人を大切にする企業文化が醸成され、
働く女性に魅力的な環境を実現!
ヤスハラケミカル株式会社
1 女性が活躍できる社風をアピール。
県外からも優秀な人材を確保(採用)することに成功
ヤスハラケミカル(株)は、20年以上前から性別に関係なく、優秀な人には積極的に仕事を任せてきた。経営層の人材活用への取り組み意識が高く、特に安原社長が従業員一人ひとりの状況を理解し、活躍しやすい環境づくりに注力してきたことが大きな強みだ。「人材を大切に」という経営層の考えを、人事担当も理解し、社内一丸となって実践をし、企業文化として浸透させている。具体的にどのような策を講じてきたかは以下にまとめる。
女性比率は現在22.4%と製造業(化学工業)の全国平均30.0%と比べて低い状況にあるものの、女性管理職比率は8.3%と製造業(化学工業)の平均値より1.0ポイント上回っている(図1参照)。
職種別では、事務職に最も多くの女性が配置されているが、続いて研究職、技術職に多くの女性従業員が配置されているのが特徴的である(表1参照)。一般的に、化学分野を専攻する女子学生は1割程度だが、同社は研究職、技術職45人のうち、15名(33%)が女性。このように貴重な「リケジョ」を採用できている秘訣は、会社説明会での女性向けのアピールが成功しているからだろう。
2 従業員の評価基準は成果だけでなくプロセスも重視。
女性管理職比率は、過去3年で2倍以上に
平成26年4月の女性管理職比率は3%であったが、平成29年4月には8%と大幅に増加している。優秀な女性従業員にもっと活躍してもらいたいと願う経営層の取り組みの成果だ。安原社長は「家族の病気や介護などを抱えていても良い仕事ができる人はいる」という考えのもと、従業員の家庭環境に配慮し、優秀な従業員が活躍しやすい配置、評価を試みてきた。
従業員の評価方法の工夫の具体例について聞くと「人事評価は労働時間や残業量や与えられた仕事に対する成果だけでなくプロセスを重視するように管理職に指導している」と言う。一例を挙げると、時短勤務制度を利用している従業員の評点が低い場合、管理者にその理由を尋ねるそうだ。そして、時短勤務という理由だけで評点を低くすることなく、時間内でのアウトプット、プロセスに対して公平に評価するよう、人事担当が管理職に助言する。“時短勤務だから大事な仕事ができないということはなく、時間内でできることをしてほしい”という考えからだ。こういった取り組みの結果、時短勤務制度を利用する管理職も誕生している。
また、管理職になるための必須条件の中に転勤など女性にとって1つのハードルとなりがちで満たしがたい項目が含まれていないことから、評価基準として適当な項目が設定されていると言える。
安原社長は産休・育休の取得により、女性の昇給昇格が遅れがちとなりやすいことを気にかけており、男女に関係なく仕事の成果で評価ができるよう常に留意している。
3 長く働きやすい仕組みづくりにより、
結婚・出産による退職ゼロ!を実現
法成立等による女性活躍推進の機運が高まる前から、女性がライフイベントと仕事を両立しながら当たり前に活躍している同社。配偶者の転勤や遠方の人との結婚などの私的理由を除けば、結婚・出産を理由に働き続けたいと希望する女性が退職するという事例は昔からなく、ここ10年間の女性育児休業取得率は100%という。育休復帰後の両立支援制度も充実しており、多くの従業員が時短勤務制度や時間単位での有給取得制度を利用するなど、しっかりと育児に力を注げる環境が整っている。
転勤や配属については、本人の家庭環境等にも配慮し、検討されているそうだ。
また、安原社長は従業員一人ひとりを、個人の事情まで含めてよく記憶し、理解しようと努めて、一度退職した従業員の再雇用や病気になった従業員が戻る場所を確保するなどしており、同社で長く働いてほしいという思いも従業員に伝わっているのではないだろうか。
働きやすい仕組みづくりに「男性だから」「女性だから」という区別をしたものは特になく、同社の状況に併せて変更が必要と思われる制度等はこれからも随時変えていく予定だと言う。
実際にはこれまで、「産休・育休の期間を退職金計算の期間に含める」、「産休・育休で半年~1年間休んでも昇給昇格に可能な限り影響がないよう配慮する」、「家族手当や住宅手当は男女関係なく、各家庭の状況に応じて支払う」などに取り組んできた。これらの制度には「感謝している」という従業員からの声も少なくないようだ。従業員全員に少しでも長く活躍して欲しいという企業の思いを従業員もしっかり受け取っているからこそ、女性従業員の離職率が低いという数字が表れているのだろう。
