女性総合職の採用比率・管理職登用率を上げつつ、
働き方改革も進行中
復建調査設計株式会社
1.女性の総合職および管理職が少ないことを課題として認識
復建調査設計株式会社(以下、復建調査設計)は、国内外に40余りの拠点をもつ、西日本最大級の総合建設コンサルタントである。土木、環境、測量、建築等の専門技術を有する有資格者が中心となり、コンサルティング業務を提供している。同社では、総合職と、事務や技術系総合職の補助業務を行う一般職があり、管理職へと登用されるのは、総合職の従業員である。
現在、復建調査設計における非正規従業員を含めた全体の女性従業員比率は19.3%であるが、正規従業員の同比率は14.0%となり、さらに総合職のみで見ると6.6%と低い。総合職の女性従業員比率が低いのは、採用対象となる土木、建築、環境などを学ぶ理系の女子学生がそもそも少ないというのが理由であるという。
図1 復建調査設計における男女別従業員数と女性従業員の割合(取材時点)
復建調査設計は、女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画」を2016年3月に策定したときに「総合職の女性が少なく、女性管理職がいない」ことを、課題として認識し、取り組みを行ってきた。この結果、総合職の女性従業比率が15年には4.2%であったが、18年には6.6%と2.4ポイント増えた。また17年には同社初の女性管理職が誕生した。
2.ここ数年女性の採用比率を引き上げたほか、一般職から総合職への登用も
「当社は、総合職に関して従来から男女区別なく採用してきました。過去は土木系などを学ぶ女子学生が少なかったため、当社に入社する女性総合職もほとんどいませんでした。しかし最近は、土木系などを学ぶ女性が増えており、採用活動においても優秀な女子学生が目立ち、当社へも総合職として入社しています」と、來山経営管理本部長は話す。
17年度の「学校基本調査」によると、土木建築工学を学ぶ女子学部生比率は19.7%、同じく大学院修士課程においては22.4%となっている。
前述の「一般事業主行動計画」において、同社は「16年4月~21年3月の期間平均で、女性の採用割合を25%以上にする」との数値目標を立てた。そこで、リクルート用Webページにおいて、技術系総合職の女性が活躍する様子を掲載し、学校訪問にて先輩として働く様子を直接伝えるなどの活動を行ってきた。
この結果、13年度以前はほとんど女性の採用がなかったが、14年度以降は女性の採用が増え、15年4月以降は女性の採用比率が20%以上となり、19年度の内定含む4年間の平均としては目標の25%に達している(図2参照)。
図2 復建調査設計における新卒採用者の女性比率(一般職・総合職)
また、技術系総合職の補助業務を行う一般職は全て女性であるが、その中から総合職への転換も最近増えてきたという。
10年以上前は、主に理系以外の大卒の女性が一般職として採用されてきた。採用後、現場でのOJTや自学によって、知識や技術力を身に付け、総合職と同程度の業務が行えるようになる一般職の従業員が出てきた。中には、独学で一級建築士の資格を取得した方もいたそうだ。制度としては20年以上前からあったそうだが、ここ10年で一般職から総合職への登用試験にチャレンジし、見事合格した女性従業員が4名いる。
「かつて一般職は、結婚や出産といったライフイベントで退職する傾向にありました。しかし、社会的にも、社内においても女性が活躍する流れができてきたため、一般職の女性の中でも意欲をもって業務や自己研鑽を行い、総合職にチャレンジする人が増えてきたように思います」と、來山経営管理本部長は話す。
3.社内で働き方改革プロジェクトを発足、ハードは整備済みだが、課題はソフト
このように若手が増え、現在の女性総合職の平均年齢は28.2歳。これから従業員のライフイベントが多くなることが予想される。
「結婚、出産、子育てと両立しながら働き続けられる職場環境を実現することが、経営課題の一つとなり、中期経営計画にも盛り込まれました。そこで、その推進のために幹部や従業員で構成する働き方改革プロジェクトチームを設置し、傘下の『多様な働き方検討ワーキング』、『生産性向上ワーキング』において、17年から具体的な取組について検討を行っています」と、高橋祐司経営管理本部副本部長は話す。
