陸の玄関口一新 広島駅周辺その③【スぺシャルインタビュー:サポーズデザインオフィス 谷尻 誠代表取締役】

広島経済レポート【2023年新春号】|広島駅周辺再開発

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新駅ビルの広場デザイン監修「予定調和」を意図的に崩す

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 広島の陸の「玄関口」が様変わりする。集約型都市構造への転換を掲げる広島市、西日本旅客鉄道(大阪)、広島電鉄(中区)は、駅南口広場の再整備や駅ビルの建て替えなどを進める。駅の周辺では、大手ホテルの出店計画や大規模な不動産開発の動きもあり、再開発が佳境を迎えている。

―建設中の広島駅の広場デザインを監修しました。

広島経済レポートサポーズデザインオフィス 谷尻 誠代表取締役
 広島は川が魅力的だ。私も以前は、好んで川沿いに住んでいた。デザインした広島駅の広場は大きなガラスから光が注ぎ、穏やかな川の水面のような移ろいを表現したいと考えた。
 変な言い方だが、きれいに仕上げ過ぎないようにした。整え過ぎるとそこには緊張感が漂う。細長い板を並べたルーバーは、サイズをあえてバラバラにしランダムさを演出。「あれっ」という良い意味での違和感を出し、意図的に「予定不調和」を「予定調和的」に作っていきたい。

―「駅を森にしたい」そうですね。

 今回はかなわないが、ずっとそう思っている。日本中どこに行っても駅は当然、駅らしい面構えをしている。でも駅が森のようだったら「なにこの駅?」となる。子ども連れを含め人は木陰のある場所に集まる。そういう自然環境をつくれば、交通の接続点という機能だけではなく、そこが目的地になれる。

―どうすればそれを実現できますか。

 運営者のマインドを変えるところから。建物を建てるときは当然、経済的視点で判断がなされる。例えば国立競技場も予算の関係で、英国建築家のザハ・ハディドの案は採用されなかった。しかし冷静に考えるとあの案で建てた方が世界中から人が訪れ、経済効果は大きかったはず。目の前の経済性ではなく、長期・総合的に考えると投資判断は異なる。
 一般的に建築士に事業を相談する人はいない。収益を生み出す仕組みまで考えられたら、その価値はさらに大きくなる。予算に口出しするには私たち建築士が事業を理解できないといけない。

―だから設計事務所以外に飲食など複数の経営に携わっているんですね。街づくりでの建築士の役割とは。

 本当は建物を建てる前と後ろも大切だと思う。ある程度方向性が定まってから発注を受けることが多いが、本来ならその前段階から携わりたい。後ろの部分は、完成後に人を集める、世の中に価値を伝える方法などを一緒に考えたい。例えば共用部に座る場所があれば機器を持ち込むだけでそこは映画館になる。建物という構造を考えながら収益モデルまでつくる。古びるのではなく、完成後に成長する建物なら再び人が訪れる。だから完成させないことが大切だ。さきほど運営者のマインドと言ったが、僕ら建築士がこういった役割を果たせるように頑張らないといけない。

―広島でやりたいことは。

 人が減っているのに建築面積が増えているのはおかしな話。この話題でよく話すのは、建物を壊さずに中間階を公園にする案。梁と柱を残して建物の中に屋外をつくる。風通しが良く、そこには違う景色が広がる。
 森の中に美術館があればとも思う。森を散歩していてモネに出会えたら感動的だ。その場所でしか体験できないものをつくりたい。

【プロフィール】サポーズデザインオフィス 谷尻 誠 代表取締役
1974年、三次市生まれ。suppose design office を吉田愛氏と共同主宰。広島と東京の2拠点体制。

広島経済レポート:2023年新春号