◆ヤスハラケミカル(株)の仕事と育児の両立支援制度と利用実績
(枠内数字は制度利用者数)
4 業務効率化・男性の育休取得率向上など、
組織を磨き続けることで、さらなる進化を
産休・育休等で女性従業員が抜けると業務が回らないといった経営層の悩みはよく耳にする。当然、ヤスハラケミカル(株)においても同様の状況となる懸念があった。そこで、同社ではISOの認証取得に合わせて業務の“見える化”の実施や、従業員の配置を適宜見直すなど、人事ローテーションを導入し、業務の属人化を減らす試みを始めた。
「人事異動直後は、業務のやり方がわからず、前任者に問い合わせるといったことが発生し、一時的には現場に負荷をかけることになるかもしれないが、長期的視点で見ると組織にとって大きなメリットがあると考える」と宮田人事課課長は話す。部署が変わると視野が広がり、また業務に対する見方も変わることから、人材育成の面でも非常に有効であると前向きだ
これに併せて男女の業務分担の見直しも進めてきた。従来は女性が雑務を多くこなす傾向があったが、それでは平等とは言えないと、管理職も含め「電話対応」、「終業時の戸締り当番制」「来客対応の手法の見直し」など、役割分担の見直しを行った。結果,男性だから、女性だからといった固定的な役割分担や先入観が少しずつなくなり、従業員の意識改革に成功。風通しの良い風土が醸成されてきている。また、女性が少ない部署における女性の増員に伴い、工場に女性用更衣室やトイレの整備、喫煙場所の屋外移設など、ハード面の整備も同時に進めている。
さらに、男性の育児休業取得も推進。広島県「いきいきパパの育休奨励金」※を活用し、これまでに2人の男性従業員が育休を取得した。取得に際し、対象者と話をする中で見えてきたのは制度の周知不足だった。短期間の育休取得が可能という法制度の周知が十分できていなかったことに気づき、今後は男性従業員を含め従業員に制度の周知徹底をはかり、男性の育児休業取得率向上も目指していくなど、ヤスハラケミカル(株)の働きやすさへの取り組みは続いている。
取材担当者からの一言
ヤスハラケミカル(株)は、近年よく耳にするようになった女性活躍推進の動きが起こる前から、「人材を大切にし、力を引き出す」という考えを長年実践してきた企業である。取り組みの成果として、女性が活躍しやすい環境が整い、時代の一歩先を行く存在になっていることが伺えた。勤務地が地理的に有利な場所でないにもかかわらず、県外からの就職者が多いという事実に驚いたが、若者が企業を選ぶ基準が企業における「雰囲気の良さ」や「人間関係の良さ」を重視する傾向にある昨今、同社の「人材を大切にする」という風土が人材を引き寄せていると感じた。また、勤務時間よりもプロセスを含めた成果で評価すること、時短制度利用中であっても管理職になる道が開かれているなど、家庭環境などに左右されず、優秀な従業員に活躍してもらおうという企業の取み組みに注目したい。女性従業員を含めた配置換えを積極的に行うことで、人材育成や組織を強くする取り組みを始めており、今後さらに同社における人材の多様化が進むことが期待される。
●取材日 2017年7月
●取材ご対応者
社長室室長 兼 総務部人事課課長 宮田 英次 氏
総務部人事課 保井 味左恵 氏
※広島県「いきいきパパ育休奨励金」…中小企業を対象とした広島県の制度。
対象となる企業において、男性労働者が1週間以上の育児休業等を取得した場合、最大30万円の奨励金(使用用途不問)を企業に支給する。
会社概要
ヤスハラケミカル株式会社
所在地:府中市高木町1080
URL:https://www.yschem.co.jp/
業務内容:テルペン化学製品のリーディングカンパニーとして、1947年の創業以来、天然由来のテレビン油を原料に、テルペン樹脂、テルペン化成品、ホットメルト接着剤、ラミネートフィルム等、安全で高品質な製品を製造・供給してきた。また、水添テルペンフェノール樹脂および高軟化点グレード樹脂を、世界で唯一生産しており、天然由来原料の製造を行うオンリーワン企業である。
従業員数:257人
女性従業員比率:22.4%
女性管理職比率:8.3%
(2017年7月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)