オランダの水準に合わせた働き方改革で、
女性の活躍が加速。新卒応募も5倍以上に

株式会社花満

1 新卒採用の方法を一新。就活学生のエントリーが、数名→50名に急増

 中国地区で最大の花き取扱業者である株式会社花満(以下、花満)は、現在の和田庸子取締役会長をはじめ、経営の重要なポストを女性が務めていることもあり、女性が働くことに関する理解が深い。管理職のうち4分の1が女性で、マネジメントのできる人材は男女関係なく昇格させる。平成28年度に、銀行出身の栗林氏が副社長に着任して以来、新卒採用の工夫、人事考課制度の導入、人事施策や働き方改革への取組等を行い、近年その成果が徐々に表れはじめている。

 花満にとって長年悩みの種だった「人材採用」。その課題に対処するため、栗林氏が始めたのが次の2つの戦略だ。

①「地元志向の優秀な女性の応募を狙い、リクルートサイトの見せ方を工夫」
 平成29年6月から大手の新卒リクルートサイトに掲載を開始。地元志向の女性確保に向けてサイトの見せ方を工夫した。例えば、最も目を惹くトップページに「広島限定採用 転勤・異動はありません」と記載し、今の若者が求める「地元で育児と両立しやすい職場環境で働きたい」というニーズに対応。「花育」「花活」など、若者受けしそうな表現も工夫した。また、若い男女が笑顔で写っている写真を掲載し、若手が楽しく働いている明るい職場環境をPR。さらに「育児休業取得者数」から「役員及び管理的地位にある者に占める女性の割合」等の詳細情報を開示し、女性の活躍や福利厚生の充実ぶりもアピールした(図1参照)。
 また、リクルートサイト主催の合同企業説明会では、若手女性従業員をリクルーターに起用し、応募者の目の前で実際に「せり」を披露することで「かっこいい」と憧れを持たせるような工夫も行った。そういった「見せ方の工夫」に取り組んだ結果、平成30年度採用のエントリー数はなんと50名(うち8割女性)になり、これまで応募数が数名であったことから比べて目覚ましい実績をたたき出した。

図1 リクルートサイトでの工夫

②「副社長自らが駅まで送迎を行い、学生とじっくり話をし、相互理解を深める」
 エントリーしてくれた応募者を逃がさず、また相互に理解するための工夫と努力も行っている。例えば、エントリー者全員に副社長自らがメールを個別に返信する。実際に企業に来てもらった上で個別面談を実施することや、近くの駅まで副社長自らが車で送迎する旨を伝えている。「副社長自ら」という印象的なメッセージにより、本気の応募者が応募して来る傾向になったという。また「送迎」も重要なポイントで、コミュニケーションを行う時間が増えるだけでなく、車中では応募者の本音が聞きやすいのだという。

 このような採用への努力が実を結び、サイトへの掲載こそ就職活動の一斉開始時期よりも多少遅れたものの、来年度(平成30年度)の採用予定者3名は全て女性となり、ここ3年で最多の採用数となった。

2 業績アップを牽引する女性従業員の継続就業を企業として支援

 花満は女性の継続就業を支える有効な取組として、家庭環境や希望に合わせた配置を行っている。例えば、育児中の女性を、荷受けした花を分荷する作業を行う「荷受課」へ配置。この部署は時間調整がしやすく、いざという時のカバーもしやすいそうだ。同課に同じ境遇の女性が多いことで相互理解も深めやすく、「子どもがいるから早く帰ろう!」という声掛けも当たり前のように聞こえてくる。中には4度育休を取得して働いている従業員もおり、10年前は進んでいなかった育休の取得も、1人2人と取得者が増えるにつれて引っ張られるように増加しているそうだ。社内では「育児は女性がレベルアップする機会」と捉え、職場復帰制度も充実させている。市場内には事業所内保育事業の「卸センター・もみのき保育園」という広島市認可保育園もあり、この保育園への入園が叶えば職場のすぐ近くで子どもの送り迎えが楽ということも両立支援を後押ししている。「卸センター・もみのき保育園」についての詳細はこちら

 また、同社では様々な部署において女性活躍が進んでいる。その理由は、優秀な従業員は性別に関係なく会社の業績に貢献することを経営層が実感しているからだ。例えば、3年前までは男性のみ配属されていた「情報システム課」に女性従業員を配置し始めた。この背景には、企業イメージに合ったHPリニューアルにあたって女性のセンスを生かしたいという意図があり、スキルの高い女性を配置したという。また、同社のWeb取引上の重要な基幹システムを女性従業員が中心となって充実させ、取引内容の分析結果をビジネス戦略に生かす等、業績貢献している。さらに、せり業務や産地での仕入れ、購買業務を行う「営業本部」にも女性を配置。購買するためには花や産地に関する深い知識やネットワーク等が必要であり、若手にここで経験を積ませるという。
 現在社内には、「将来は『企画広報室』で、企画や広報を行う仕事をしたい」と希望する若手従業員が多いそうだ。これは、前社長の和田由里氏が同部門で、「花育」「花活」といった新しい概念の創造や、11月22日(いい夫婦の日)や2月14日(フラワーバレンタイン)等の記念日を普及させる目的で様々なイベントの企画やHP等での広報業務を行って活躍しており、女性従業員の「憧れ」となっていることが大きい。こういったロールモデルの存在も、女性の活躍、継続就業に一役買っている。

