女性従業員の定着と活躍が企業の伸びに
やる気が出る職場づくりに注力

株式会社キャステム

1.女性が活躍できる会社は働きやすいと考え、積極的に女性を採用。
製造現場にも女性を多く配置

 (株)キャステム(以下、キャステム)は、精密鋳造部品の製造販売が主軸のため、一般的には男性中心と思われるかもしれない。しかし、女性従業員が最も多いのは製造現場である生産部門であり、女性従業員の57%(25名)が配置されている。生産部門には、庶務業務と製造業務を半分ずつの割合で行う「製造事務職」と、ほぼ製造のみに関わる「製造職」の2区分の女性従業員がいる。製造事務職は売上データ作成や標準書類作成、日報の入力以外に、担当セクションの業務効率化(作業時間短縮)も担当する。女性従業員でも安心して仕事ができる製造現場となるよう、クリーンで危険が少なく、体力的な差をカバーできるよう、常にITの利用やロボット化などの現場改革がなされているという。また、販売にも女性従業員が21%と生産部門の次に多く配属され、女性従業員は幅広い職種で活躍しているようだ。

 

 


図1 各職種における男女別従業員の配置状況

 キャステムの新卒採用において、理系・文系といった学部は問わない。「常に目標を高く置き、失敗を恐れぬ勇気を持って行動する」という行動指針を実践できるかという軸で人を見ているそうだ。また、近年は採用者の半数を女性とすることを目標として、女性を戦略的に多く採用している。これは「女性が働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい」という考えに基づくもので、男女関係なく長く同社で働き続けるための改革を行っているという会社の自信の表れでもある。平成30年4月入社予定も含めて、過去3年間の女性の採用平均割合は44%であり、目標はほぼ達成できている。
 また、配属先にかかわらず、新入社員には入社後1カ月間の研修を通して会社への理解が深まるようすべての部署を経験させるなど、男女の区別ない人材育成に力を入れている。

図2 男女別新卒採用者数

図3 リクルートWebページにおいて女性が働く様子を積極的に情報発信

2.業績が伸びた分の利益は従業員の働きやすさ改善に使い、やる気を引き出す職場へ

 総務・人事担当の田村上席主任は「今いる従業員が当社で長く働くには何をすれば良いか、自社を誇りに思う従業員を増やすにはどうすれば良いか」を常に考え、改革に取り組んでいるという。その取組の代表的なものが以下の4つである。

 まず1つ目は、製造現場における改革。体力的な差があるといわれる女性でもものが作れる現場にすることを目標としている。例えば鋳造工程において溶解した金属を型に流し込むが、扱う金属が重く、高熱であるため、一般的には女性では難しいと考えられている。そんな工程であっても、危険をなくし、体力のハンディキャップをなくし、誰もが作業できるように改革しようと試みる。具体的には、インターンシップに機械科やシステム科などの地元の学生を招き、作業におけるリスクの洗い出しを行い、ITの利用やロボット化など、危険を軽減する対策を考えてもらうことを検討中だ。学生に大学等で学んだことをインターンシップで生かす場を与え、学びと仕事をリンクさせると同時に、仕事の理解をしてもらうことも目的だそうだ。

 2つ目は従業員の多能工化。1人が複数の領域の仕事を担当できれば、互いにフォローし合い、かつ、広い視野で業務を行える。例えば、総務課員は総務と人事の両方、製造現場における事務と製造作業の両方といった具合だ。複数業務を担当することで、部署毎で業務をカバーし合えるため有給休暇も取りやすくなり、急な製造要求などへも対応できる。この取組の成果として、子育て中の従業員の休みが取りやすくなったことで、結婚・出産を理由に退職する女性従業員はほとんどいなくなったという。

 3つ目は、給与や賞与アップ、年間休日数の増加、社員食堂の改修、制服・作業服の新調といった待遇や福利厚生の面の改善だ。売上高は、平成22年度の30億円に比べて、平成27年度は52億円と大幅に業績を伸ばしているが、儲けは内部留保よりも人材や設備投資のために使う方針であるという。総務課では従業員満足度調査を実施して意見を収集するとともに、モチベーションアップにつながる従業員のための待遇改善や設備投資を行ってほしいと社長に働きかけてきた。特に、多能工化や効率化の取組により残業を減らすと同時に、年間の所定休日の増加も交渉してきた。その結果、平成29年度の年間休日は109日であったが、平成30年度は120日とすることとなった。さらに、平成30年度は計画有給の取得とプレミアムフライデーも開始することを予定している。

 そして4つ目は、従業員からの提案や意見の収集。2年前から年に1度、戸田社長と女性従業員のみが出席する「女性会議」を開催している。例えば、同じ姿勢で作業をすることが多く、肩こり等の体調不良を訴える人が多いといった状況が報告され、「社内でヨガをしてはどうか」という意見が出た。その意見は実際に反映され、毎週水曜日に社内でヨガ教室が開かれることとなった。気分転換にもなり、心身ともにいい影響があると従業員に喜ばれている。
 また、年次で「改善発表会」を開催し、良い意見やアイデアは会社の施策に落とし込むようにしている。例えば、電話やメールからインターネットによるテレビ会議(スカイプ)に変更し、コミュニケーションの円滑化を図り、伝達ミス防止や説明時間の短縮、旅費等を削減した。また、最先端のデジタルツールをテスト利用し、超短納期で高精度な製品を作る実験を実施したり、原材料の再点検により不良率を低くしてコスト削減につなげたことなどが挙げられる。

