社内交流や表彰制度で定着率アップ
販売実績だけでなく人間力も評価

アンデックスソリューション株式会社

取り組んだ背景
 ~業績維持・向上に定着率アップが不可欠

 工業用大型塗装設備や自動車用塗装設備、乾燥装置の国内トップメーカーのアンデックス(尾道市)の通信事業部を2014年に分社化して設立した。尾道市、福山市、広島市でドコモショップの店舗を運営し、法人向けに社内の通信システム構築も支援する。
  09年からドコモショップ事業を統括している執行役員の前原美紀氏は
「携帯キャリアショップは、複雑な商品知識とプレゼン力、良質な接客マナーが求められる上、勤務時間は長くなりがちです。働くのは若年層の比率が高く、離職率も高い傾向にあります。教育トレーニングと退職の繰り返しで会社が疲弊する中で、人材育成と定着率アップが経営の重要課題でした」
と話す。業績の維持・向上には従業員一人一人が帰属意識を持って仕事に取り組める環境整備が不可欠と考えた前原氏は、09年に社内独自の研修制度のほか、労働時間の削減、有給休暇の取得促進、人事評価制度、福利厚生の充実などの取組に着手した。

主な取組と工夫点

◆研修で社内の人間関係作り、定着率アップ
 まず、人材育成プログラムの一環として、2カ月間に渡る新入社員研修と、半年後のフォロー研修、1年後のスキルアップ研修を始めた。社会人としての心得や自社方針を丁寧に教え諭すことから始め、業務知識における座学と接客スキル講習の中で、仕事に不慣れな新入社員のストレス軽減を目的にコミュニケーションを促す工夫を凝らし、励まし合える同期入社の絆づくりに役立てている。また、店舗配属後、先輩従業員が相談や指導にあたるチューター制度を設けることで、新入社員のフォロー体制を整えている。さらに、社内研修の講師は中堅従業員が交代で務めることで、自身のキャリアアップのための勉強や成長にもつながっているという。その他、中堅従業員を対象とした、年間を通してキャリア形成につながる研修も実施しており
「研修を通して従業員同士の交流が増え、人間関係がより良好になり、店舗の総合力も向上します。コミュニケーションが活性化したことで定着率がアップしました」
と前原氏。

◆育休後も働き続けられる時短の「準社員制度」
 以前は結婚や出産に伴って、一定のキャリアを積んだスキルの高い人材の離職が定期的に発生していた。その流出を防ぐため、出産・育休後でも働き続けられるように17年に「準社員制度」を創設。子どもが3歳から小学校4年生になるまで、時短勤務(6時間以上8時間未満)が可能で、その後は本人の希望に応じてフルタイムの正社員に戻ることもできる。これまでに3人が制度を利用している。  18年からは男性の育児休業の取得も進める。これまでの取得実績は6人で、取得の希望者は年々増えている。

◆従業員アンケートを改善に生かし、機運も高める
 「チームワークの充実が業務効率化につながるので、風通しの良い職場づくりに努めてきました。上司に遠慮せずに要望を言える雰囲気が無ければ、前向きな提案は出ません」
と前原氏。16年から年に1回、従業員向けアンケートを実施。要望を業務改善に生かすことで、従業員一人一人の前向きな思いがかなう職場づくりを目指している。そこから出た要望を集約し、店頭業務をバックアップする「業務部」を新設し、仕事の平準化を図り、業務の効率化を実現した。このほか、時間外労働の削減を実現できた店舗を賞与で評価するなど、会社が働き方改革に本気で取り組む姿勢を示したことで社内の雰囲気を少しずつ変えていった。

◆上司の声掛けで有休取得しやすい雰囲気づくり
 17年にはリフレッシュ休暇制度を設け、有給休暇を含めた休暇取得を促すメッセージを送り続けた。前原氏は
「休んではいけない、という昔ながらの慣習や雰囲気、気持ちをリセットし、休暇で本当にリフレッシュすることが働く意欲や新たな発想につながるという意識改革を進めました」
と話す。同時に、有給休暇の取得を優先事項として、お互いに協力してカバーし合う体制づくりにも取り組んだ。ベテラン従業員から率先して休暇を取るように促し、家族や友人との旅行、趣味を楽しむことであっても遠慮なく取得申請できる雰囲気づくりを進めた。今では従業員それぞれが早めに勤務シフトに休暇を組み入れるようになり、現場の調整もしやすくなって、結果として取得率も大きく向上した。

