業界の常識を打ち破り、
前例のない女性管理職・専門職採用を実現
アイレストホーム株式会社
1. 「女性目線」「主婦目線」を強みと捉え、
女性従業員率は業界平均の約2.8倍
アイレストホーム株式会社設立当初から、旦代表取締役会長には「住宅業界は設計やコーディネーターとして女性が中心となり活躍する場面が多い」という認識があり、女性の活躍を願ってきた。また「女性が活躍すると、社会も元気になる」という思いから、女性の採用や活躍のための取組を積極的に実施してきた。その結果が実り、現在では従業員34名のうち、女性が44%と業界平均16%に対して約2.8倍と高い比率となっている。
同社のコア事業である戸建注文建築事業は、顧客のニーズを実生活に基づいて細かく汲み取るいわゆる「女性目線」「主婦目線」が必要であり、女性ならではの力を発揮しやすい環境といえる。そのため、展示場や営業所、設計部門等あらゆる業種で女性を積極的に採用し、女性従業員も配属先において活躍してきた。比較的小規模な企業あるがゆえに、それをサポートするアットホームな企業風土があるため、長く活躍できる環境も整っているという。聞けば中には、20年以上展示場の受付担当を務める70代の女性従業員が現役で活躍しているという。お客様への対応が見事で、次のコンタクトにつながる成果を多く出しており、若手従業員の良いお手本であると同時に、他の女性従業員にとっても、長く活躍するモデルケースの一つとなっているようだ。
社内で最も多くの女性が活躍している部署は設計部。昔から女性が多く所属する部門で、特に20代・30代の女性が多い。資格・技術を活かして仕事と家庭の両立がしやすいため、CADオペレーターの専業であれば、業界内でも女性比率が高い。しかし、同社ではCADオペレーター業務者に対し、CAD設計だけではなく、積算や建築確認申請まで一連業務を担当させるという。これは、業界内では珍しいことだ。「個人のスキルアップにつながるとともに、やりがいのある仕事を男女問わず任せたい」と旦取締役副社長は話す。日々の業務で高度なスキル・知識が身につく仕事は女性にとっても魅力的であり、その点に惹かれ入社を希望する、といったケースも増えてきた。配偶者の転勤等のやむを得ない理由で他県他社に移って働く元従業員から、自分のスキルの高さに気づいた、と言う声が届いたこともあり元従業員の活躍にも喜んだ。今では経営陣が「設計部に女性がいなくなったら、会社が成り立たなくなる」と考えるほどである。会社の要である女性従業員のライフイベントに備えて、常に厚めに人員を配置するなど、経営陣も工夫を重ねている。
「女性管理職」については、主任相当職は女性比率の高さに比例して、数名いたが、課長相当職は設計部で一昨年に初めて誕生した。
管理職に昇格させるかどうかは、各部署における必要性や専門性の高さ、勤務経験等を踏まえて決めるため、女性を管理職にすることを特別に意識した訳ではなく、責務を果たし、経営層に信頼された結果として、自然の流れで今回の管理職誕生となったという。しかし、昨今の女性活躍が世間で話題となっている風潮の中においても、外部に「当社の女性課長」と紹介すると驚かれると言うため、同業界においては先進的な取組であると言える。女性の継続就業による定着が実現できつつあるからこそ管理職も生まれた。同社が従業員とともに成長した好事例といえる。
2.「産休・育休・復職」に備えたフォローアップ体制の構築
同社も以前は、結婚を機にやむをえず退職する女性従業員が多く、なかなか定着しない時期もあったそうだ。理由は「全国展開している企業とは異なり、地域密着で事業を行っている」からであり、従業員が県外在住者との結婚や配偶者の転勤などによりやむを得ず退職するケースが多く、女性が定着しにくい理由の一つとなっていた。
また、少人数の企業であることもあり、今まで対象者がおらず、産休・育休の制度の取得実績がなかったが、昨年度同社にとって初めて従業員2名が産休・育休を取得し、復職している。結婚・出産後も仕事を続けてほしいという、旦代表取締役会長をはじめとする経営陣の思いが伝わり、女性従業員の意識の変化もあったと考えている。
