売手市場でも新卒の採用活動は順調!
女性応募が殺到する秘密とは?

株式会社八天堂

1 「魂」のこもった社長プレゼンで若者を魅了し、
売手市場でも新卒の応募者が殺到

 今日、「くりーむパンの八天堂」として有名になった背景には、株式会社八天堂(以下、八天堂)内での大革命があった。これまで、和菓子、洋菓子、パン屋として業態変更してきた八天堂は、平成20年、スイーツパン専門店にシフト。翌年には東京にも進出し、「くりーむパン」を主力商品とした「八天堂」として世間での認知度を高めていった。

 その原動力となったのは「これからは単なるパン屋としてではなく、新たな食文化を切り拓くと共に人づくりの会社を目指す先駆者にならなければいけない」という使命感を社長が持ち、従業員にもその思いが浸透したことだ。その訴えは非常に強烈で、新しい価値観に合わなかった従業員の中には会社を離れる者も少なくなかった。そこで社長は「採用時から我が社の新しい価値観を伝え、それに共感してくれる人を採用したい」と考え、中途採用を一時中断し、新卒採用一本に絞っていった。

 採用説明会では、一般的な手法で行う「採用担当者が会社概要を説明する」といったものではなく、社長自ら90分の講話を行う。「我々が何を大切にしているか」から始まり、「新たな食文化を切り拓くと共に人づくりの会社を目指す」という価値観の話へ展開される。その話に心をつかまれて入社を希望する新卒者も少なくない。また、女性の社内ロールモデルも提示し、会社として女性活躍を推進し、実際に活躍している実例が多数あるという事実もアピールする。

 「八天堂」の知名度も上がり、社長と同じ価値観を持った従業員が社内に育ち始めた現在、採用活動は順調という。平成29年の採用活動(平成30年4月入社予定)においては、エントリー約900名のうち、22名が採用予定となった。学生側が有利な売手市場と言われる中、応募者が殺到している状況だ。ただ、女性の応募者が圧倒的に多く、逆に男性の採用が難しいので、今後は男女を同数程度採用していきたいという。また、東京、大阪、福岡と全国で採用活動をしてきたが、結果として広島県内在住の採用者が8割を占めることから、今後採用活動は県内を中心に行う予定とのこと。地元の若者の力を最大限生かしたいと考える社長にとってこれは新たな挑戦といえるのかもしれない。

【企業ヒストリー】
2008年
スイーツパン専門店にシフト。当時の新卒採用者数は7名程度。

2009年
これまで代表が変わるごとに「森光八天堂」「ラ・セーヌ八天堂」「たかちゃんのぱん屋」と屋号を変えてきたが、この年、スイーツパン専門店として屋号を「八天堂」に統一する。東京出店を契機にスイーツパン専門店「八天堂」としての知名度が徐々に上がっていく。

2010年頃~
社長による「新しい食文化を切り拓いていくと共に人づくりの会社を目指す」といった新たな価値観の打ち出しが始まる。価値観に合わない従業員は離職した。

2014年頃~現在
社長の価値観が従業員に浸透し、スイーツパン専門店「八天堂」としての知名度も高まり、採用活動は順調。女性の離職率が高いことへの対策を始める。

2 女性の離職を本気でなくしたい。
「子育て有給」完全消化、事業所内保育施設の設置、
褒める人事考課など多角的な取り組みを実践

 従業員の約5割が女性で、男女問わず活躍できる職場であるが、約3年前までは出産や結婚を理由に女性従業員が退職してしまうケースが多かった。出産や結婚は明るい話題ではあるが、意欲的で優秀な女性従業員が1度退職してしまうと正社員としての再雇用が難しいだけでなく、これまで積み上げてきたキャリアも活かしづらく、会社としても大きな損失になる。こういった課題に対処するため「子育て有給休暇の消化率100%を目指す」「事業内保育施設の設立」「人事考課制度の導入」「女性役員や役職者の積極的な登用」等の女性活躍推進への取組を開始したそうだ。

 まず育児中の女性の両立支援として、育児休業取得の推進やフレックスタイム制度等に加え、同社独自の取組として「子育て有給休暇の付与」がある。「子育て有給休暇」とは、通常の有給休暇に加えて育児中の従業員に月2日間付与している休暇で、未消化の場合、手当として支給をしているものだ。
 現在は対象者が4人のため100%の消化率を維持しているが、課題もある。平成29年9月時点で、従業員の平均年齢は28~29歳。これから結婚・出産を迎える従業員が多く、「子育て有給休暇」取得対象者が増えるにあたって人員に余裕を持たせる等の対応をしていかなければならないと早くも検討をしているという。

 また、ライフイベントを迎えても女性が安心して継続就業できるようにと、事業内保育施設「りんくう保育園」を平成28年3月に開園した。園の利用対象は2カ月(産休明け)~2歳まで、八天堂に勤務する常勤従業員の子供はもちろん、各自治体より保育認定を受けた子供も入園できる、市の認可を受けた認可保育園である。

 現在は子育て中の従業員が少ないため同従業員の利用は多くないが、今後増えるであろうニーズへの対応策としては十分効力を発揮するだろう。加えて現在、デザイン業務等遠隔でも作業ができる部署において、在宅勤務ができるようシステムを構築中であり、今後は柔軟な働き方をサポートする制度面の構築に力を入れていく予定だ。

