意識改革から始まる働き方改革
『トップが動く』と働き方が変わる、会社が変わる

広合化学株式会社

取り組んだ背景
 ~働き方改革を機に、経営全般の改善活動に展開

 

 大竹市で自動車部品を中心とするプラスチック製品を製造する。36歳の末廣天佑氏は、先代の父親から代表取締役を継ぎ、2019年で6年目となる。当初、自身よりも技術や経験が豊富な年長の管理職に囲まれながらの経営は、何かに疑問を感じても口に出しにくい状況だった。一方、他の役員や管理職も、さまざまな経営課題があることは認識していたという。業績が好調なうちに、制度整備や足元からの経営改革を実行したいと考えていた時、従業員が偶然持ち込んだチラシで、広島県の「働き方改革企業コンサルティング事業」を知った。末廣氏は外部の専門家の視点が入ることでさまざまな改革を進められると感じたという。
「改革に対して『そんな時間をどうやってつくるの?』『誰がやるの?』という声は確かにありました。しかし、『やると決めたことはやる』と思い切って着手することにしました」

 

主な取組と工夫点

◆トップダウンではなく「トップがまず動く」
 改革にはボトムアップが重要だと考えていた末廣氏。しかし、ワークショップなどで促すだけでは、単発のイベントで終わりかねないと考え、「トップがまず動く」ことで従業員の意識を改革することから、働き方改革に着手することにした。社長自ら率先して毎朝トイレを掃除、時には従業員に代わって製造ラインに入るなど、経営者自身が変わろうとしている姿勢を見せることで本気度を伝え、改革を推進するための土台づくりを行った。また個人単位での作業が多く、従業員との交流や意見交換を行う場を設けにくかったため、社長室から事務所に席を移し、末廣氏から従業員一人一人に問いかけ、業務改善についての意見を集めた。現在では従業員が管理職に気軽に話しかけ、意見やアイデアを共有できるようになった。

◆従業員の要望に応え、現場の環境改善に迅速に着手
 現状把握のため行ったアンケートやヒアリングで要望の多かった、工場で働く環境改善にも迅速に着手。現場のリーダー層が参加していた既存の「5S委員会」を、社長が議長を務める運営体制に見直した。送風機やファン式ユニホームによる暑さ対策、機械・設備の改修・保守による粉塵対策、掃除の体制や置きスペース確保による業務効率化など、変化を感じてもらえる現場改善を矢継ぎ早に実行したことで、会社への信頼度も高まり始めたという。

◆ボトムアップ型の業務改善
 従業員が働き方改革への意識を持ち始めたタイミングで、若手によるボトムアップ型の業務改善を展開。それまでホワイトボードに手書きしていた出勤・出荷スケジュール管理に専用ソフトを導入し、工場内や休憩室で常に確認ができるようにした。これによりタスクから事務連絡、有給休暇取得のアナウンスまで、さまざまな情報の共有がスムーズになり、業務の効率化に成功した。

◆制度導入で働きやすさと働きがいを向上
 半日単位の有給休暇や時差出勤などの制度を就業規則・育児介護休業規定で明確化し、印刷した就業規則を休憩室にも置いて、従業員がいつでも気軽に確認できる環境を整えた。同時に、従業員の不公平感を払しょくするため、新たに能力評価基準を明確化したほか、正社員登用制度も新設した。

取組の中で苦労したこと
 〜意識が変わらなければ、働き方改革は進まない

 「製造業はマニュアル通りに行うことが求められる仕事なので、自分で考える作業に慣れていないんです」と末廣氏。
個人単位の作業が多いため「チームで問題提起を行う」というボトムアップの図式は、とりわけハードルが高かったという。さらに、全員で話し合ったり、意見を集めたりする時間をつくるには、業績に直結する製造ラインを止めなくてはいけないという別のハードルもあった。
「従業員が主体的に取り組むことがいかに重要であるかを理解してもらうことに、一番苦労しました。従業員の意識改革がなければ、経営者として本当の意味での働き方改革は行えないと考えています」 

取組の成果
 〜「働きやすさ」と「働きがい」が結実

 就業規則の改定や、管理ソフトでの情報共有により、年次有給休暇の取得率は60.9%と前年度の46.2%から飛躍的にアップ。さらに、新たに策定した正社員登用制度を利用し、パート従業員から正社員になった従業員も。「働きやすさ」と「働きがい」の両面から従業員のモチベーションの向上につながり、実際に生産性の向上にも結実している。
「今では従業員の皆さんが進んで提案をしてくれるようになりました。『社長とこんなに話せる会社は無い』と言ってくれる従業員もいます」

課題や今後の目標
 〜教育を充実し、従業員とともに成長する新たなフェーズへ

 「今後もずっと同じ事業だけで生き残っていけるとは、思っていません」と末廣氏。
実際に、取組期間中に、自動車メーカーが部品を「プラスチック」から「ゴム」に変更することを決めるなど、経営環境は刻々と変化している。そのため、従業員たちが進んで取り組む改善運動をバックアップし、業務の効率化を促進、さらにIoT導入によるオートメーションを推進することで生まれる時間的余裕を従業員教育に充て、新しい事業の開拓にも取り組んでいくつもりだという。
「今回の改革で、従業員は『自分で考え行動する』という『技術』を身に付けたと思っています。その技術を、『皆で会社を経営していく』という思いの実現に使ってもらえれば」と目を輝かせた。

従業員からの評価

製造課 品質保証
石岡 辰夫 係長
 ちょうど2人目の子どもが生まれ、家庭と仕事のバランスについて考えていた時期でした。男性として育児休暇や時差出勤を利用できたのは、この改革のおかげです。もともと助け合う社風がありましたが、育休中は職場の皆さんのフォローにも助けられ、妻にもとても感謝されました。また従業員の交流が増えたことで、社内の雰囲気も良くなりました。改革前と後で、歓迎会で行うバーベキューへの参加人数が倍増し会場に入らないといううれしい悲鳴も。業務に関しても管理職に「ここを改善してほしい」と、皆が遠慮なく伝えるようになりました。情報共有に新たなITツールが導入されたり、熱中症対策に保冷剤が常備されるようになったりと、不満に思っていたことが次々と改善され、さらに働きやすくなったと感じています。

取材日 2019年9月

会社概要

広合化学株式会社
所在地:大竹市東栄1-13-26
URL:http://hirogo.co.jp/
事業内容:プラスチック製品(自動車部品など)の製造
従業員数:54人(男性32人 女性22人)
(2019年8月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com