時代に合わせて必要と思われた変化には臆さず挑戦

深川医療器株式会社

1.事務業務を共通化することで、育児休業と短時間勤務を利用しやすい環境に

 深川医療器株式会社(以下、深川医療器)は広島市西区に本社を置き、車いすや医療・福祉用具を中心とした身体が不自由な人が利用する補装具事業や福祉用具のレンタルおよび販売を行う。   

 深川医療器の女性社員は主に本社や営業所において、伝票作成、請求書発行、電話対応、資料作成、お客様の対応などを中心とした事務を担当している。2019年1月時点で、女性の係長は2名(同社において20%)であり、事務部門のリーダー的存在として活躍しているという。 

 深川医療器の特徴として、結婚や出産といったライフイベントによる退職が少ない点が挙げられる。10年頃、福山営業所の女性社員が育児休業を取得して復職したことを皮切りに、風土が徐々に醸成されてきた。復職時には拠点長が社員と話をし、本人の働きやすさに配慮して、法律の範囲内で勤務時間帯を調整する。例えば、通常の勤務時間は8:30~18:00であるが、社員の希望に応じて8:30~16:00や8:30~17:00などと勤務時間を調整している。社員によっては、勤務時間をさらに短くすることを希望して、パートとして復職する場合もあるという。
 現在は2名が育児休業中であり、育児中の女性社員5名が短時間勤務制度を利用している。 

 事務の係長として活躍する澄川清香さんは2児の母であり、短時間勤務を利用する1人である。係長として育児休業を1年半ずつ取得したが、取得時には長期間業務を抜けることに対しての不安や葛藤があったという。
「私が一人減り、今いる限られた人数で業務を回せるのだろうか、という不安がありました。しかし、他の課からの増員や同僚のサポートのおかげで何とかなりました」と澄川さんは言う。
現在、深川医療機器における事務業務は標準化され、複数で担当しているため、事務職の誰かが急きょ休んでも、業務をフォローする体制ができているという。社員同士が助け合い、カバーし合う雰囲気があることも、育児休業や時短勤務を利用しやすい理由の1つではないかと澄川さんは言う。 

 業績が好調である現在、事務作業も増え、人員不足感があるという。そこで、長年カスタマイズを重ねながら利用してきた基幹システムを刷新し、業務効率化を図ることを予定している。有給休暇取得者や時短勤務者が重なるなどしても、対応できるようにしたいと、同社は計画している。

「係長として働く中で、社員が抱える問題などを一緒に解決できたときに喜びを感じます」
と話す澄川さんの今後の目標は、基幹システムの入れ替えを滞りなく進める事、それと同時に業務改善を行う事で今より働きやすい環境を作ることだという。  

2.自社製品を利用する視点を持つ障害者の採用にも積極的

 深川医療器では、自社製品のユーザーで身近な存在でもある身体障害者を積極的に雇用し、現在は事務職で1名、営業職で3名が活躍している。かねて、車いすを実際に使用する立場で、顧客のニーズに対応ができる人材の必要性を感じていた。そこで、04年の福山営業所の増改築に伴い、社内外のバリアフリー化を進め、採用にこぎ着けた。本社でも段差解消機を要所へ設置することで、車いすでも仕事しやすい職場づくりを実現している。

 営業を担当する社員は、運転補助装置付きの営業車を利用して取引先へ向かうなど、主に1人で行動するという。急な斜面にある顧客への荷物搬入といった、車いすでは困難な業務は、他の社員が担当するなど、無理なく分担もする。

 障害のある社員が身体面でも気持ちの面でも働きやすい職場にするために、本人と対話を続け、障害のない社員に対しても障害者に対する目配り、気配りが自然にできるよう意識付けをし、風土をつくってきた。「できないだろう」「できそうにないから」と障害のある社員を手助けすることは簡単だ。手を貸せば、業務も早く済む。しかし、不親切なようでも障害のある社員本人が挑戦し、自分でしようとしていることをあえて手助けしない勇気もまた必要だと深川医療器では考える。それは見て見ぬふりや無関心でいるということではなく、相手を気にかけ、気を利かせるという配慮であるそうだ。 

3. 女性営業、男性の育児休業取得と前例にない実績も続々と

 事務職は女性社員、営業職は男性社員が大多数を占める中、18年に営業職として女性社員を中途採用した。障害者支援施設で生活支援員としての経験や知識を持つため、取引先を訪問し、レンタル機器の利用状況を確認するモニタリング(※3)を担当している。営業職を募集しても、女性の応募がほとんどないのが現状だというが、適任者がいれば性別に関係なく、今後も採用を進める方針である。 

 また、深川医療器では若手の社員が多く、子育て中の共働き家庭も多いため、女性だけでなく男性の育児休業取得を推奨した結果、初の実例が誕生した。ある営業の男性社員が、19年1月末より5日間の育児休業を取得したのだ。営業を担当する社員が休みとなることについて、現場では少々戸惑いもあったというが、“社員の家庭のため、働きやすい環境整備のために”との深川医療器の方針もあり、取得にこぎつけた。   

深川医療器では広島県の「いきいきパパの育休奨励金(※2)」制度を利用することを検討しており、同制度を利用して、今後とも男性の育児休業取得を推奨し続けるという。  

 このように深川医療器では、少しずつ時代に合わせた多様化を進めている最中で、とりわけ女性活躍について、広島県の「平成30年度女性活躍推進アドバイザー個別支援事業」を活用し、女性管理職の登用に向け、女性社員のキャリアアップや就業継続などの取組を進めようとしている。そこには、少子高齢化が進み人材の確保が難しくなっていくなかで、女性活躍は会社の永続・発展に不可欠であるという深川医療器の人材活用の方針がある。今後、深川医療器がどのような発展を遂げるか、楽しみである。 

※2 育児休業等を取得しやすい職場環境の整備を支援するため、男性社員が1週間以上の育児休業等を取得した中小企業等に奨励金を支給する制度
※3 定期的に取引先へ赴き、貸し出しているレンタル品の点検やサービスを提供する  

取材担当者からの一言

 深川医療器では、ライフイベントがあっても女性社員が定着する風土が定着しているようだ。事務職は女性社員、営業職は男性社員という意識が社内にあったようだが、性別を問わず個々人の能力に見合った役割分担と育成をさらに行うと、各社員の能力のさらなる発揮につながるのではないかと感じた。設備投資(ハード面)や業務分担、社員の意識改革(ソフト面)の環境整備の結果、身体障害者の雇用をして人材の多様化を進めたように、管理職や各役割についても多様化が進むことを期待したい。   

●取材日 2019年1月

●取材ご対応者
深川医療器株式会社
代表取締役社長 深川 竜 氏
事務 澄川 典彦 氏
事務 澄川 清香 氏

会社概要

深川医療器株式会社
所在地:広島市西区商工センター 4-15-17
URL:https://www.mc-fukagawa.co.jp/
業務内容:広島市西区に本社を置き、車いすのオーダーメード、医療・福祉用具の販売、介護保険による福祉用具のレンタル、住宅改修等を行う。福山市と呉市に営業所を持ち、顧客のニーズに応じた製品やサービス展開に尽力している。
従業員数:90名
女性従業員比率:34.4%
女性管理職比率:0.0%
(2019年1月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com