従業員の産休・育休取得においては、事前に当事者及び部署内や人事担当等で協議を行い、休暇取得期間中の業務のフォロー等を準備し、復帰直前には総務部が中心となって復帰後の働き方(時短などの利用)を整備した。人事担当者にとっても行政手続き等、“初めて”の連続であり、苦労した点もあったそうだが、実例ができたことで企業内に「時短制度」などの両立支援制度が整備され、他の従業員も安心して働ける組織となった。
組織がコンパクトであるため、復職後の働き方についても個々の職種に合わせて柔軟に対応することができ、それを応援する企業風土もある。産休・育休に限らず、有給休暇の取得に関しても、従業員の実態を見て、常に見直しを検討している。大企業のように、あらかじめ整った制度はないが、従業員とのコミュニケーションを密に取ることによって、企業と従業員のお互いにメリットがある環境を構築することを強みとしている。こうした企業風土や柔軟な対応が、女性従業員の定着向上にもつながっているようだ。
3.3児を育てる女性中途採用者がリフォーム事業を展開し、
企業内ロールモデルに
「女性目線」「主婦目線」を活かして活躍する女性に、建設部リフォーム業務担当の田原さんがいる。田原さんは3児の母親であり、平成28年11月に入社した。
学生時代に建築関係の学科に学び、卒業後はリフォーム会社やCADオペレーターなどキャリアを積んだ田原さん。子育てと両立しやすいように、と派遣の道を選び、自身のスキルを活かしながら育児と仕事に取り組んできた。その子育てが彼女に新たなチャンスをくれたと話す。実は田原さん、子育てを機に、健康について興味を持つようになっていたところ、同社の建設部にいたリフォーム会社時代の先輩から声をかけられ、健康住宅という考え方に共感し、同社に入社を決めたというのだ。現在はリフォーム業務担当として営業・設計・施工管理から納品まで、お客様とのやり取り全般を担当している。(田原さんのキャリアヒストリーについては下記を参照)
リフォーム業務は一般的に土日や夜間の打ち合わせが多いため、育児との両立は難しいのでは?と思い尋ねてみると、お客様の昼休みの時間帯を利用したり、平日昼間の打ち合わせスケジュールを中心とするなど工夫し、業務をしっかりとこなせているという。
基本的には9時に出社・17時半には退社する。遠方のお客様を訪問する場合もあるが、子どものお迎えに間に合うように調整したり、メールや電話で大工さんと連絡を取るなど、最大限時間の有効活用を図っているそうだ。
自身の頑張りや工夫だけでは対応が出来ない場合もある。子どもの発熱時には、当日の朝に同僚に連絡して公休の振り替制度を活用するほか、一人で頑張りすぎないよう、夫や義理の母とコミュニケーションを取り対応する。また、学校行事等で土曜日に休んだ場合は、自身は日曜日に出勤し、夫が育児をする。「愛とお金は循環する」と考え、保育園の先生や家族に助けてもらいながら、子育てと仕事を両立させているそうだ。
また、夫と子どもの家事分担も当たり前。料理好きな夫が4割ぐらい食事を作り、食器洗いは子どもが担当。働く母の姿をみて、子どもも自然と成長している様子がうかがえた。
「家づくりにおいては、女性の意見に耳を傾けてもらう機会が多く、リフォームも女性目線が欠かせません。キッチンの導線や収納等において、子育ての経験が非常に生きていると感じます。当社の経営陣もそこを理解し、私に任せてくれているので大変光栄です。やりがいのある仕事を与えてもらえ、また家庭との両立を後押ししてくれていると心強く感じます」
と田原さん。
旦代表取締役会長をはじめ経営陣が、女性の活躍を理解し、「子ども、家庭を大事にせよ」とも言ってくれる。その言葉で家庭も仕事も頑張れるし、元気がもらえるとのことだ。
