女性の採用数・就業継続課題は解決し、
次なる課題は女性管理職増加
生活協同組合ひろしま
1.女性管理職が少ない現状を打破するための採用と定着についての取組
生活協同組合ひろしま(以下、生協ひろしま)は、商品配送事業・店舗事業・福祉事業を柱に、広島県内でコープ商品を中心とした生活関連商品の販売・企画・開発などを行っている。
生協ひろしまの女性従業員比率は現在57.3%と、卸売業・小売業の全国平均51.3%(※1)と比べると6ポイント高いが、女性管理職比率は3.2%と、卸売業・小売業の平均12.7%(※2)と比べると大幅に低くなっている(図1参照)。
図1 生協ひろしまと卸売業・小売業の全国平均の比較
※1 出典:総務省統計局(2016年)
「労働力調査 長期時系列データ 表5 第12回改定日本標準産業分類別就業者数」
※2 出典:厚生労働省
「平成29年度雇用均等基本調査 図11 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員含む)(企業規模10 人以上)」
このように、女性管理職が現在3名(全体では95人)と少ない理由としては、管理職への昇進が可能である総合職において、女性従業員比率が12.3%と少なく、さらに管理職として登用される世代である40代以上の女性職員が少ないことが挙げられる。総合職において、男性の平均年齢が男性48.4歳に対して、女性は38.0歳と、10歳も若い。
かつては総合職において、男性の採用数の方が大幅に多かったが、過去10年における女性職員の採用比率が45.3%となり、若手が増えつつある。
そして、男女区別なく業務の役割を与え、就業継続を促した結果、管理職候補となる30代を中心とする女性の主任が確実に育ってきているそうだ(図2参照)。
図2 生協ひろしまの総合職における役職別女性職員比率
そこで、生協ひろしまにおける、女性管理職育成に関する取組について、話を聞いた。
2.女性同士のつながりも深く、ライフイベントで退職する傾向はなし
「生協ひろしまでは、総合職の新卒者は全員、まずは商品配送事業の配属となり、『共同購入班担当』として、組合員へ商品を届ける仕事に就きます」と、人事教育部統括部長波田啓継氏は話す。
これは、「こんな商品が欲しい、安全な商品が欲しい」などの声を聞き、組合員の願いを叶えるのが生協の役割であるため、直接組合員と接する「共同購入班担当」という経験が、生協ひろしまにおける基本になると考えているからだ。その後、適性に合わせてキャリアを積むこととなり、幹部候補として、リーダー、センター長、店長、バイヤー、本部スタッフなどになり、活躍していく。
採用活動において、トラックを運転して配送を行うという点について、女子学生が不安を覚えることも少なくないという。しかし、荷物は食品中心で比較的軽いこと、トラック運転の指導と、9月まで先輩に同乗してもらいながら業務を覚えていくという育成プロセスがあるため、普通自動車免許さえ取得していれば問題ないという。合同説明会においても、必ず「共同購入班担当」の女性職員が自ら説明を行い、生き生きと働いている様子を伝えるようにした結果、女性の採用が増えた。
ある入社5年目の女性職員は、1.5tの生協トラックで週に250班の配送をしているという。商品を確実に届けながら、仲間づくり(新規組合員拡大)・コープ共済の案内・週毎の生協のおすすめ商品の紹介などを組合員に対して行っている。配送を行う「共同購入班担当」の女性職員は、現在73名おり、全体の17.5%を占めている。
このように、男女区別なく配属・育成を行う方針の生協ひろしまであるが、20年以上前から、結婚・出産といったライフイベントで女性が退職するという傾向はないと、現在、福祉事業部の課長として活躍する西谷三恵さんは話す。
新卒で入って25年となる西谷さんも、最初は「共同購入班担当」となり、トラックでの配送を行った。当時はペーパードライバーで、運転の自信が全くなかったそうだが、先輩から指導を受け、配送できるようになったという。入協から4年目に出産した際は、約1年半の間、育児休業を取得。
「この頃すでに、当時の法律で定められた休業期間を上回る最長1.5年の育児休業制度などが整備されており、多くの先輩も利用していたため、当たり前のように休みました。第二子の出産にあたっても同様に育児休業をいただきました。また、復帰後は2時間の時短制度を利用して働いていました。女性同士のつながりが強いおかげもあってか、今から20年以上も前に、女性の先輩たちがこのような制度と利用しやすい風土を整備してくれていたのです」