図2 花満の女性配置状況

3 MPS認証取得を契機に職場環境を改善。作業とシフトの見える化で残業が半減

 同社は、女性活躍だけでなく「男女問わず働きやすい職場環境作り」にも取り組んでいる。その内容は、平成21年に取得したMPSと関連が深い。MPSとは、花きの先進国オランダで環境負荷低減プログラムとしてスタートした、花き業界の総合的な認証システムである。MPSの中に、「社会的責任認証(MPS-SQ)」という、国際労働機関(ILO)協定に基づく国際的な行動規範(ICC)に則った従業員の雇用・安全管理、社会責任等に対応する認証もあり、チェックリストに定められた要求事項を尊守することによって認証が授与される(※2、3)。厳しい基準のMPSを維持し続けるためには、従業員の雇用環境整備に対応しなければならず、同社の職場環境を改善する後押しになっている。
※2 参考サイト:MPS JAPAN公式HP「MPSとは」
※3 MPS認証のためのチェックリスト(左図)

 要求事項の顕著なものに、残業時間削減への取組がある。5年前、法定時間を超えるような残業が慢性化していた状況を改善するため、4つの取組を行った。1つ目は、シフトの「定形化」「見える化」。やるべき仕事を洗い出し、そこに従事する人員数を当て込み、従業員の家庭環境も考慮しながらシフトを組んだ。2つ目に、シフト表を全員が見える位置に貼り、全従業員にメール等で共有することで、誰がいつどこで働いているかを全員が把握できるようにした(※4)。3つ目に、システム投資を行い、タイムカードをシステムで管理、不正を見分けるチェック機能をつけた。そして4つ目に、帰りやすい雰囲気をつくり、残業させない社風を醸成するため、トップからのメッセージを伝達した。その結果、残業は従来の半分以下となり、爆発的な効果をもたらした。また、これまで実態に即していなかった「みなし残業代」をカットすることもできるようになり、後述する「成果に応じた評価・配当」の原資にすることができた。残業は減っても売上への影響はなかったため、今後も継続して残業時間削減に取り組む方針である。
※4 シフト表(下図)

 さらに、副社長が昨年から新たに導入したのが、「やれば報われる職場環境の充実」を目指した人事考課制度である。時間ではなく業務に対する貢献度や職務の遂行度、業績、能力等に応じて賃金・昇進を人事に反映することが目的で、業務効果面接を年2回、人事評価を年1回行うことを決めた。これまで、評価が一般の従業員に伝わることはなかったが、制度導入により面談を通じて自身の評価を聞く機会が初めて設けられ、従業員のモチベーションアップや継続就業につながっている。また、来年4月からは、自身の5年、10年、15年後のポジション・給与の見える化を図り、さらなる従業員意識改革への加速を促す予定である。
 意欲的な副社長の「働き方改革」から今後も目が離せない。

取材担当者からの一言

 活気のある市場で活躍する「せり女」はかっこいいし、花と関わる仕事も女性の憧れだろう。そういった魅力的な企業イメージに加えて「働きやすさ」まで、新卒採用活動でうまくPRできた好事例であり、効果も顕著に表れ、人材不足で悩む地元・中小企業にとって参考となるモデルである。また、女性の希望や家庭環境に合わせた配置やシフト作成を実施し、女性の継続就業を後押ししている。MPS認証を取得したことも同社にとって大きかったようだ。外部からの厳しい目に耐え得る職場環境作りが従業員にとっても良い相乗効果として機能している。副社長栗林氏の黒船のような改革、先進的な取組が同社にとってどのような効果をもたらすのか引き続き注目したい。

●取材日 2017年9月
●取材ご対応者
取締役副社長 栗林和彦氏
経営管理部次長(総務担当) 和田佳苗氏

会社概要

株式会社花満
所在地:広島市西区草津港1-8-1
URL:http://hanaman.co.jp/
業務内容:株式会社花満は、1921年に盆栽などが盛んな町・西区己斐で創業し、96年の長きに渡って「花」の流通を支えてきた。81年9月に農林水産大臣より広島市中央卸売市場中央市場花き部卸売業者として認可を受け、同年10月に同市場に入場。切り花・鉢物・植木・その他花き関連商品全般を扱い、広島市を中心に周辺地域へ供給している。
従業員数:64名
女性従業員比率:42.4%
女性管理職比率:25.0%
(2017年9月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com