前例がないことにひるまず、
第1号を成功させて、社風をつくっていけばいい

株式会社栄工社

1 産休育休中の従業員から離職後の従業員まで扉を開き、
復職しやすい環境を整備

 (株)栄工社(以下、栄工社)は、電気機器の卸売業が売上の大部分を占める一方、自社工場での生産機能も有し、「小ロット多品種」を強みに顧客の様々なニーズに対応する「ものづくり」企業である。同社が、女性活躍推進に舵を切り始めたのは、女性の社会進出が進んできた平成15年頃から。その年は奇しくも、現営業課業務課課長I氏が同社で初めて産休育休を取得した年でもあった。I氏の職場復帰後、後輩もそれに続き、現在では結婚・出産で退職する女性はほとんどいないそうだ。

 今後、人材不足が予想される中、優秀な人材は男女問わず生かしたいという思いから、女性活躍推進の取組を本格的に開始した。まず取り掛かったのは、両立支援制度である。勤務時間の繰り上げ、半日単位の休暇制度を導入。着実に浸透し、現在では子育て中の女性従業員のほぼ100%が利用するまでに至る。また、産休育休中の従業員に対し、「社内報」を郵送して情報共有を図ったり、止むを得ず退職した元従業員とも連絡を取り、「またいつでも戻ってきてください」とメッセージを発信するなど、職場から離れている従業員とのコンタクトを大切にする。そのかいあってか、一度退職した従業員が、正社員、パート社員として復職するケースも出てきた。さらに、産休・育休を経て復帰した従業員に対しても、育休後に産休前と異なる部署に配属された場合、希望すれば復帰前に新しい業務に関する研修を受講することができる制度を整える等、スムーズに職場復帰できるような仕組みを構築した。その結果、同社の女性従業員の平均勤続年数は、取組を始める前の平成15年と比べて4.6年伸び、平成29年には11.6年となった。取組前と比べて女性の定着率が確実に上がっており、男女問わず活躍できる環境の土台ができつつある。

2 女性の視点や気配りを生かして、
新商品拡販キャンペーンで全国1位の快挙も

 同社では、営業は男性が、営業アシスタントは女性が担当している。これまで、女性は営業利益に直結するような仕事を行っておらず、女性は男性の「サポート役」という意識が長く続いていたそうだ。そんな中、取引先のメーカー主催の営業アシスタントを対象にした「(仮)新商品拡販キャンペーン」に、女性活躍推進の一環として営業アシスタント全員を参加させたことで、その意識が変わったと話す。キャンペーンでは、営業アシスタントならではの発想が生きたそうで、例えば通常行うテルタッチ(営業担当が顧客先に訪問した後、アフターフォローの電話を入れること)で売りたい商品の情報をさりげなく伝えたり、「スタンプ活動」といって顧客先に送るFAXやメールの中に商品情報が掲載された「スタンプ」を押して送信する等、様々な工夫を凝らして営業活動に奮闘した結果、同社から全国1位の受賞者(※1)が出たそうである。会社の営業成績に飛躍的な効果をもたらしただけではなく、仕入先から感謝の言葉をもらうことで従業員自身のモチベーションも上がるなど、二重の効果があったそうだ。この結果は、営業の男性従業員にとっても良い刺激となり、部署内で「今のやり方よりももっと良い方法を探そう」という意識が生まれるきっかけにもなった。キャンペーン参加後は「女性従業員も男性営業担当がさばききれない仕事を積極的にカバーする」といった営業スタイルに変わったそうだ。女性の力をインフィールド・セールスに充ててうまく活用した事例で、女性の役割も「サブ」から「チームメンバー」へと進化を遂げてきた。
※1 アプローチ数、引き合い金額等、評価項目を点数化して採点。 

