採用は未経験者のみ、パート従業員からも
管理職・執行役員を育成する型破り経営で確かな成長
ペアコム株式会社
1.プライベートと仕事の両立を支援し、女性従業員比率は全国水準の約3倍に
ペアコム株式会社(以下ペアコム)は、漏電ブレーカーの電子回路をはじめとする電子機器・電気部品の製造を行う企業である。女性従業員比率は87.1%であり、これは製造業における全国平均の30.0%(※1)と比べると実に2.9倍。女性管理職比率は71.4%となっており、これも全国平均の8.4%(※2)と比べて8.5倍であり、電子部品製造業においては大変珍しく、女性が大いに活躍している企業といえるだろう。
図1 業種別の女性従業員比率・女性管理職比率、ペアコムとの比較
※1 出典:総務省統計局(2016年)
「労働力調査 長期時系列データ 表5 第12回改定日本標準産業分類別就業者数」
※2 出典:厚生労働省
「平成28年度雇用均等基本調査 図9 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員含む)(企業規模10 人以上)」
また、パート、アルバイトといった非正規従業員(以下パート従業員)が全従業員の84.2%と多いのもペアコムの特徴だ。というのは、勤務時間を8時55分~15時30分(内休憩は65分)とし、土日祝日、ゴールデンウイーク、夏季、年末年始は休み、かつ保育所・学校行事・通院などの家庭の用事を優先させ、プライベートと両立して働きやすい勤務環境を打ち出し、人材を募集してきたからだ。
その結果、子育て中のパート従業員が多く、常に産前産後休業・育児休業を取得中の従業員がいるという状況が続いているため、対応できるように人員を確保している。さらに、働き方改革を推進し、生産性を向上させるなどの取組により、魅力ある職場環境づくりを実践しており、18年1月第2回働き方改革実践企業認定を受けている。
2.女性パート従業員から次々に正規従業員や管理職へ登用
執行役員製造本部長兼工場長の日谷日砂美氏をはじめ、女性管理職としては、製造現場に女性の課長が3名いるが、全てパート従業員から正規従業員、そして管理職へと登用されている。ペアコムでは、このようにパート従業員の中から優秀な人材を正規従業員、また管理職へ登用する方針であるという。
図2 ペアコムの組織図と女性役員、女性管理職配置状況
「過去は、製造現場の管理職として男性従業員を中途採用・配属したこともありましたが、うまくいきませんでした。当社のパート従業員は効率的に作ること、不良率を極限まで抑えて品質にこだわること、利益を追求していくことなどを日々真剣に考えてくれています。そんなパート従業員が成長し、リーダーや管理職になっていく方が、現場がうまく回るようです」と、梨木弘美専務取締役は話す。
時には不良品が発生してしまうことがある。そういった事態が起きた場合は、二度と同じ要因で不良品を発生させないための対策を考え、発注元である取引先に「不良対策書」という報告書を提出しなければならない。そんな時は、自然と輪になってパート従業員が真剣に議論する姿、周囲の人に相談する姿が見られるという。そして、何度も何度も考えて議論を重ね、報告書を書き直し、社長、そして取引先へ提出する。
また、ペアコムには全従業員が収支を改善する方法を考える社風もあるという。パートを含む全従業員が会社全体の利益、課ごとの年次、月次、日次の利益状況を理解し、改善する方法を日々模索し、どの部署も切磋琢磨している。
梨木健太郎社長も、
「従業員には現在の会社の状態を分かりやすく説明するようにしています。会社の利益が上がることで従業員の待遇改善に直結していることを実感しているからか、一人一人の従業員が収支を改善しようという意識を持ってくれているようです」と話す。
同社は、収支状況などの重要情報を経営層だけでなく全従業員に伝え、共有することを徹底している。月の第1営業日の経営幹部会議にて、前月の全社および各部署の売上、投入工数、外注費など、収支の状況を把握し、第2営業日の全体ミーティングでは、収支だけでなく、品質関連情報、生産計画や報告連絡事項などが全従業員に伝達される。また、全従業員に配布されたノートパソコンには、当月分の収支計画や前月分の収支実績等が配信され、情報が各自の手元に残るようにし、「そんなことは聞いていません」ということにはならないよう、徹底的にコミュニケーションを育んでいる。
では、なぜ一般的な時給であるペアコムのパート従業員が収支を理解し、「世界一のダントツ品質」と「収益の向上」を目指し、製造現場の「カイゼン」を考え、主体的に行動し、経営の根幹を支え、正規従業員、管理職さらには経営幹部へと成長できるのだろうか。その秘密を経営陣に尋ねた。
3.未経験者の採用から、やる気に満ちたパート従業員を育てる教育の秘密