各組織の30代を中心とする管理職手前の従業員が「多様な働き方検討ワーキング」のメンバーとなり、ライフイベントや多様な価値観に応じて無理なく長く勤められる会社への変革を果たすため、働き方改革プロジェクトチームに提案し経営層に対して働き方や制度の提言を行うこととなった。
「現在、提言内容がまとまりつつあります。時間単位の有給休暇制度は新規整備が必要ですが、実はワーキングで『こんな制度があったらよい』と出た案のほとんどはすでに整備されているものでした。制度があっても従業員が知らないから利用されていないだけなのでは、という結論になり、出産・育児に関する制度のハンドブックや、ワーキングからの情報発信などをしていくことを予定しています」と高橋副本部長は言う。
一方、管理職以上が参加する「生産性向上ワーキング」においては、時間当たりの生産性を上げ、長時間労働などの諸問題が解決された魅力ある職場への変革のための取組が検討されている。具体的な施策としては、11時?12時は「マイタイム」として、会議、電話、電子メールのチェックはせず、自分の業務に集中する時間とすることや、社内での電子メール文書の簡素化などが試行されている。また、過去のコンサルティング実績の検索システムを導入し、ノウハウを活用して業務効率を上げる試みも開始された。
「多様な働き方も、生産性向上も、実現のためには、制度やシステムといった仕組みだけでなく、従業員の意識改革が必要」と、來山経営管理本部長は話す。
17年度に、同社初となる女性管理職が誕生した。社会デザイン創発センター首席研究員の川上佐知さんだ。川上さんは、技術系の総合職として入社以来、順調にキャリアを重ね、仕事における男女差は意識することはなかったという。こうした例に続き、今の20代の女性総合職が育ち、管理職として活躍することが期待される。
取材担当者からの一言
近年採用した、20代の女性総合職の就業継続と育成が復建調査設計における課題だ。「多様な働き方検討ワーキング」で明らかになったように、就業継続のための制度、つまりハード面はすでにほぼ整備されていた。しかし、今後必要なのは、制度を利用しやすい風土の醸成といった、ソフト面の方だろう。その両輪で走っていくためには、トップが自らメッセージを発し、女性従業員だけでなく、現場の管理職層などへも、女性活躍の必要性について伝え続けていくことなどが必要になってくる。
また、「多様な働き方検討ワーキング」において「産休育休で長期間仕事から離れると、技術力が落ちてしまうのではないか。時短勤務をしつつも、技術者として成果を出せるのか。現場で行う打ち合わせや説明のための出張があるが、こなせるのか」といった声が出てきたそうだ。一般的によくある不安だが、女性自身の仕事に対するモチベーションのキープや、ライフイベント等に際しては、仕事をフォローしあう風土作りが重要だろう。というのは、これまで数多くの女性管理職への取材をする中で、女性自身が「仕事を続けたい」「キャリアアップしたい」と強く願えば、自ら技術力を維持するための努力、家族等の協力を得ての出張、時短ながらも成果を出すように工夫するなど、女性自身が動き、活躍している姿を多く見てきたからだ。しかし、そのためには、同社で初の女性管理職となった川上さんのように、20代での「仕事を面白いと思う経験」は不可欠だろう。
復建調査設計で、女性活躍のための「制度」の整備、「風土」の醸成、「能力開発」の3つが結実し、若手が育っていくことを願ってやまない。
●取材日 2018年12月
●取材ご対応者
復建調査設計株式会社
取締役常務執行役員 経営管理本部長 來山 尚義 氏
執行役員 経営管理本部副本部長 兼 安全衛生管理室長 高橋 祐司 氏
経営管理本部 総務人事課長 西岡 洋 氏
会社概要
復建調査設計株式会社
所在地:広島市東区光町2-10-11
URL:http://www.fukken.co.jp/
業務内容:道路や河川などの基盤整備や地盤環境、交通計画をはじめ、多彩な領域の建設コンサルタント業務を行う。総合的に対応できる“幅広い技術力”を強みとし、中国地方だけでなく、羽田空港の沖合展開事業、関西国際空港の埋め立て事業など、日本全国の数多くの大型プロジェクトに参画。1946年に戦後の国土復興を目指し、社団法人として発足した後、1960年に株式会社となり、現在に至る。
従業員数:623名
女性従業員比率:19.3%
女性管理職比率:0.4%
(2018年12月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)