「全国新商品拡販キャンペーン1位受賞者の方を囲んで」

3 第1号がうまく進めば、後輩や社風はついてくる

 栄工社では次世代法による「一般事業主行動計画」(※2)を策定し、「業務実績のない職場における女性登用の促進」(※3)を目標に掲げている。そのための取組として、平成28年度から工場の「工程管理」に初めて産休・育休から復帰した女性従業員を配置。現在は2人の女性が活躍している。工程管理の仕事は、顧客の注文状況に合わせて製造工程を組んだり、時には社外に出て顧客と交渉をしたりする業務であり、外に出る機会も多いため、これまでは男性しか行っていなかった。しかし、入社した時から製造、工務の補助をしていたある女性従業員に対し、周囲から「あの人ならできる」と推薦があったことも追い風となり、初めて女性を配置した。

 高管理本部長は「会社側が男女の役割分担を決めすぎていることが問題」と語る。
「例えば、女性を営業職に登用しようと考えた時に『不規則になりがちな業務形態になじんでもらえるのか』『女性営業と女性営業アシスタントの組み合わせがうまく成立するのか』等、過度な心配をして、こちら側が男性・女性のできる範囲を狭めているのではないかと感じています。うまくいくかどうかは、性別に関係なく、それぞれの担当者の資質によって決まると思います。今後はそういった固定概念をなくしていくことが重要だと思っています」。
さらに取組を促進するにあたって必要となるのは、「受け入れ側の意識や体制作り」だと金高管理本部長はいう。
「今後は、女性営業担当や男性事務担当等、個人の資質を重視し、男女の垣根をなくした配置にしていきたいと考えており、在職者の方にも積極的に手を挙げてもらおうと思っています。そのためには、社内全体に浸透している『男女の固定的役割分担意識』を変えていくところから始めなくてはいけません。何でもまず『第1号』がうまく機能することが大事だと思っています」
と語る。

「第1号」としてうまく機能した例が、先述した平成15年に初めて産休育休を取得したI氏。「初めてなので周りからいろんなことを言われるかもしれない」と本人も会社もプレッシャーを感じ、職場復帰しても子どもの体調不良等での休みを取りづらい雰囲気があった。しかし、そういった大変な時期を家族の支えとともに乗り越え、I氏が「家庭と仕事の両立」という前例を作ったからこそ、今では産休育休が当たり前のように取得されている。I氏はその後、女性で2人目となる管理職に就任し、井上経営企画室課長とともに女性管理職として新たな道を切り拓いている。今後、2人がロールモデルとして活躍することを会社としても期待しているそうだ。

※2 次世代法による「一般事業主行動計画」
 次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めるもの。従業員101人以上の企業には、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられている(100人以下は努力義務)。

※3 栄工社の具体的目標は次のとおり。
1.営業職に占める女性の人数を1人以上増員する
2.技術職に占める女性の人数を1人以上増員する

取材担当者からの一言

 栄工社は、昔ながらの男女の固定的役割分担意識があり、また配置もそうなっていることに疑問を感じ、少しずつ改善を始めている発展途上にある企業。小さな成功体験を重ねながら歩んでいる最中である。電話対応やメール、FAXのやり取りを行う営業アシスタントならではの目線、気づきを生かして、営業成績に貢献するというのはそれまで営業アシスタントに期待されていた範疇を越えていたのだろう。また、当初は向かないと思い込まれていた生産現場における役割も今や女性従業員が果たしている。今後は男女問わず誰もがそれぞれの能力を発揮できる配置へと進化することだろう

●取材日 2017年10月
●取材ご対応者
取締役 管理本部長 金高 宏治 氏
経営企画室 課長 井上 貴美子 氏

会社概要

株式会社栄工社
所在地:福山市南町7-27
URL:http://www.eikosha.co.jp/
業務内容:株式会社栄工社は、1948年に創業して以来、FA(ファクトリーオートメーション)分野で生産工場を併せ持つ技術商社として発展。主な事業内容は、①FA関連商品の代理特約販売(電子制御機器・装置、電気機械・器具等)②制御システムの設計・製作(シーケンサ・マイコン・NC制御盤等)③空調関連設備の設計・施工(オフィス・店舗・公共施設等)の大きく3つに分かれている。
従業員数:264名
女性従業員比率:27.0%
女性管理職比率:7.4%
(2017年10月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com