サンフレッチェ広島 仙田 信吾 社長インタビュー
◆◇◆ 県下プロスポーツチーム監督・経営者の「リーダー論」 ◆◇◆
率先垂範で組織引っ張る 公器として社会貢献も
野球やサッカーをはじめ、さまざまなプロチームを擁するスポーツ王国・広島。勝敗をはじめ、選手マネジメントやクラブ経営に監督、経営者はどのように向き合っているのか。『広島経済レポート』より、県下4チームのリーダーたちに思いを聞いた「リーダー論」をシリーズでご紹介します。
第2回は、サンフレッチェ広島の仙田 信吾 社長に目指すリーダー像や経営、組織づくりのへの思いを聞きました。
2022年はクラブ史上初めて、国内主要大会全てで3位以内に入ったサンフレッチェ広島。今年12月にはファン待望の新スタジアムが完成し、フロントトップとしての手腕に一層注目が集まる。目指すリーダー像や組織運営での心構えなどを聞いた。
- 目指すリーダー像はありますか。
あえて一人挙げるとしたら、第二次世界大戦を終戦へ導いた鈴木貫太郎です。日本が初めて経験する敗戦。その現実に直面する最も困難な時代のかじ取りを任された人物です。
二・二六事件(1936年)で瀕死の重症を負うも夫人の機転で死を免れた。1945年4月、ルーズベルト大統領の訃報が届いた際には敵対国の指導者に対し褒め称えるような談話を世界へ発信しつつ、日本の軍部に対しては徹底抗戦の言葉を投げかけ、士気を鼓舞。その背景で、昭和天皇が望み、自分の使命となった終戦工作を慎重に推進。命の危険を顧みず徹底抗戦を主張する軍部をかわし、ついに終戦を実現させました。
中国の古典「呻吟語(しんぎんご)」に「深沈厚重(しんちんこうじゅう)なるは、これ第一等の資質」という言葉があります。私はこうした資質を持ち合わせていませんが、どっしりと落ち着いて深みのある人物に憧れます。
- プロスポーツ球団を経営する難しさはありますか。
実は就任初年度からコロナ禍だったので通常を知りません。動揺しましたが今が異常だという感覚がほかの社員より薄かったかもしれません。自分は自分らしく、さまざまな企業や関係諸団体と連絡・連携を取って飛び回り、メディアの露出を増やすなど、サンフレッチェの関心度を少しでも高めるように動いていました。
そのかいあってか、2020年秋の時点でJリーグが新規や増額のスポンサーがどれくらいあるかを調査・リサーチしたところ、全チームの金額の半分近くをサンフレッチェが占めました。広島のサッカー愛と共に、メディアでやってきたことは間違いではなかったと実感する結果となりました。Jリーグチームの社長はメルカリの会長やトヨタの元広報責任者など、そうそうたる人がいます。しかし、その中でも自分が太刀打ちできる分野があると自信を持つことができました。
私たちが選手に対してできることは、経営面で余計な心配をかけないこと。これが能力を最大限に発揮してもらう選手のモチベーションにもつながると信じています。コロナ禍で得意先も大変な中、支援のお願いをしなければならないのが一番つらかった。ですが、選手たちの躍動感ある命懸けのプレーやひた向きさが 私を突き動かしてくれます。サッカーは点が入りにくい競技だからこそ得点時の感動が大きいため、世界最大のスポーツになり得ているし、ワクワク感はほかとは比べようがありません。彼らのために何とかしなければという思いでいっぱいの3年数カ月でした。
- 組織づくりで重視していることを教えてください。
「情報の共有」と「一人一人のタスクの見える化」、「目指す方向性のすり合わせ」の3つです。社内の情報共有システムを整備したほか、古風ですが朝礼やトイレ通信などを始めました。私のメッセージとして、アイデアの参考になる情報だけでなく、悩みなど心情も発信しています。
「サッカー王国」広島の歴史を背負うチームとして、県民・市民にサッカーの素晴らしさを一層伝えていくということがわれわれのミッションです。そのために自社のホームページやSNS、メディアの活用といった情報発信はもちろん、グッズやスタジアムでのイベント、パフォーマンスなど、あらゆる手段を講じています。
もう一つは社会の公器として、社会貢献と地域活性化支援に一層磨きをかけたい。選手の移動バスをバイオ燃料で走らせるなど、SDGsに関してはJクラブの中でも先進的に取り組んでいます。さらに中四国・九州地区で唯一の女子プロサッカーチーム「サンフレッチェ広島レジーナ」もあり、SDGsや女性の社会出活動の模範である当チームへの支援が、ひいてはスポンサー企業のSDGs活動などにもつながります。
- 座右の言葉を教えてください。
私のデスクの後ろには山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」を掲げています。プロスポーツ球団といえど事業規模で言えば中小企業なので、社長自らが営業、広報マンという意識で動き、背中を見せるようにしています。
営業は最終的に人と人なので、私個人を好きになってもらうことに力を入れています。極論的には「サッカーには興味はないけど、仙田さんの頼みなら付き合うよ」といってもらえるようにします。そのために、どうすればその人に喜んでもらえるかということは特に日頃から意識していますね。社員にも、たとえサッカーに関心の薄いお客さまに対してでも、一人一人の魅力で無理を聞いてもらえる人間関係を構築してほしいと伝えています。12月の新スタジアムの完成後すぐに開幕が控えています。多くの人に楽しんでもらえるよう、全社一丸で取り組みます。
プロフィール仙田 信吾(せんだ しんご)1955年、府中市出身。78年に中国放送入社。取締役テレビ営業局長などを歴任。17年RCCフロンティア社長、19年会長。同年12月から現職。
広島経済レポート 2023年3月30日号掲載
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