Vol.10 ひろしま管財株式会社
~経営者に学ぶ学生インタビュー~
★ 広島女学院大学×広島経済レポート [ 共同プロジェクト ]★
学生が地元経営者をインタビューすることで、地域で輝く企業に目を向け、思考を深め、広島での就職意識を高めてもらうプロジェクト。広島女学院大学の2年生がキャリア授業の一環で、各業界のトップに「業界・企業研究」「仕事観」などをテーマに全11社にインタビューを行いました。
第10回は、ビルメンテナンスや警備などのひろしま管財の川妻利絵社長。4人の子どもを育てる主婦からビル管理会社を継ぎました。事業承継や会社経営への思いを聞きました。
― 会社の概要について。
当社の創業は私がちょうど生まれた頃の1954年。勤め先を定年退職した創業者が「まだ人の役に立ちたい」という思いから「廣島物産」を設立しました。当時、日本ではビルメンテナンスという職業はあまり知られておらず、戦後の日本でビルが新たに建っていく中で、新たな事業として参入しました。
小規模な新築ビルの清掃など小さな仕事からこなし、61年に本格化。正式に「広島管財」を設立しました。会社設立後の初の仕事の受注は中国放送。そして翌62年に広島テレビ放送と契約しました。当時の仕事は清掃、警備のほか、電話交換や受付嬢、社員食堂などさまざま。そこからどんどん仕事が増え、今では広島ガスや広島銀行、広島信用金庫などの地場主要企業からお仕事をいただいています。清掃や警備、設備管理、学校などの男・女子寮の管理も手掛けています。
― 会社を継いだときの思いは。
2005年に社長に就いて早17年。それまでは4人の子どもを育てる専業主婦で、送り迎えやPTA活動、クラブの役員で忙しい毎日を送っていました。前社長の急な退任に伴って継ぐことになり、まさに青天のへきれき。業界的にも男性社会で、女性の私にやっていけるのか、不安は大きかった。戸惑いましたが、祖父が世のため人のためにと仕事していた後ろ姿を見ていました。本当に良いお客さまや社員がたくさんいる中で、これをやらないという選択肢はありませんでした。できる・できないではなく、とにかく、石にしがみついてでも守り抜いてみせる、と決意しました。継いでからもつらいことが多々ありましたが、ビルの利用者から「ありがとう」の言葉や手紙もらい、本当にうれしく、活動の原動力になります。また、私が褒められる以上に現場の人を褒めてもらうのが最高にうれしいです。
最近では働く女性が増えたり、高齢化が進んだり、断捨離ブームの到来で、一般の方のハウスクリーニングの依頼が増えました。当社では「LaPica」というブランドを立ち上げ、女性スタッフ中心で推し進めています。
―「ありがとう経営」を推進していると聞きました。
祖父や父は地域や取引先、社員、家族を大切にしながら、堅実経営を続けていました。祖父は敗血症のため、片足を失い、松葉杖をつきながらも、人脈を大事にしながら学校やテレビ局などの清掃や警備など、前述のように広島になかった事業を創り上げてきた人でした。給料日には、社員一人一人と握手を交わし、感謝を伝えていました。
こうしたことが、幼い頃の記憶として鮮明に残っており、祖父や父の思いを継がなければいけないという使命を感じるとともに、感謝することの大切さを学びました。大人になると素直に「ありがとう」と言えなくなります。ただ、人生はいつ終わるか分からない。だからこそ言っておかなければいけません。私自身、本社の社員には毎月、給与明細に感謝のメッセージを添えて渡しています。就任以来17年間、毎月継続して、社員の良いところを見つけて伝えるようにしています。これが私のありがとう経営の根幹です。
ひろしま管財に縁があって入社した社員には、あいさつや感謝がコミュニケーションの原点だとしつこいくらいに伝えています。もちろん仕事の技術も教えますが、人間力を高めることも大事。そうした人を育成することで、会社としても、業界としても発展していけると考えています。
― どんな人材を求めていますか。
皆さんの年代は失敗を恐れすぎて、新しいことへのチャレンジに抵抗がある人が多いかもしれません。しかし、受動的ではなく能動的に挑戦する人や、新しいことを発見し、それを共有できる力がある人が社会では必要不可欠です。当社でも日頃から努力している人が失敗したとしても、必ず社長である私が責任を取るので、積極的に挑戦してほしいと伝えています。
当社で採用する際に大事にしているのは、皆さんが五感をどのように鍛えているかというところです。研ぎ澄まされているかどうかは、生まれ持ったものもありますが、育てることもできます。
― 五感を鍛えるためには。
選り好みしないでいろいろなことに興味関心を持って経験をして、広い視野を得ることが大切でしょうね。私自身も、「香り」や「味覚」「手触り」などを大切にした生活をしていきたいと思っています。映画やドラマ、ニュースなど、さまざまな情報や、草花などの自然や季節、街を歩く人たちとの触れ合いを通じて、そうした五感を鍛えていきたい。
皆さんも、日常の身近なことからでも良いので、五感を研ぎ澄ませて感じながら生活してほしいです。例えば私たちが普段から使用している机は、ただ触るだけでは何も感じませんが、意識を向けて触ると、また違った感触を得ることができます。そのように、「興味・関心を持つこと、何でも挑戦してみること」が五感を伸ばすことにつながり、さらに深めるには、「自分に問いかける」ことも大切だと考えます。この五感は、これから求められる企業の人材の中に必要なことだと私たちは思っています。
自分の人生は自分が経営者ですから、皆さんも自分自身を磨いてほしいですね。
社長/川妻 利絵 1961年生まれ、広島市出身。82年聖母女学院短大(京都市)卒、2005年から現職。13年から広島経済同友会のひとづくり委員長も務める。
私たちがインタビューしました
川妻社長が大切にしている「ありがとう」という言葉を、私たちも大切にしていかなければならないなと感じました。また、川妻社長の女性としての強さに憧憬を抱き、私も学生のうちに挑戦し続けていきたいと思いました。 森田 悠微
川妻社長はものすごくフレンドリーで、大ボリュームでお話をしてくださいました。そのおかげで、記事を書くことには困らず、逆にどうまとめるべきかというところに苦労しました。「自分の人生は自分が経営者」という言葉を大切にして、五感でいろいろなことを感じて人生に生かしていきたいです。 芋生 ことみ
「ありがとうはコミュニケーションの原点ですよ」という言葉が印象に残っています。私も心の中で思っているだけではなく、後悔しないように言葉にして伝えていこうと思いました。 廣田 満帆
失敗すると他の人に迷惑をかけてしまうと、失敗を悪いイメージと思っていましたが、今回の取材で、川妻社長の「失敗しても積極的に行動できる人が社会にとって必要な存在です」という言葉を聞いたときに、少し肩の荷が下りて心がほっとしました。
山本 響
取材日:2022年7月
会社概要
ひろしま管財株式会社
所在地:〒730-0051 広島市中区大手町5-7-17
設 立:1961年8月
資本金:1000万円
売上高:7億1716万円
従業員数:46人(パート・アルバイト含まず)
TEL:82-243-5501
URL:https://hr-kanzai.co.jp/
事業内容:総合ビルメンテナンス業
※2022年9月当時の情報です。
1961年8月に設立。清掃や警備、設備管理、学校などの男・女子寮の管理を手掛ける。個人宅向け清掃サービス「LaPica」も手掛ける。2021年7月、「広島管財」から社名変更。同年8月に60周年。