The Life.01【人生のとき】
株式会社イトー 代表取締役会長 伊藤 学人 氏にインタビュー

◆ シリーズ「団塊の世代」|広島経済レポート 特別企画 ◆

シリーズ「団塊の世代」|広島経済レポート 特別企画株式会社イトー / 代表取締役社長 伊藤 学人 氏

 温厚な人柄だが、めっぽう「負けず嫌い」らしい。広島修道高校の野球部時代に1番でサード、キャプテンを務めた。チーム編成がやっとで連戦連敗。闘争心に火が付く。必ず勝つぞと宣言し、2年生の秋、ようやくチーム初の勝利を手にした。よほどの思いがあったのか、戦いを終えて涙のにじむ、貴重な体験だったと振り返る。
 1949 年9月、伊藤砂糖(現イトー)創業者の伊藤学さんの長男として生まれる。慶応大学経済学部へ進み、卒業後、商工組合中央金庫の堺支店に4年勤める。ようやく仕事が楽しくなった頃、いきなり社長の学さんが支店長を訪ねて「息子に家業を継がせるので退職させてほしい」と直談判。77年4月に伊藤砂糖に入り、その日に専務に就く。

親父の背中を見てきた

-家業を継ぐことに迷いはなかったですか。  子どもの頃から商売に奔走するその背中を見てきた。いつか力になりたいという思いが自然に湧いていた。大学は中小企業論のゼミに入り、すでに家業を継ぐと決心していた。いきなり専務に就いたが知らないことばかり。何でも教わろうと決めていた。
 一方で企業は社会に貢献する、従業員の働きに見合う給料をちゃんと支払う。そうした経営が大切だと考えていた。待遇改善を図り「従業員の給料を上げたい」と専務の私が社長と直接交渉。まるで労働組合長のようだった。後に周囲の企業から話を聞くと、その頃の当社の給与水準は良い方で、私の考えによく応えてくれたと思う。

現状維持は活力を失う

-入社から13年後、90年に2代目社長に就く。会長に退いた学さんは広島総合卸センター理事長をはじめ、広島県中小企業団体中央会の会長、広島商工会議所の副会頭など数多く要職を歴任し、地元経済界で活躍した。外交は会長が担い、社業に専念する立場の社長として、どのような事業計画を立てましたか。

 とにかく堅実に徹し、万事そうしたやり方で営業基盤を築いてきた経歴があるためか、「内向き」の社風が色濃くあった。現状維持の考えはやがて活力が失われる弊害が大きい。皆が守りに走り、何かトラブルや失敗が起きると責任を人のせいにするようになる。ここを打破したいと思った。内より外へ視線を転じ、商圏を広げていく作戦を立てた。
 現在は福山支店のほか九州、大阪へ営業所を設け、主力の砂糖や小麦粉をはじめ、健康志向の食品原材料などの商材を増やしている。砂糖の品質に大差はない。価格と安定供給が販売競争の決め手。わが社は直接、菓子業界向けに売り込み、提案型のこまやかな営業を展開している。そうした取り組みから社内に元気が広がり、やりがいを感じてくれていると思う。挑戦して失敗することもあるが、困難を克服して成果をつかんだ経験は何ものにも代え難い。

シリーズ「団塊の世代」|広島経済レポート 特別企画自らの経験を踏まえ、挑戦の大切さを語る伊藤氏の揮毫(きごう)

 父親の足跡をたどるように、11年に卸センターの3代目理事長に就く。12年から団体中央会会長を兼務。07~13年に商議所副会頭を務める。それぞれの立場で抜群のリーダーシップを発揮した。選任されると少し負担感もあるが、「引き受けたからには全力でやる」という負けん気が頭をもたげる。人にはそれぞれ持ち味、個性があるが、リーダーシップはおのずとその人に備わっており、持って生まれたものかも知れない。まねようとしてまねることは難しい。

何のためか、本筋を考える

-これまで何かと全国的な組織、イベントに縁が深い。広島青年会議所の時代、広島であった85年の日本青年会議所全国大会で懇親会担当委員長を務めたほか、広島から初めて、94年度の全国法人会総連合の青年部会連絡協議会の会長、2013年に広島であった国内最大級の菓子の祭典、全国菓子大博覧会の実行委員会事務総長を務めた。印象深いことを教えてください。

シリーズ「団塊の世代」|広島経済レポート 特別企画座右の銘「三級波高魚化龍」荒 波を乗り越えて龍になる。二世経営者の気構えか。
 全て全力でやった。それぞれに思い出がある。まずは何のためにやるのかと熟考し、時には自分流を通してきた。むろん菓子博は業界振興が目的だが、旧市民球場跡地を利用した会場周辺に迷惑を掛けない、地域から感謝されるような運営を心掛けた。菓子博で初めて、一日に何度でも会場に出入りできる再入場システムを採用。過去最高レベルの来場者になり、周辺の百貨店、飲食店や地下街シャレオなどへ出向いた来場者も多く、軒並み繁盛したと聞く。やってよかったと感激があった。

-市へ、国際会議場や見本市などを開く「MICE関連施設」の整備構想を要望。ようやく一歩を踏み出す運びになった。  西部流通団地完成から40年以上が経過した。組合施設や組合員の建物も老朽化が目立つようになり、地域を挙げて団地リニューアル事業に取り組んでいる。広島サンプラザとその周辺を建設候補地とするMICE関連施設はメイン展示場やホテルを構想。中小企業会館・展示場の建て替えは組合員の事業発展に役立つ研究開発工房などの機能、スペースを整備する案を描く。組合員にとって団地全体の環境が良くなり、にぎわいのある街にしたい。広島中央卸売市場建て替え計画が動き出す格好のタイミングになる。高速道に近くJRなどの交通アクセスにも恵まれている。都心と連携し、広島の西の玄関口にふさわしい街になると確信している。
 他の政令市に比べて国際会議の開催は桁違いに少ない。大規模な国際会議場や展示会場の整備は大きく立ち後れているのではないだろうか。その点からも5月に開かれるG7広島サミットの誘発効果に期待している。

伊藤 学人(いとう・がくひと) 1973年 商工組合中央金庫堺支店
1977年 伊藤砂糖に入り専務
1989年 広島青年会議所理事長
1990年 社長就任
1995年~2015年まで 広島県菓子工業組合専務
2007年~2013年まで 広島商工会議所副会頭
2011年~至現在 広島総合卸センター理事長
2012年~至現在 広島県中小企業団体中央会会長

取材日:2023年1月

シリーズ「団塊の世代」

会社概要

株式会社イトー
所在地:〒739-0153 広島市西区商工センター1 ‒12‒16
設 立:昭和26年(1951年)
売上高:73億円
従業員数:21人
URL:https://www.ito-sato.co.jp/
事業内容:砂糖、小麦粉など食品材料卸
※2023年1月当時の情報です。