 女性に限らず従業員育成に関しての取組に「人事考課制度」がある。毎月、上司との面談を行い、本人と上司との間で決めた人事評価項目について100点満点で評価を行う。その結果をもとに半期ごとに経営陣で検討し、全体の評価を決めるといった仕組みだ。
 この制度の運用背景には「従業員を認めて褒めていきたい」という人事の思いもあるという。若い従業員が多く働く八天堂では、「自分の気持ちを認めてもらいたい」「褒めて欲しい」といった思いを持つ従業員が少なくないため、面談や評価を通して「あなたのこと、ちゃんと見てますよ」という思いを伝えることで、従業員のモチベーションアップや就業継続につなげていきたいと考えているそうだ。

 また、男性には相談しにくい女性ならではの問題を相談できる相談役を社内に設置。昔のパン販売店時代から長く八天堂に勤務してきた、現顧問を務める女性を窓口とし、人事には相談しにくい悩みを相談するよう社内で推奨している。また、社内で言いづらいことは顧問社労士や顧問弁護士等に相談できるよう外部窓口も設置している。

 その他、残業削減に向けての取組も開始。今期から定時前に申請書を提出しない限り、残業を認めないという厳しいルールを敷いた。長時間労働への対応もあるが、労働時間外のプライベートな時間を大切にし、見聞を広げて欲しいという会社の意図もある。事業を発展させる上で従業員にはアイデアやクリエイティブな発想が求められているからだ。実際、EC事業部の部長が1年に2度海外に出掛け、知識や見聞を広げており、それが新商品・サービスの提案、品質向上につながっているという例もある。

3 キラキラ輝く理想的な女性管理職が後輩のお手本になり、業績もUP

 八天堂は、女性従業員比率こそ52%(全国平均52%※1)と平均並みであるものの、女性管理職比率が27%(全国平均5.9%※1)と非常に高い。その中でも特に後輩が憧れを抱く「輝いている女性管理職」が3名いるという(平成29年9月現在)。そういったロールモデルの育成が女性従業員のモチベーションアップや継続就業にもつながっており、同社の業績にも大きく貢献をしているようだ。

 1人目はネット通販部のH部長。零細部署だったネット通販事業部(現EC事業部)の責任者を任され、既成概念にとらわれず今までにない商品を生み出し、その実績を評価されて現在は幹部として活躍している。H部長は通販受注が1日20件だった頃に、社長に直談判をし、1千万円規模のシステム投資を行った。ターゲットは女性が多いことから、より女性目線、お客様目線でのWebサイト構築や季節商品の開発を行った結果、1年で1日約2,000件と100倍以上の受注が取れるまでに業績を拡大させることができたのだという。今では1日最大3,000件の日もあるという。
 前述した海外に出掛けて知識や見聞を広げ、新商品の開発のヒントを得ているのもH部長。出産・育児も経験し、仕事も充実しているH部長のライフワークバランスは、若い女性従業員の憧れの的となっている。

 2人目は商品開発部のS部長代理。もともと受発注の事務を担当していたが「商品開発は一般的な主婦目線が重要」という社長の考えで同部に異動。その社長の思いを見事に業務に生かし、「メロンパン」(限定商品)や「はちみつくりーむパン」(コラボ商品)等数々のヒット商品を世に打ち出している。「主婦目線」という女性の強みを活かしながら、業績に大きな貢献をしているS部長代理も女性従業員の目標だという。

 3人目は製造部品質管理課の中井課長代理。入社6年目で早くも課長代理を任された若手のホープである。
 入社当初、自分の希望とは違う部署に配置されたにも関わらず、必死で勉強を積み重ねていたことから努力と能力が評価され、入社3年目で主任を任された。彼女のマネジメント能力を会社も評価し、係長に就任。結婚、出産を経て育休明けすぐに工場の課長代理に抜擢され、工場をまとめあげたという。戸惑いながらも日々奮闘している中井課長代理の姿は男女問わず多くの若手従業員にとってロールモデルとなっている。

取材担当者からの一言

 取材は、広島空港に隣接する「八天堂カフェリエ」で行った。平日にも関わらず店内の席はほぼ満席、また若い女性従業員は活気に溢れ、楽しそうに仕事をしている。広島市内から車で約50分、三原市内からも約30分と郊外であるが、「八天堂カフェリエ」を目的にここまで足を延ばす客がほとんどだそうだ。取材前から、女性従業員がいきいきと働く姿をみて、どんな秘訣があるのか非常に興味を持った。

 八天堂は現在3代目の社長が率いる歴史のある会社だが、第二創業に成功したベンチャー企業。若者を多く採用し、能力を発揮させ、定着させるために、様々な取組を随時展開しており、「食」だけでなく「働き方」もイノベーション中である。

 “経営者の期待に応えて女性従業員が事業拡大を牽引する”、“隣接する事業所内保育施設に子どもを預けて働く”“女性もどんどん管理職を引き受けて昇進していく”働き方の未来像を三原で発見した。今後も時代や従業員の変化に即して、柔軟に進化していく八天堂に注目だ。

●取材日 2017年9月
●取材ご対応者(インタビューご対応者)
総務部 課長代理 堀野 誉晃 氏

会社概要

株式会社八天堂
所在地:三原市宮浦3-31-7
URL:http://hattendo.jp/
業務内容:株式会社八天堂は1933年、広島みはら港町に和菓子屋として創業。時代の移り変わりとともに洋菓子、パン、スイーツパンを展開し、店舗も拡大。現在ではスイーツパン専門店として国内20カ所、海外5カ国に店舗を構える。事業内容は、一品事業、EC事業、カフェリエ事業、新規事業の4つの事業と海外展開を行っている。老舗でありながら新しいことへの挑戦を続け、業務内容・規模の拡大を図っている。
従業員数:106名
女性従業員比率:52.8%
女性管理職比率:27.6%
(2017年9月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com