専門的な学びの中で人を育て、
自分も育てられる環境

社会福祉法人つくし会 幼保連携型認定こども園 こどもえんつくし

1 課題である就業継続のために、個人の状況をじっくり聞いて対応

 住宅街の中に位置する「こどもえん つくし」を訪れてまず感じたのが、まるでカフェにいるかのようなリラックスした空間が広がっていることである。門から玄関へのアプローチには、うさぎのブロンズ像、花が配置され、玄関には彫刻のレリーフが装飾されている。窓の奥では、子どもたちが気持ちよさそうにお昼寝をしていた。そんな「こどもえん つくし」には、40名ほどの保育士をはじめとする職員が在籍し、すべて女性である。採用に関して尋ねると
「『保育士になることが夢でした』という方がほとんどです。しかし現実は、日々様々な想定外のことが起きますし、大変な面もあります」
と甲斐園長が答える。平成29年度は5名の新卒者を採用したが、平成28年度に5名退職者がおり、採用後の就業継続が重要な課題といえる。対応のカギは、個人の状況をじっくり聞いて理解し、園として就業継続のための柔軟な支援をすることと、甲斐園長はいう。保育士一人一人の結婚・出産といったライフイベントや状況に応じて、朝中心、夕方中心といった勤務時間帯、勤務時間の長さ、育児休業期間など、個別面談で決めていく。中には一時的に1日3時間勤務とした職員もいたという。しかし、働き方を柔軟にすると園の運営はその分大変だ。
「育児と仕事、二足の草鞋は履けない場合もあります。子育てを通じて、今しか経験できないことをやることは尊重すべきことです。ライフステージが変わると、考え方も優先順位も変わります。今しかできないことを、コツコツとやることが大切だと考えます」
と甲斐園長は答える。また、「我が子を預けたい」と思ってもらえる園作りを目指しており、実際母親になった職員の子どものほとんどが「こどもえん つくし」への入園を希望するそうだ。幼い子どもの近くということも、働きやすさにつながっていると思われる。

 同園の保育士が離職する理由は県外在住者との結婚もあるが、近年は「一度は都会で働きたい」と希望するケースが多く、外を知りたいという若者の気持ちが強くなってきたことを感じるという。そこで、離職防止策の1つとして、在職しながら自分を向上させる経験の機会が得られるよう、10日間程度の海外研修のための休暇制度を取らせたり、ワーキングホリデーに送り出すなど、人材育成と就業継続を両立させようと試みる。また、厚生労働省の調査(※1)でも、2割の人が「保護者との関係が難しい」ことを保育士への就業を希望しない理由として挙げているように、人間関係が理由の離職であることも少なくない。
「仕事は嫌なこと、苦手なこと、やらなければならないことなどあり、決して“楽(らく)”ではありませんが、コツコツ続ける中から喜びや楽しさ、達成感を見出し、自信につなげてほしい」
と甲斐園長は所属する保育士を応援する。

※1 出典:厚生労働省職業安定局「保育士資格を有しながら保育士として就職を希望しない求職者に対する意識調査」2013年

2 様々な専門性を持つ人材を招聘し、
子ども・先生・保護者とともに学び、成長することを目指す

 「こどもえん つくし」では、「アトリエスタ」と呼ぶ各分野の外部講師を招き、英語、太鼓、ダンス、書道、造形絵画、絵本の読み聞かせなどを行い、豊かな情緒や感性を育てることを試みている。華やかなダンスの先生を見て、目を輝かせたり、洋菓子店で働くパティシエが自分の休日を利用して園に勤務しおやつを作るため、本格的なお菓子にも触れられる。職員はすべて女性だが、外部講師には男性や外国人もいる。また、中学生や高校生の保育体験も毎年実施している。甲斐園長によると、保育士資格等がなくても、地域社会の幅広い専門家等を招くことで多様な人材を確保することができ、子どもたちに愛情を注いでもらうだけでなく、職員も同時に外部からの影響を受けてほしいと考えてこのような取組をしているそうだ。

 0歳児の乳児棟「Peanuts」もそんな一例で、園児の父親でもあった建築士が設計し、平成25年度日事連建築賞国土大臣賞を受賞した建物だそう。落花生のような曲線が印象的な建物で、緩やかな傾斜床の脇には植物が配され、外からの光がほどよく入り、子ども・職員ともに優しく包み込み、気持ちよく過ごせる空間を作り出している。