ペアコムの、製造現場に配属するパート従業員の募集に際しては、その条件がユニークだ。
「申し訳ございませんが、ハンダ付けの経験がある方はご遠慮ください。未経験者のみ採用しています。応募にあたって、電気の知識も製造の経験も必要ありません。入社が決まってから、丁寧にご指導いたします」とある。
これを採用条件とした理由について、梨木弘美専務はこう話す。
「今まで、いろいろな方を採用しましたが、他社で経験がある方はどうしてもうまくいきませんでした。むしろ初心者で、先入観なく、素直に当社のやり方を学んでいただける方の方がいいという結果になり、今は未経験者のみを採用しています」。
また、採用に際しての重要なポイントが、ペアコムの「より良いモノづくりはより良い人から」という、理念を理解してくれるかどうかだと話す。
なぜならば、作業過程は人の手によるものが大半で、人材の差がそのまま品質に表れるため、人材教育に特に注力しているからだという。
例えば、毎月配布されるテキスト(写真参照)を利用して表現力を磨いたり、コミュニケーション力を高めたりすることを意識した「13の徳目朝礼」の時間には、「お客様は、どのようなときに“ありがとう“と言ってくださると思いますか?」というような問いに対して、従業員が自分の考えを発表する。その他、マネジメントゲームを利用した経営感覚の育成、社内の「12の委員会」による各種勉強会がある。
12の委員会では、経営雑誌を用いた他社事例の勉強会や技能検定のための研修(圧着・スポット・ハンダ技能など)、ITスキルの習得など、幅広く中身も濃い教育がパート従業員も含めた全従業員へ用意されている。しかし、一般的に教育の機会が会社から与えられているからといって、必ずしも従業員が熱心に取り組むとは限らない。
ペアコムでは次のような動機付けを行っているという。
1つ目は「勉強は、自分の人生を豊かにする。仕事にも家庭にも生かせる知識が身に付く」ということを、伝え続けていることだ。2つ目は、02年から導入した「研修ポイント制度」だ。研修を受けるとポイントが付与され、それに応じて報奨金が支払われる。
「勉強したら自分のためになるだけでなく、ボーナスももらえるというのが効果的なようです」と、梨木健太郎社長は言う。
これにより「全従業員が学ぶ」という社風が醸成され、ペアコムの競争力の源泉になっているようだ。
取材担当者からの一言
「パートの戦力化」は随分前から叫ばれているが、ペアコムの管理職や工場長がパート従業員出身であったことを聞いて、正直大変驚いた。加えてパート従業員が研修に取り組み、経営感覚を身に付け、会社全体のことや顧客のことを考えて行動していると聞き、「採用方針」や「育成方針」が全従業員に浸透していることがうかがえた。
全従業員の意識を改革することに成功した秘訣は、『勉強すると人生が豊かになり、家庭生活や子育てにも大いに役立つ』と実感したり、仲間と共に考えたり、苦しんだり、達成したときの喜びを分かち合うことでモチベーションが上がった経験にあったようだ。もちろん、勉強した分、報奨金がもらえたり、収益が上がると待遇が改善されたりというメリットもあるだろう。
「“社員の幸せを追求し”、という一文を経営理念に加えたことで、ますますうまくいくようになったと感じます」と社長は言う。現在は「全従業員で東京ディスニーランドに行く!」ことを目標に、さらなる収益アップに全員で向かっている最中だそうだ。
女性パート従業員を擁する企業は多いが、ペアコムのように育て、活躍する場を与えることができるなら、広島にいきいきと輝く女性がもっと増えることだろう。
●取材日 2018年8月
●取材ご対応者
ペアコム株式会社
代表取締役 梨木 健太郎 氏
専務取締役 梨木 弘美 氏
経理総務担当 梨木 彩加 氏
会社概要
ペアコム株式会社
所在地:福山市駅家町倉光134-1
URL:https://www.peacom.co.jp
業種:製造業
業務内容:電子機器・電気部品の製造を行うペアコム株式会社は、1985年に漏電ブレーカーの電子回路の製造を主体に業務展開を始めた。「社員の幸福を追求し、より良いものづくりで社会に貢献します」という経営理念のもと、「より良いモノづくりはより良い人から」という考えを重視して、人材育成に力を入れ、「世界一のダントツ品質」を目指している。社名は、「お客様と私達が一対(pair)の双方向のコミュニケーションを育む。社内にあっては、社員同士が一対(pair)の双方向のコミュニケーションを育む。」という”pair communication”という考えが由来のひとつであり、コミュニケーションを大切にしている。
従業員数:70名
女性従業員比率:87.1%
女性管理職比率:71.4%
(2018年9月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)