従業員の成長に向け改革に着手
ノー残業デーを推進、効率化へ意識変わる
ヤスハラケミカル株式会社
取り組んだ背景
~ワンランク上の働き方の実現へ
府中市に本社を置く、創業70年の化学製品メーカー。育児休業や時間単位有給休暇、時短勤務などの制度を充実させ、社長と直接対話するミーティングを開くなど、先駆けて労働環境の向上に取り組んできた。有休消化や、終業後に速やかに退社する意識は高く、残業も少なかった。社長室室長の宮田英次氏は、
「何か直面する課題解決のためというよりは、世間で働き方改革という言葉が飛び交うようになった頃、さらにワンランク上の働き方を目指そうと、働き方改革に着手することになりました」と語る。
2017年10月の部門長会議で、「ノー残業デーの実施」と「有休取得率100%」という2つの方針を打ち出した。製造業として、生産性の向上が求められるのは当然だが、単に生産性を押し出す改革には限界があり、どこかで行き詰まると考え、時代の変化に合わせて改善を続けることができる「従業員の働きがいと働きやすさの両立」の実現を目指すことにした。
主な取組と工夫点
◆アンケートやヒアリングで意識調査、働き方改革の真の目的の浸透を図る
働き方改革の取組に関して、全従業員の意識を正確につかもうとアンケート調査を行い、できる限り個別のヒアリングも実施した。その回答には「残業代が減ってしまう」など、取組に対してネガティブな意見も多く、働き方改革に関する社長の真の思いが伝わってなかった。
当初、推進体制を決めないまま活動を始めたが、県の社内推進人材養成セミナーに参加したことがきっかけで、18年12月に事務局を置き、組織を明確化。管理部門で説明会を開き、そこで、働き方を変えるのは、何のためか、どうやったら実現できるのか、従業員自らが考え、成長してもらいたい、従業員の成長こそが企業の成長をもたらすという、働き方改革の真の目的を伝えた。同時に、働きやすさと働きがいを両輪で進めていこうと打ち出した。
◆ノー残業デーを推進、より効率的な働き方の推進に
具体的な取組として、ノー残業デーを先行して進めた。まず定型業務が多い管理部門に限定し、毎週金曜日に設定。当初、無理して帰ることに戸惑いの声もあったが、前日のうちに業務の優先順位を考え、効率的に働こうとする従業員の姿が見られるようになった。定時退社する従業員が増え、現在では管理部門以外の部署でも、自発的にノー残業デーを設定するなど取組が広がっている。
ISMS(情報セキュリティーマネジメントシステム)取得のための業務標準化を進める中で、特定の人に頼る業務の流れを減らし、誰でも業務をこなせる多能工化を進めていたことも、残業削減に効果的に作用した。
◆育休中でも公平な評価で利用促進
女性の育児休業制度の利用率は100%で、そのほとんどが、子どもが1歳を迎えるまで利用している。育児休業からの復帰率も100%を達成し、復職後は子育てのための時短勤務を可能にしている。
「男女の区別はしませんが、女性従業員への一定の配慮は必要です」と宮田氏は語る。人事考課では本人の業務姿勢や成績を重視することで公平な評価を行い、時短勤務者が昇進・昇格することもあり、制度の利用促進につながっているという。
そのほか、時間単位の有給休暇制度を10年から導入していたが、前日までに申請が必要だった。従業員からの要望もあり、19年度からは理由によっては当日の時間単位の有給休暇の使用を認め、働きやすさへの環境づくりも進めている。
◆従業員の幸せを追求する研修も
改革への意識を高めるために、従業員向けの研修会を定期開催。以前はマネジメントなど業務に関するスキルを高めるための研修が多かったが、幸福感など精神面を重視する内容の研修を実施した。宮田氏は海外のあるデータで「幸福度が高い人ほど職場での生産性が高い」ことを知り、外部講師を招き、まずは幸福学について学ぶ研修会を実施。働き方改革がなぜ必要なのか、従業員に「人生における幸福とは何か」という〝生き方〟を見つめ、人生観が変わり、働き方を変えるきっかけにしてもらいたいという。
取組の中で苦労したこと
~社内コミュニケーションを通して従業員の自主性の醸成へ
着手当初は盛り上がりに欠け、一部の従業員の反応は「何のためにするの」、「残業カットされるの」など、消極的なものだった。また同じ部署内では無駄を省く動きが広がっても、異なる部署間で協力しあう改革はほとんど進まなかったという。改革の浸透まで3年くらいはかかると事務局では考えており、「従業員のプライベートを充実させ、一人一人の働きがい、生きがいをみつけてほしい」という安原社長の思いを、ねばり強く発信し続けている。
取組の成果
~残業時間を着実に削減
従業員1人当たりの月平均の時間外労働時間は16年度の10.2時間から、17年度の9.2時間、18年度の8.5時間と、2年連続で着実に減っている。
もう一つの目標である「有休取得率100%」は、道半ばという。18年まで年4日間計画年休を設定していたが、19年度から計画年休を廃止。その4日間を会社の休日に改め、加えて有休消化をしてもらうには、さらなる工夫が必要だという。
課題や今後の目標
~自らが考えて行動できる社員教育を実践
生産性の向上に関しては着実に改善している一方で、効率だけを求め過ぎる経営には懸念があるという。すべての会議をテレビ会議に切り替えず、あえて直接顔を合わせる会議を残したり、社員旅行や会社行事、地域の清掃活動などにも積極的に取り組んだりしている。それが従業員の自主性や人間性の醸成、社内コミュニティの深化にも役立つと考えているためだ。宮田氏は、
「やはり大切なのは従業員をいかに大事にするかですね。自ら考えて行動できる従業員に一人でも多く育ってもらいたいですね」と語る。
従業員からの評価
生産本部
金藤 祐司 課長
2人目の子どもが産まれる11年7月から9月にかけて、2カ月間の育児休業を取得し、当社では初めての男性取得者になりました。1人目の出産から年月が経ち、妻が不安を抱えていたので申請しました。繁忙期の直後に育休を取ったため、業務をカバーしてもらう必要があり、業務マニュアルを作成して周囲の協力を得て実現しました。育休中は、それまでの残業が多かった生活から一変し、妻はもちろん、上の子どもも喜んでくれました。復帰後は午後4時退社の時短勤務にしましたが、この時短勤務中に課長に昇進できたのには驚きました。会社のさまざまな配慮に感謝しています。
取材日 2019年10月
会社概要
ヤスハラケミカル株式会社
所在地:府中市高木町1080
URL:https://www.yschem.co.jp/
事業内容:化学工業品の製造
従業員数:253人(男性197人、女性56人)
(2019年6月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)