◆人間力に焦点を充てた評価を社内で共有し、モチベーション向上
 人材の定着には、その会社でのキャリアアップの見通しや人事評価制度の内容が大きく影響する。同社は、販売実績評価だけではなく、応対、努力・積極性、信頼、育成支援、チームワークといった数字に表れない個人のスキルについて、月に1回、従業員同士で投票し「魅力新聞」として社内に掲載。他者承認によるモチベーションアップにつなげている。
 この評価を取り入れた理由を前原氏は
「人間力に対する評価は、顧客サービス向上と業績アップにつながる店舗運営力を測るもので、従業員自身の行動指針になり、会社としては役職候補を選ぶ指標としても有効です」
と、説明する。販売面における評価は、ベテランの活躍に偏らず新人でも競い合える項目内容もそろえ、月間重点項目MVP、四半期や年間MVPなどで会社が表彰している。各従業員が地域の顧客への最適提案に努め、目標達成に向けて意欲的に取り組める工夫を今後も続けていきたいという。

取組の中で苦労したこと
 ~運用段階で要望を聴き、見直しを繰り返す

 時短勤務制度は、対象者が早く帰ると、残りのメンバーの仕事は増える現実があり、すぐに機能したわけではなかった。
「運用段階で何度か見直しが必要でした。その過程で制度利用者の悩み、そして現場の悩みを遠慮なく話してもらえるように、まずは耳を傾ける姿勢を示すことが大事だと痛感しました」
と、前原氏は振り返る。そのため傾聴の姿勢を幹部にも浸透させるように取り組んだ。
「仲間に過度な遠慮をするような状況は、その人の仕事の質も低下させます。スキルの高い人材が働き続けるための制度だからこそ、時短勤務者には時間内のパフォーマンスを上げるための働きかけを行い、他の人にはいずれ自分も利用する制度かもしれないのだから、お互いに協力し合おうと呼びかけました」
と前原氏。職場内の友好的な関係を維持することが、従業員それぞれの仕事の質を上げ、業績アップにつながることを実感したという。

取組の成果
 ~有休取得率や採用、定着率などで効果

 有給休暇の計画取得を着実に実行し、18年には取得率60.9%と大幅に増加した。有休取得促進をはじめとするさまざまな取組の中で、繰り返し従業員にメッセージを送り続けることが社内の意識改革につながっていった。従業員同士のコミュニケーションも豊かになり、職場の雰囲気は年々良くなっている。結果として定着率の向上につながり、人員不足も解消できた。

課題や今後の目標
 ~取組と制度のブラッシュアップを継続

 従業員が働き続けたいと思う会社がゴール。ゴールに向かって今の取組を継続し、既存の制度をブラッシュアップし続ける地道な取組が不可欠だと前原氏は考える。
「従業員の声に耳を傾け、働きやすさが業績向上につながることを証明し、将来を担う人材の育成や人事考課制度の充実に取り組んでいきたい」
と語った。

従業員からの評価

業務部
法人サポート主任 由永 真理 

 01年に入社し、副店長として若手の育成、指導を担当した時期もありました。やりがいがあり、仕事が面白くなってきた頃に、持病が悪化しました。休まざるを得ない期間があり、当時は退職するしかないと思い上長に相談したところ、裏方で店舗や法人営業の支援を担う役割を与えてくれました。残業なしのフルタイム勤務での約8年の間に持病も落ち着き、その後は新しい業務にチャレンジする機会にも恵まれ、今もやりがいを感じています。あの時、退職しなくて本当に良かったと思います。今後も私自身のスキルアップはもちろんのこと、社内が活性化する支援を続けていきたいと思います。

取材日 2020年1月

会社概要

アンデックスソリューション株式会社
所在地:尾道市東尾道15-29
URL:https://www.andex.co.jp/solution/
事業内容:卸売・小売業、ドコモショップの運営
従業員数:99名(男性36人、女性63人)
(2019年11月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com