と、西谷さんは言う。
西谷さんは、いくつかの部署を経て、2001年に福祉事業部に異動となり、経理や給与、人事、法律の変更への対応などといった管理面を担当してきた。当時、生協ひろしまは福祉事業を始めたばかりで、管理面が整っていない状態だった。他の都道府県の生協に相談するなどして、西谷さんは時短勤務ながら奔走したという。コツコツと仕事をし、福祉事業部の事業の拡大を支えてきた西谷さんは11年に福祉管理グループの課長となった。
生協ひろしまにおいては、このようにライフイベントを経ても就業継続し、管理職になることは自然な流れとなりつつあるようで、過去10年の女性管理職4名は全て、出産・育児経験者となっている。
3.生協ひろしま初の“たたき上げ”役員の誕生と、女性管理職育成に向けた取組
17年に、高浦美穂さんが初めて女性として、生協ひろしまの役員である常勤理事に就任すると、全国の生協の役員から「“たたき上げ”の女性理事の誕生に、うれしく思います!」などと、祝福する手紙や電報・メールが多く届いたそうだ。というのは、全国の生協に女性の常勤理事は数名しか存在せず、その多くは、職員からでなく、組合員の代表としての「非常勤理事」からの就任であるからだ。
高浦さんは新卒で生協ひろしまに入り、役員室、組合員活動部、共済事業部などを経て、24年目で仲間づくり・共済推進部の統括部長となった。生協活動に対する思いが人一倍強く、同部の統括部長として、組合員拡大や共済推進を含む無店舗・店舗の事業支援、子育て応援を中心とした県や地域との連携企画・実行などを行ってきており、長年の成果が認められての登用となった。
生協ひろしまでは、女性職員のモチベーション向上などを目的として、17年度より「女性のつどい」を行っている。そこで高浦さんは、
「出産・育児・子の病・親の病・親の死を体験し、その時々の私の役割を果たしてきました。女性従業員の皆さんが、これまでも、これからも、これらの役割を果たしていくことは、生協ひろしまにとって、プラスなのです。それは、この体験の全てが、よりよい暮らしを創造し続ける生協にとっても力となるからです。それは男性の皆さんも一緒。私は、常勤理事へのお話をいただいた時、少々のことでは動じない性格ながら、戸惑いました。しかし、女性職員の代表として、断ることではないと、奮起して引き受けました。女性が生協ひろしまの中で、声を出していくこと・管理職になっていくこと・役員になっていくことの意味は、女性としての土台があり、それを経験している強さがあり、アイデアがあることなのだと思います」と、自らの体験や思いを語ったという。
高浦さんが、生協ひろしまの女性職員のロールモデルとなり、女性活躍の推進役となっている。
取材担当者からの一言
現在、生協ひろしまにおいて女性管理職は少ないが、就業継続の取組と、男女区別ない配置や育成は、25年ほど前から行われており、50歳前後となった従業員が女性管理職、女性役員として活躍している。現在、管理職となっている総合職の40歳代以上は、当時の採用数が多かったこともあり、ほぼ男性職員が占めている。よって、世代交代が進まないと女性管理職が増えないという現実があるが、近年増えつつある若手の女性職員の育成は着実に進めていることから、今後は自然と女性が管理職として活躍していくことだろう。
●取材日 2018年11月
●取材ご対応者
生活協同組合ひろしま
執行役員 人事教育部 統括部長 波田 啓継 氏
福祉事業部 福祉管理グループ 担当課長 西谷 三恵 氏
人事教育部 労務・労政グループ 担当係長 端野 幸子 氏
会社概要
生活協同組合ひろしま
所在地:廿日市市大野原1-2-10
URL:https://www.hiroshima.coop/
業務内容:広島県内にて、商品配送事業、店舗事業(9店舗)、共済事業、および福祉事業を実施している。生協は、暮らしを豊かにしたいという組合員の願いを実現するためにみんなで話し合い、力を合わせて商品を開発し、商品・サービスを通じた暮らしの見直し活動に取り組む消費者同士の協同組織である。
従業員数:2276名
女性従業員比率:57.3%
女性管理職比率:3.2%
(2018年4月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)