば、有給休暇を4日増やす”という制度を導入してみました。実質的に休みが増えますので、この際、連休を取って家族で旅行に行ってはどうかなど、特に各部署の責任者に勧めています」と西井氏。
その他にも、通常の有給休暇とは別の特別休暇制度を導入し、19年に限定してゴールデンウィークを10連休にしない代わりに有給休暇を3日増やすという。
「最近ようやく、仕事の計画表に有給休暇の予定を書き込む従業員が増えてきました。一方で、これまで多能工化がなかなか進まなかったのですが、有給休暇の取得が増えてきたことで、休暇を取る従業員のフォローをどうしようかと従業員自身が考え、話し合って工夫するようになりました。そういう雰囲気の中で、多能工化も進んでいくと思います」と、西井氏は語る。
◆従業員の“モチベーション”を高める「ありがとうカード」
従業員の日頃の“モチベーションアップ”に着目した「ありがとうカード」と「感謝賞」という取組を行っている。これは、従業員同士が、仕事のことに限らず「あの時はこういうことをしてくれてありがとう」というお礼の言葉を「ありがとうカード」に書いて、ボックスに入れる。カードは複写式になっており、手書きのカードは本人の給料袋に入れて渡され、写しは総務部で記録として残している。さらに、1年間で最も感謝される行動を取った人を全員の投票で決め、「年間感謝賞」として表彰している。過去には、豪雨災害に遭った地元で復旧支援をした従業員などが受賞した。
◆課単位での改善活動で業務も効率化
同社では、年に2回Q(クオリティー)C(コスト)大会を実施している。この大会では課ごとに業務の品質やコストに関する、日頃の改善活動の成果発表を行う。自分の課だけでなく、他課の改善活動を知ることができ、情報の共有やさらなる改善への気付きにもつながるという。
取組の成果
「有給休暇は、まだ取得に遠慮がちな従業員が多いのですが、各部署の責任者が取りはじめて、取得率は上がってきました。また、技能大会などで教え合う風土ができ、技術力が高まったことで、多能工化も進み実質的に休みやすくなりました。“みんなで休もう”という声が出てきたのも大きいですね」と、取締役総務部長の望月氏は話す。
「一連の取組を通じて、従業員の表情がどんどん豊かになり、従業員同士が協力するようになるなど、会社が一つのチームのように一体感が出てきました。これにより、会社としてはさらなるステップに進めます。従業員の発言のレベルも日々上がってきており、従業員の成長を非常に感じています」
と、西井氏は喜ぶ。さらに次のようなエピソードも明かす。
「ある時、子どもが登校拒否になりそうだと、従業員から相談を受けました。初期対応が重要と考え、『会社に出勤しなくていい。とにかくそばにいて、子どもが学校に行くようになるまで待つように』と休ませました。その後、子どもは学校に通えるようになり、従業員も仕事に復帰しました。言いづらいこともきちんと相談できる風土と、誰かが休むことを他の従業員が寛容に受け入れたことは、全員が経営理念を理解し、思いを共有していればこそのエピソードだと考えています」
◆労働時間・休暇(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が167.4時間
・常用雇用者の年次有給休暇の平均取得日数が11.6日(前年比3.9日増加)
従業員からの評価
「妻が臨月に入った頃から、夜勤を外してもらっています。初めての子どもで不安な妻はとても喜んでいます。子どもが生まれると、特別有給休暇を5日もらえましたので、立ち合い出産や予防接種、親戚回りなどに使いました。毎年、会社の家族会に参加していますが、バーベキューやプールなどがあるので、今年は子どもを連れて参加したいです。毎朝の朝礼は、最初は戸惑いましたが、同じ課の人だけでなく他の部署の人ともコミュニケーションが取れるのがいいです。自分から率先して話し掛けるようになりました」と機械加工1課の越水さん。
今後の目標など
「今はどちらかというと、私が主導で取組を行っていますが、将来的には、従業員主導で、私が“やられた”と思うような改革を提案してほしいです。もっとアンテナを立てて経験を積みながら、さまざまな取組を実行できる従業員が何人も育ってくれば、会社は劇的に変わると思います。そして、私たちが掲げる『人生の勝利者』に少しずつ近づいていくはずです」と、西井氏は意欲を燃やす。
取材日 2019年1月
会社概要
株式会社西井製作所
所在地:広島県安芸郡海田町南明神町1-17
URL:http://www.hiroshima-nishii.co.jp/
事業内容:自動車ナンバープレート、航空機部品の製造
従業員数:61名(男性44名、女性17名)
(2018年11月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)