技術継承しやすい体制へ、班長を配置
毎月の講習会で部署間の交流を活性化
広和機工株式会社
取り組んだ背景 ~繁忙期の残業・休日出勤が常態化し、従業員が疲弊
住友重機械工業の代理店で、変・減速機を中心に販売とメンテナンスを手掛ける。メンテナンスを行うサービス部門を中心に、4~5年ほど前から繁忙期の残業や土曜・休日出勤が常態化。特に大量の修理依頼が入る秋~春先には、顧客の求める期限に間に合わせるため、代休も取れない状況が続き、従業員が疲弊していたという。社長の川添貴史氏は、
「離職者は出ていなかったが、不満の声は聞こえていた。一部業務を外注するなど試行錯誤していたが、熟練者にしかできない仕事も多く、思うように結果を出せていなかった」と振り返る。働き方改革機運の全国的な高まりもあり、2019年秋に県のセミナーに前社長で会長の余越剛吉氏や取締役・サービス部長の松林秀之氏が参加。松林氏や経理部主任の中村貴恵氏を中心に取組を本格化した。
主な取組と工夫点
◆班長を配置し、技術継承をしやすく
サービス部門では熟練者にしかできないメンテナンスも多く、限られたメンバーに仕事が集中していた。そこで、若手への技術継承をスムーズに進められるよう、20年10月に12人の部員に対し、2人の班長を配置した。班長は班内の熟練者に協力を仰ぎ、若手を育成。松林氏は、
「熟練者は職人かたぎで、教えるのがあまり得意ではない人が多いのですが、班長が間に入ることで、技術継承が円滑に行えるのではと考えました。身近に相談できる存在(班長)を設け、悩み事や困っていることを吸い上げやすくする狙いもあります」と話す。一層若手の育成に時間を割けるよう、専用の治具を自社製作し、部品の組付工程の一部を機械化することも検討している。
◆毎月の講習会で部署間の交流を促進
取組に先立ち、19年冬にグループヒアリングを実施。若手、女性、管理職に2事業所(宇部、南九州)を加えた5グループに分け、仕事への取組姿勢や目標などを聞き取ったところ、「来た仕事をやっているだけ」など、働きがいを失っている従業員の存在が明らかになった。
そこで、働き方改革専門コンサルタントを招いて20年6月から毎月講習会を開催。社長をはじめ、役員から一般従業員まで各部門3~5人が毎月参加し、組織づくりをテーマに自己分析などのワークに一緒に取り組んだ。これにより、それまで交流機会の少なかった部署間、経営者層と従業員間のコミュニケーションが活発化し、従業員から改善に向けた意見も出るようになった。中村氏は、
「男性にも電話応対をしてほしいとの意見が出たため、1年ほど前に電話機の設定を変更。全員がワンタッチで外線を取れるようにし、業務効率化に役立っています」と話す。
松林氏は、
「講習会は21年4月で一旦終了しますが、複数部署の従業員が集まり、交流する機会は今後も設けたい。講習会で習った自己分析の手法『EQI(行動特性検査)』はチームワークの向上や従業員のスキルアップに生かせると思うので、全社で行うことも検討しています」と話す。
◆IT機器やシステムを活用し、業務効率アップ
コロナ禍もあり、業務効率化を目的に進めてきた従業員へのスマホ・ノートPCの支給を20年春頃から加速している。
また、会議室には広角カメラを導入し、全体会議や部門長会議などの社内会議に活用。拠点間の移動時間削減に成功した。オンライン会議システムによる商談も随時取り入れている。21年2月には、外出先から会社のサーバーにアクセスできるよう通信設備などを整備。営業部員を皮切りに事務職にも広げ、在宅勤務にも柔軟に対応していきたいとする。川添氏は、
「これまでの営業スタイルはお客様を訪問しての商談が当たり前でしたが、通信スピードの向上やコロナ禍も相まってITの活用が一気に進み、今ではウェブ会議が日常的になりました。さらに業務の棚卸を推し進め、会社でしかできない仕事とそうでない仕事を明らかにし、また、どうしたら在宅勤務がしやすくなるかを考えていきたい」と先を見据える。
◆有休取得促進へ、一斉メールや誕生日休暇の呼びかけ
1人当たり年9日の有休取得を目標に定め、全員の取得状況や残業時間を表にし、数年前から毎月メールで配信。取得が進まない人には所属長が声かけを行うようにしたことで、全員の意識が変わってきたという。一昨年秋には2時間単位で取れる「4分の1有休」を新設し、病院や役所などちょっとした用事でも休みを取りやすい体制を整えた。毎月の全体朝礼ではその月に誕生日を迎える人を発表し、誕生日休暇の取得を促している。
取組の中で苦労したこと ~技術継承には業務効率化が不可欠
サービス部門の慢性的な繁忙状態の改善のため、定年者の再雇用や外部委託、他拠点への業務分担などに数年前から取り組んできたが、熟練者でないと難しいメンテナンスも多く、思うように成果は上がらなかった。川添氏は、
「ただ人手を確保するだけではなく、業務効率を上げ、技術の継承を行う時間を作る必要性を実感しました。また、コミュニケーション不足から営業部門とサービス部門の隔たりが大きくなっており、お互い意見を言い合える雰囲気を作ることに時間がかかりました。」と振り返る。
取組の成果 ~年間有休取得日数12.2日と年々増加
有休取得状況のメール配信や誕生日休暇の呼びかけなどが奏功し、1人当たりの年間有休取得日数は17年の9.2日から年々増え、20年には12.2日となった。中村氏は、
「ここ数年はメンテナンス受注量が多かったことと、取組を始めて間もないこともあり、残業時間に関しては大幅な削減には至っていません。今後、各取組の成果が数字に現れてくると期待しています」と話す。
課題や今後の目標 ~部署間交流を促し、楽しく働ける会社へ
松林氏は、
「メンテナンスの受注が重なり繁忙になると、『営業はサービス部門の業務量を考えずに仕事を取ってくる』と不満を感じるサービス部員もいました。これらは相互の理解不足が原因。働き方改革の取組などで少しずつ部署間のコミュニケーションが増えてきましたが、まだ不十分です。まずは自分が部署の線引きを取り払って営業メンバーと積極的に会話の機会を持ち、そこに随時、他のメンバーを巻き込んで相互理解を深めていきたい。サービス部員の営業への同行も検討しているところです」と話す。
22年春を目標に完成予定の新社屋ではこれまで別だったフロアを統合し、部署間の交流を促進する方針。設立55周年を迎える22年には海外への社員旅行も計画する。川添氏は、
「どういう立場であれ、楽しく仕事をしてほしい。今後も取組を続け、従業員が皆生き生きと仕事に取り組める職場にしていきたい」と意気込む。
従業員からの評価
総務部
嶋本 博之 主幹
20年3月に現在の部署に異動するまではサービスの現場で勤務していました。休みを取ろうという意識がもともとありませんでしたが、会社から有休の取得状況が通知されるようになってからは休みを取ろうという意識が生まれました。今では家の行事などに有意義に活用し、オンとオフの切り替えがうまくできています。休む前には他のメンバーに仕事を任せるために事前に段取りを行いますが、これによって普段もメリハリを付けて計画的に働くようになり、帰社時間も早まっています。
取材日 2021年2月
会社概要
広和機工株式会社
所在地:廿日市市木材港北3-28
URL:http://kowa-nt.jp/
業務内容:機械・電気機器類の卸売り、減速機類のメンテナンス
従業員数:49人(男性40人、女性9人)
(2020年12月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)