3.20代女性に海外営業を任せ、第一線でのびのびと活躍

 女性管理職が定年に伴い退職したため、現在女性管理職はゼロであるが、将来の管理職候補となり得る人材はいる。例えば、中途採用で当社4年目となる海外本部主任の吉田さんだ。

 福山市内の高校を卒業後、アメリカの大学で経済学を学び、卒業後は東京の外資系人材紹介企業で働いていたが、福山へのUターンを考えて転職先を探していたところキャステムに出会った。吉田さんは、自分が会社を動かしているという実感が得られるような、スタートアップフェーズの企業を転職先として希望していたそうだ。当時、キャステムは、アメリカ支社を立ち上げる準備に取り掛かろうとしており、それを吉田さんが担当することになった。最初の半年は、現地で切削加工の工場を立ち上げる日本企業の手伝いをしながら、同社のアメリカ進出のためのリサーチを行ったそうだ。海外の展示会に1人で参加し、会社の宣伝や情報収集をし、ネットワーキングパーティーに出席するなど積極的に活動した。異業種からの転職にもかかわらず、いきなり1人で技術営業をするのは厳しかったのではと尋ねると、キャステムの新入社員研修時に製造現場で実際にものづくりを体験したことが非常に役立ったという。吉田さんはアメリカに長期間滞在し、営業活動等を実施したかったが、ビザが取得できなかったため、アメリカと日本を往復しながら業務に当たった。その後、同社のものづくりを宣伝するための商品開発部に移動して、グッズ開発に従事した。例えば、すべて本物のように動く11種類のミニチュア工具が入った名刺入れ「MINIATURE TOOL SET(ミニチュアツールセット)」や、広島東洋カープの本物の赤ヘルメットを「3Dスキャン」したデータを元にキャステムの鋳造技術により商品化した錫100%のぐい呑み「赤ヘル呑み」などを製造販売している。名刺の右上にミニチュア工具を入れることを考えたのは吉田さんだそうだ。シリコンバレーのネットワーキングパーティーにいくと、他者と差別化し、目立つために工夫を重ねた名刺を受け取ることが多々あったそうだ。そこで、同社の技術を伝え、覚えてもらうために考えたのだという。

図4 ミニチュアノギス入りの名刺
 アメリカでは日系のものづくり企業において、女性の営業職は珍しく、しかも吉田さん自身も若い女性には出会ったことがないという。すぐに覚えてもらえるメリットを感じる反面、ビザが取得できない要因と感じることもあるそうだ。しかし、吉田さんはキャステムの技術を世界に届けたいという強い思いで精力的に活動しており、海外営業のパイオニアとして活躍し、そんな見方を変えるパワーを持った女性であると感じる。「出る杭は伸ばす」人材育成方針で、やる気、能力がある人材には年齢・性別等に関係なく、仕事をどんどん任せていく、そんな同社の姿勢がうかがえた。

◆吉田さんのキャリアヒストリー
学生時代~社会人初期
・福山市内の高校を卒業後、アメリカの大学で経済学を学ぶ。
・卒業後は東京の外資系人材紹介会社で人材コンサルタントとして2年間働く。

2013年~
・福山へのUターンを考え、スタートアップ企業に絞って転職活動を行い、キャステムに入社。営業部に所属し、アメリカ支社の立ち上げ準備のためのリサーチ、海外の展示会等での営業活動を行った。

2015年~
・商品開発部に異動し、書籍やグッズの開発、販売業務に携わる。
・現在は海外本部の主任として、海外での営業を担当。学会や会合に出席して人脈を広げたり、業界のトレンド情報を社内に伝達する役目を担っている。

取材担当者からの一言

 現在は、女性管理職がゼロであるキャステムであるが、話を聞いた2人によると、役職がなくても自分が意見を発し、良ければ実現していく社風であるため、職位にはあまりこだわっていないそうだ。それぞれの考え、生き方を尊重して能力を発揮してもらいたいため、無理やり役職を与えない方針なのだろう。人材の多様性によって、様々な価値観を持った人間が考え、行動し、能力を発揮することによって、イノベーションが起こり、会社が発展していくことが1つの大きな流れであるならば、役職にこだわらずそれを実現するといったこともあり得るのではと、新たな気付きを得た。

●取材日 2017年10月
●取材ご対応者(インタビューご対応者)
経営管理部 経営管理係 総務S 上席主任 田村 晃宏 氏
海外本部 主任 吉田 瑛 氏

会社概要

株式会社キャステム
所在地:福山市御幸町大字中津原1808-1
URL:https://www.castem.co.jp/
業務内容:キャステムグループは精密鋳造部品の製造販売を主軸として、国内及び東南アジア圏、南米、北米に事業展開するグローバル企業である。ロストワックス製法・メタルインジェクション(ミム/金属粉末射出成形法)製法という技術で、電車車両・印刷機・産業用自動機・医療機器等で利用される様々な精密部品を各方面に提供している。1991年メタルインジェクションの特許をアメリカで取得。自社開発で製法を完成させたのは当社が先駆けとなる。金属の分野で化学技術を取り入れ、開発研究に注力しているという点で、際立つ存在感を持った会社として注目されている。
従業員数:237名
女性従業員比率:26.6%
女性管理職比率:0%
(2017年7月末現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com