「担当のリフォーム部門を盛り上げ、事業を拡大していきたいです。今まで専任でリフォームを担当する人はいなかったので、私が最初の専任者として頑張っています。リフォーム部門が大きくなり、もし管理職としてのチャンスをいただいたら、ぜひチャレンジしたいです」
と語る、頼もしい存在だ。
◆田原さんのキャリアヒストリー
学生時代~社会人初期
・環境デザイン学科で建築関係の学科で学ぶ。
・卒業後はリフォーム会社の営業をしていたが、1人目の出産を機に退社。
1人目~3人目出産
・仕事を続けるためには子育てと両立しやすい事務職が良いと考え、専門学校に通い半年間CADの勉強に励む。
・派遣会社登録をし、CADオペレーターの派遣社員として働く。
・2人目の出産を機に休職。復職後に派遣された不動産会社の経理事務の仕事に就く。3か月後に正社員として採用されたが、3人目の出産を機に退職(3人の子どもの出産・育児の際は各1年ずつ育児休暇を取得)
同社入社~現在
・子育てを機に、健康について興味を持つようになったことから同社の「健康住宅」という理念に共感し、平成28年11月に入社。
・現在は、11歳、7歳、2歳の子育てをしながらフルタイムで活躍している。
●取材担当者からの一言
同社はかねてより女性の活躍を重視してきたが、女性従業員の定着や女性の管理職登用は近年やっと実現を果たした。女性の活躍を推進するためには、経営者の方針も大切だが、それと同様に、「結婚や出産を機に退職せず、仕事を続けよう」という女性の意識も重要となる。経営者の話を聞いていると、男女平等でありながらも、女性であることも大切にしてほしい、という優しいメッセージが伝わり、今後ますます女性が活躍できる企業になると感じた。
また、田原さんのようなワーキングママとなる中途採用にも着目したい。総務省「労働力調査(詳細集計)」によると、平成28年における女性の非労働力人口2,845万人のうち、274万人が就業を希望しているが、現在求職していない理由として「出産・育児のため」が最も多く、33.0%となっている(I-2-8図)。企業にとっては、幼い子供を持つ女性の採用は躊躇する部分もあるかもしれないが、同社は実務経験に加え、「女性目線」、「主婦目線」を田原さんの「強み」と捉え、採用している。田原さんのキャリアヒストリーには、出産等で一度退職した女性にとってもヒントがあると思う。例えば、「育児休暇中に資格を取得する」、「育児をしながらも興味を持ったことを調べる」、「人に積極的に会う」など、次のキャリアアップを考えながら日々を意識的に過ごすことで、自分も社会に出る自信がつき、企業側にもメリットがある採用が増え、結果的に就業率増加にもつながると感じた。
出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成29年版」
●取材日 2017年7月
●取材ご対応者 (インタビューご対応者)
取締役福社長 旦 壮之助氏
総務部 総務課長 本郷 雅明氏
会社概要
アイレストホーム株式会社
所在地:広島市中区中町9-9 アイレスト中町
URL:http://www.irest.jp/
業務内容:アイレストホームは、「家族の健康」「住まいの健康」「地球の健康」の3つの健康を大切にしたマイホームづくりを提案するハウスメーカー。本当に健康な住宅について真剣に考え、「音響熟成木材」「幻の漆喰」「清活畳」という3つのアイテムに注目し、これらをバランスよく使うことで、家自体が呼吸し、化学物質を分解し、すがすがしい空気をつくる快適で安全な住宅を提供している。
主に広島県、山口県、岡山県にて注文建築設計・施工、分譲住宅・不動産の販売及び仲介、健康住宅の研究・開発、宅地開発、分譲マンション開発、賃貸業を行う。
従業員数:34名
女性従業員比率:44.1%
女性管理職比率:16.7%
(2017年7月末現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)