広島東洋カープ 新井貴浩監督インタビュー

◆◇◆ 県下プロスポーツチーム監督・経営者の「リーダー論」 ◆◇◆

「利他の精神」でチームづくり 〝家族〞意識でマインド高め

広島東洋カープ監督 新井貴浩|県下プロスポーツチーム監督・経営者のリーダー論|広島経済レポート

 野球やサッカーをはじめ、さまざまなプロチームを擁するスポーツ王国・広島。勝敗をはじめ、選手マネジメントやクラブ経営に監督、経営者はどのように向き合っているのか。『広島経済レポート』より、県下4チームのリーダーたちに思いを聞いた「リーダー論」をシリーズでご紹介します。第1回は、広島東洋カープの新井 貴浩 監督にチームづくりや選手たちへの思いを聞きました。

広島東洋カープ監督 新井貴浩|県下プロスポーツチーム監督・経営者のリーダー論|広島経済レポート広島東洋カープ / 新井 貴浩 監督

県民の期待を胸に、カープの監督に就任した新井貴浩氏。チームを“家族”と表現し、伸び悩む選手や育成選手にも積極的に声を掛ける姿が印象的だ。新井流の「リーダーシップ論」について語ってもらった。

- 今の率直な思いを教えてください。

 就任してから、まずは「どのように選手たちと接するか」について考えました。結果、自分が感じたことを言葉にして伝え、それを行動に移していくことが重要と結論付けました。その中でも一番心掛けているのは、うそをつかないこと。本意でないことや取り繕ったことを言葉にするのはやめようと。真っ正面から自分の言葉で正直に選手たちに伝えています。

広島東洋カープ監督 新井貴浩|県下プロスポーツチーム監督・経営者のリーダー論|広島経済レポート広島東洋カープ / 新井 貴浩 監督
- 阪神時代に2008年から4年間、日本プロ野球選手会の会長を務められました。  常に大切にしていることは自利でなく、利他の精神です。私は野球界に育てていただき、「野球界のために」という思いが常にあります。実は選手会長の打診を受けた時に、すごく大変なポジションだと分かっていたので、何度もお断りしました。けれど、事務局、スタッフ、顧問弁護士の方々に、東京から大阪までわざわざ足を運んでいただき、熱心に説得されました。当時の会長・宮本慎也さんに「どうして僕なんですか」と尋ねると、「お前は周りのことを第一に考えられる。だからやってほしい」と言われました。
 会長の在任中は、選手の年金制度の解散、東日本大震災後の開幕、野球の世界大会「WBC」参加、高校生の指導におけるプロアマ規定など、さまざまな問題に向き合いました。普段のプロ野球選手としての仕事とは別に、スーツを着て経営者や日本野球機構(NPB)、世界各国の野球関係者、選手らとも会合を重ねたことで、世の中の仕組みを知り、多くの学びを得ました。任期を終えた後に、宮本さんからどうだったかと問われ、「苦しかったけど、なかなか経験できないことをさせていただき、素直にやってよかったです」と答えました。
- チームづくりで意識していることはありますか。
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 カープを〝家族〟と表現しています。プロの世界はチケットを買って観戦してくださるファンがいることで成り立っています。プロ野球選手は個人事業主の集まりのようなもので、「個の集合体」というイメージがあるかもしれません。私の若い頃は「プロは試合に出られないと給料を稼げないぞ」という言葉が飛び交う時代で、ライバルを蹴落としてでもレギュラーを勝ち取るのが当たり前でした。しかし、私は「ライバルがヒットを1本打ったら、俺は2本打つ。2本打ったら、3本打つ」という考え方で取り組んでいました。アマチュアの考え方に近いかもしれませんが、横のつながり、心と心のつながりが大切だと考えていたのです。
 選手は生身の人間であり、みんなが感情を持っています。今後も心配りや、コミュニケーションの中で選手を前向きにして、「よしやるぞ」とポジティブな気持ちに引き上げていきたいです。
- 人の心を大切にする考え方はどなたの教えですか。  私の恩師は駒沢大学時代の太田誠監督で、「お前たちは野球人である前に一社会人なのだから、野球だけやっておけばいいという考え方ではダメだ。社会に出てからは通用しない。人を大切にしなさい、周囲の人を大切にし、感謝しなさい」ということを常に話されていました。野球の技術や戦術よりも教育的な指導が多かったと思います。
- 影響を受けた経営者の言葉はありますか。  野球の日本代表監督の栗山英樹さんが、日本ハムファイターズ監督時代に愛読されていた、渋沢栄一さんの書籍「論語と算盤」を何回も読みました。私の大切にする「利他の精神」が集約されていると感じ、すっと腹落ちすることが多かったですね。
 この本では例えば、目先の利益ではなく、顧客満足度を重視する大切さが書いてあります。この考えは野球にも共通することが多い。監督として勝ちたい思いは当然あります。けれど、あまりにもそこに主眼を置きすぎると、例えば私がユニホームを脱いだ後のカープに良いものを残せないと思います。渋沢さんの言う「顧客」を球団やファンに置き換えて、何ができるかを突き詰めていきます。

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- 伸び悩む選手や育成選手にも積極的に声を掛けています。  諦めず腐らずに挑戦し続けなさい、と伝えたいです。例えば19年の育成ドラフト2位で入団した木下元秀選手はそういうマインドを持っています。それが元気の良さ、声、言葉に現れている。彼より年下で、後に育成入団した二俣選手や持丸選手の方が先に支配下登録されました。相当悔しいでしょうし、その悔しさを挑戦する気持ちに変えてほしい。
 彼を見ていると若い頃の私と重なる。私自身が決してエリートではなかった。下手くそですけれど、カープが拾ってくれて、我慢して育ててくれて、20年間も現役を続けさせてもらった。今の選手を見ていると、育成や支配下登録選手に関係なく、みんなが大きな可能性を秘めていると感じます。就任して初めての秋季キャンプで、「俺はみんなが考えているより、みんなに期待しているぞ」と伝えたのはそういう意味もありました。
- 最後にファンに向けて、メッセージをお願いします。  もちろん、日本一を目指して1年頑張ります。応援してくれるファンの皆さんがワクワクして熱くなってくれる、そんな試合を一つでも多くお見せしたいです。
 またカープは12球団で一番、地域・地元に密着した球団です。カープが元気だと広島の経済も元気ですし、カープが強いと広島の経済ももっと強くなっていくはず。地域に密着している球団として、広島がもっと盛り上がるように頑張るということも使命だと思います。広島が元気であるように、また広島の経済界の皆さんが元気であるように、カープもしっかりと頑張ります。

プロフィール新井 貴浩(あらい・たかひろ)1977年1月30日生まれ、広島市出身。県立工業高校から駒沢大学を経て、98年ドラフト6位でカープ入団。18年に引退。23年から現職。

広島経済レポート 2023年3月30日号掲載
県下プロスポーツチーム監督・経営者の「リーダー論」

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