 そのほかにも、園の各所にかわいらしい芸術作品が配されており、様々な専門家の協力のもと、「良質」「自然」「本物」を志向する園の方針が実現されている。

3 園長就任後、大学院に入学し、専門的な学びを継続的に重ねる重要性を実感

 

 長年「こどもえん つくし」で活躍中の甲斐園長であるが、保育士となったのは「夢や憧れ」からではなく、「大学を出るまで色々な方に支えられ教育していただいたのだから、きちんと恩返ししなければならない」と母親から言われ、保育士として就職し、結婚や出産後も続けてきたと振り返る。前園長の木村先生から「園の財政状況も含めてこれからのことを頼む」と言われ、平成12年につくし保育園(※2)の園長となった。木村先生とともに主任として、子どもの保育や教育を続けてきてある程度理解していたが、園の運営という点では、まったく知識がなかった。そこで、外部団体が主催する研修会等に参加し、特に会計や園の運営に関する知識を学び、限られた財政の中で子どものための施設のリノベーションなども継続的に行う等、園の経営者としても手腕を発揮してきた。
 また、核家族化・地域のつながりの希薄化等の背景から地域子育て支援としての役割も求められ、園として子育てに関する相談を受ける中で、自分の経験だけで相談に乗ることに疑問を感じ始め、責任をもって対応するために心理学を学びたいと考えるようになった。そこで、平成21年に福山大学の大学院に入学し、臨床発達心理学の勉強を始めた。午前または午後の授業に出席し、それ以外の時間帯は園長として勤務した。2年で必修単位を取りながら研究活動を行い、論文の作成に挑んだ。主に勤務後の夜間に論文を書いたという。無事修士号を取得し、理論の知識を得た上で相談に乗れるようになり、自信が持て、改めて学びの大切さを感じたという。その経験から職員に対しても、甲斐園長が公民館を借りるなどして、定期的に研修会を開き、学びの場を与えている。

 「保育施設は、園長・主任・保育士という枠組みの中で実践を重ねてきた長い歴史がありますが、ここ数年で子育てに関する社会的な関心が高まり、現場の職員もキャリアアップを求められるようになりました。現在のスキルを将来像に照らし、3年・5年・10年先に自らの専門性である知識・技術・判断力等を実践の場で発揮するために、園外また海外も含めた研修、学び、研究、良い本との出会いなどをしてほしい」と保育士の視野を広げる取組を積極的に後押しする。

※2 「つくし保育園」は、幼保連携型認定こども園「こどもえん つくし」として2016年4月からスタートした

取材担当者からの一言

 保育、幼児教育の現場は、これまでもほとんど女性が担ってきた。女性の雇用継続や管理職の登用についての歴史があるため、参考になる部分も多々あるはずと考え、取材に臨んだ。最近でこそ各企業でも育休の延長や時短勤務などの制度が整備されてきているが、やはり保育園では女性が多いことで過去から必要に迫られて工夫していく中で、当たり前のように様々な制度の導入が行われてきたのだと気付かされた。一時的に仕事より育児に軸足を置きたい、または置かざるを得ないという状況になった場合、仕事を柔軟に調節することは、ごく自然なことであるように感じた。かといって、キャリアアップについてもあきらめず、職員にも学びの場を与えようとしている甲斐園長の方針には感銘を受けた。実は取材担当者も就学前の2人を育児中であり、キャリアアップについて多少の焦りや、やりたいことができないもどかしさを抱えている。甲斐園長の「やりたいことはいつからでもできる。今しかできないことをすることが大切」という言葉に、安心するとともに勇気を与えてもらった。子どもを産むという女性の事情と、キャリアアップして社会に貢献したいという気持ちを柔軟に組織として応援し、活躍を促進させていく重要性を改めて感じた。

●取材日 2017年11月
●取材ご対応者
理事長・園長 甲斐 弘美 氏

会社概要

社会福祉法人つくし会 幼保連携型認定こども園 こどもえんつくし
所在地:福山市木之庄町5-17-36
URL:http://kodomoen-tsukushi.jp/
業務内容:「こどもえんつくし」は福山市にある幼保連携型認定こども園であり、幼稚園と保育所の両方の良さを併せ持つ教育・保育を包括的に行う施設である。子育て支援(COCOKARA)、一時保育サービスの運営や各種相談事業などにも取り組んでいる。
従業員数:45名
女性従業員比率:100%
女性管理職比率:100%
(2017年11月末現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com